Cadetto.jpのロゴ画像

コロナ禍の留学 フランス編(その2)
“かぜ”が流行したビジネススクールの対応は

2022/03/22
崎長ライト

 新型コロナウイルスの感染対策は、国によって全く異なるようだ。
 中国はゼロコロナ政策で、ベトナムも厳しい政策によって感染を抑え込んできた。英国や米国の対策はかなり緩いようだが、感染者数はあまり減らない。
 富士通総研は「コロナの発生状況の国際比較:何が差をもたらしているのか?」というリポートの中で、「新型コロナウイルス感染症の感染者は独裁制度では民主制度より少ないか?」という仮説の検証を試みている。
 そのリポートの図表5では各国の民主化指数と新型コロナウイルス感染症の人口10万人当たりの感染者数(累計)の偏差値の関係を示している。それによると、民主化指数(0~10)が約2と低い中国では、感染者数の偏差値は約57と高い。民主化指数が下がると、感染者数の偏差値が上がり、政治体制が独裁制度に近い国ほど、感染者が少なくなる傾向があることが分かる。
 日本の民主化指数は8程度で、感染者数の偏差値が54くらいだから、まずまずのところに位置している。フランスは……と見てみると、民主化は日本と同等で8程度だが、偏差値は34と低い。民主化指数が高い国では感染者数の偏差値はばらついていて、中国やベトナムでも最近は感染者数が増えているようで、さらに分析が必要な仮説だが、この予備知識を持って、フランスのコロナ事情を考えてみたい。

 その事情を話してくれるのは、臨床研修1年目の途中で欧州経営大学院(INSEAD)に留学した白髭浩之君(前回参照)。できればZoom飲みと行きたいところだったが、時差もあって、終始まじめなインタビューとなった。なお、白髭君は感染症の専門家ではないので、フランス在住の日本人医師の感想として読んでもらえれば幸いだ。(インタビュ―は2022年1月から2月にかけて複数回実施)

陽性者は自主隔離、濃厚接触は1日だけ隔離

 白髭君は2021年8月にフランス入りした。
 その頃の新規陽性者は1日2万人くらい。それから徐々に減って10月頃は3000人以下。その後、徐々に増え始めて、白髭君が進学した大学院でも2度ほど、“かぜ”が流行したという。
「おそらくコロナだったと思うんですが、パニックになることはありませんでしたね。普通に対面授業を続けていました。症状が出たり、濃厚接触者になると学校から渡されたキットで鼻から抗原検査していました。買えば、500円くらいですね。学生は学校の受付で無料で入手できます。濃厚接触になったら、1日だけ休み(隔離)。陽性者はもちろん登校できませんでしたが、ゆるかったですね。熱が下がって陰性になるまで、自宅で自主隔離という感じでした」

― 日本では考えられない緩さだ。保健所の調査とかはないのか?
「そうですね、ありませんね。抗原検査陽性者は、検査機関で無料のPCR検査を受けます。陽性の報告は来ますが、濃厚接触者などの調査とかもありませんでしたね。陽性者数の報告は国に行くのでしょうが、誰が感染したといった報告に関して、国との連携はなさそうです」

― やはり、フランスは自由の国と言われるように、国からの統制を嫌うのか?
「おそらくそうです。日本のように統制されてないし、個人の人権意識が強いですから、そうなるのでしょう。感染症に対する根本的な考え方の違いがあるような気がします。ワクチンを打っても感染するんだから、しょうがないなあ……という感じの人もいるし」

白髭君のワクチン接種証明書。3回接種済みであることが証明できれば、飲食店などに入店できる。

― それは、コロナとの共生、ウイズコロナという考え方なのか?
「フランスに滞在してまだ数カ月なので、こちらの事情を語れるほどの見識はないと思いますが、日常生活を通して、ウイズコロナ的な行動様式を感じますね。例えば、レストランに入る時にはワクチン接種証明、あるいは48時間以内のPCR陰性証明のQRコードをスマホで表示して、店員がスキャンします(写真)。それが済めば、マスクを外してOK。座席数、営業時間帯、飲酒の制限などはありません。自宅やお店で、フツーに忘年会(?)などをやっていましたね。一方で、QRコードを確認できない客は絶対に入店できない。また、店側に行政からの抜き打ちの査察もあると聞いています。厳しい面もあります」

