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初期研修後の3年目は自由にしたいのですが…

2018/05/18
崎長ライト

2.永良部君が取り得る選択肢

(1)専門医の研修プログラムに入らない
 専門研修プログラムに所属せず、非常勤医師またはスタッフ医師として働ける病院を探す。探すのはなかなか大変だが、受け入れ病院は大学病院から中小病院まであると聞く。
 メリット:納得できるキャリアを得ることができる。十二分に悩める。
 デメリット:多数派ではないので、中途半端と見られやすい。専門研修プログラムに入る場合、1年以上遅れる。

(2)内科の研修プログラムにとりあえず入る
 入局せずに、内科研修プログラムに入れる大学や病院はある。そこで働きながら考えて、やはり麻酔科ということであれば、内科プログラムを中断し、麻酔科プログラムへ入る。
 メリット:内科に進むと決めた場合には、1年が無駄にならない。
 デメリット:麻酔科に決めた場合は、1年が無駄になる可能性がある。

(3)麻酔科のプログラムにとりあえず入る
 メリットとデメリットは(2)と同様。ただし、マイナー科においては、「プログラム登録≒入局」のところもあるので、注意が必要。

(4)ダブルボードを目指す
 基本領域の専門医資格を2つ取るダブルボードも可能らしいが、現時点では不明瞭で、誰でもできるという保証はない。2つの専門医を取る意味や維持の労力も真剣に考える必要がある。いずれにしろ、まずはいずれかの研修プログラムに入る必要がある。

(5)カリキュラム制で研修
 新専門医制度において、専門医取得のための研修はプログラム制が原則だが、カリキュラム制による研修も可能とされている。カリキュラム制は必要な到達目標(症例数や手術数など)を達成した段階で専門医試験の受験資格が得られるというもので、到達目標達成まで何年かかっても構わない。従来の学会専門医のほとんどがカリキュラム制で運用されていたが、新制度ではどういうケースでカリキュラム制が認められるか、内科領域ではどのような運用になるかなど、こちらも詳細は不明。初期研修を来年修了する永良部君の選択肢としては外しておくのが無難だろう。

3.永良部君の進路に対する僕の考察

 可能ならば、医局などに縛られることなく自分のキャリアを自由に積みたいという研修医は少なからずいて、毎年4~5人から相談を受ける。
 彼らの根底には、幅広くいろんな経験をしたいという向上心があると思う。モラトリアムと批判する人もいるが、医者としての姿勢は素晴らしいと僕は思うし、尊敬もしている。このような研修医は実際に、どの診療科でも真摯に研修に取り組んでいる。将来的には、幅広く物事を考えるジェネラリストや組織のリーダー的存在になると思う。若い時の紆余曲折は医者の人生にとって悪いことではない。むしろ良いことだと思う。
 しかしながら、今回の専門医制度は紆余曲折を許容しない。このような研修医を潰してしまう…と言ったら言い過ぎだろうか。

 永良部君のような研修医の多くは、タイムアップという形でいずれかの研修プログラムを選ぶことになるだろう。いつの時代も研修医は基本的に、大きな護送船団に乗り込もうとする保守的な思考(僕もそうであったが)が大勢だから、新制度の下でも冒険者が少なくなるのは当然と思われる。
 さらに今の若い人は選択肢の指標として、「不利な立場に立たされないか?」ということを重視する人が多いと推測する。国の気まぐれで勝手に「ゆとり」とされ、医学部に入ればカリキュラムの数多くの変更に付き合わされて理不尽を感じた人が多いからであろう。さらに、今回の新専門医制度も「押し付けられた」と感じているようだ。

 永良部君は、荒波に小舟で漕ぎ出す冒険はしないだろう。
 冒険する人たちをさらに少なくするような制度は、どうなのかとも思う。未知なる世界へ突き進もうとする破天荒なエネルギーを押さえつけてほしくはないのだが……。

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著者プロフィール

崎長ライト(ペンネーム)=濱田久之(長崎大学病院医療教育開発センター長)。長崎県の離島生まれ。予備校講師などを経て医師に。長崎県に医師をリクルートする新鳴滝塾事務局長としても県内外を奔走する。Cadetto.jpでは2016年3月まで「フルマッチ」を連載。

連載の紹介

思案橋に夜9時でよかですか?
昼は大学病院で初期研修医を指導し、夜は小説のネタを探して長崎最大の繁華街・思案橋を彷徨う崎長ライト氏。医学教育に横たわる課題から旬の盛り場情報(?)まで、時に深刻、時に軽妙に紹介していきます。

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