― 日本の一部でも社会実験としていろいろやっているようだが、ほとんどの地域で時間や席数などの制限がある。マスクについては、どうなのだろうか?
「屋外では原則として外してOKですが、屋内ではマスク装着は義務ですね。ここは案外厳しい」

― フランスはオミクロン株の影響で、2021年12月に入って陽性者数は1日7万人、1月には10万人以上、30万人以上と感染が拡大してきた。
「だんだん緊張感は出てきていますが、今のところ(2022年2月時点)医療崩壊は起こっていませんね。今後は分かりませんが、崩壊を食い止められているのは、ウイルス側の要因や医療者側の経験の蓄積があると思います。僕は、かかりつけ医を持つシステムも要因に挙がると考えています。普段からかかりつけの総合内科医のところに通うシステムが確立しており、日本と比較して検査などの医療資源を効率的に活用する仕組みができているのでしょう。発熱などの症状が出ても、まずはかかりつけ医に行く制度になっているので、日本のように大きな病院に患者が集中するということはなさそうです」

― ワクチンの状況も気になる。
「1月からワクチンパスが導入され、ワクチン接種が実質、義務化されました(編集部注:3月14日に義務化を解除)。もちろん、強硬に反対する人たちはいます。義務化となると、これまでは、健康上の理由でワクチンを打たない(打てない)人はPCR検査で陰性ならば飲み会に参加し、レストランに入ることができましたが、今後できなくなるのではないかと思います。これはこれまでのフランスの感染対策の中で最も厳しい措置だと思いますね。フランス(ヨーロッパ)は個人の権利を制限することに対しては非常にセンシティブだから、今後の動向が注視されますね。義務化ということは、それだけワクチンのブースター接種を重視しているのでしょう。私も既に3回接種済みの証明書をゲットしました」

2021年11月末、大学院の同級生たちとのモロッコ旅行にて。全員がマスクを外し、集団ツアーを満喫している。中央のサングラス姿が白髭君。

 ワクチンの予約は、日本ほど複雑ではないようだ。専用のウェブサイトから好きな接種場所を選んで、開いている時間帯をクリックするだけ。もちろん、市が接種券をご丁寧に送ってくることはない。外国人でも、いつでも受けることができる。 白髭君は昼に予約して、その日の夕方に接種したという。証明書もスマホでダウンロードできる。
 フランスでワクチン接種が迅速に進んでいるのは、不正やエラーを100%防ぐというよりも、起きてしまってからの対応をしっかりやろうという制度設計の思想によるようだ。日本は始める前にいろいろなことをしっかり考えてやるから、時間がかかる。何でも完璧に丁寧に行うことをマスコミや市民が求めるから、時間もお金もマンパワーも費やしてしまっている印象がある。

「そこは、日本人のいいところではありますが、機動性が落ちるという面はありますね。悪いと言っているわけではなく、どちらにも一長一短があると思います」
 白髭君はあくまで冷静だ。外から日本を見ることは、とてもいいことだと思う。
 再度断っておくが、フランスに対する考察はいろいろあり、白髭君は感染症の専門家ではないので、ひとつの見方として参考にしてもらえれば幸いだ。
 新型コロナ禍の中で留学するのは大変な苦労があったと思うが、その状況さえ冷静に楽しんでいる彼の様子がうかがえた。一段と大きく成長しているようだ。

  • 1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

著者プロフィール

崎長ライト(ペンネーム)=浜田久之(長崎大学病院医療教育開発センター長、長崎大学副学長および附属図書館長)。長崎県の離島生まれ。予備校講師などを経て医師に。長崎県に医師をリクルートする新・鳴滝塾塾長としても県内外を奔走する。Cadetto.jpでは「フルマッチ」「坂の途中」を連載。

連載の紹介

思案橋に夜9時でよかですか?
昼は大学病院で初期研修医を指導し、夜は小説のネタを探して長崎最大の繁華街・思案橋を彷徨う崎長ライト氏。医学教育に横たわる課題から旬の盛り場情報(?)まで、時に深刻、時に軽妙に紹介していきます。

この記事を読んでいる人におすすめ