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胸腔チューブ挿入のコツは「左手」にあり!

2021/04/19
中山 由紀子(沖縄県立中部病院救命救急センター)

 皆さん、胸腔チューブ挿入は得意ですか? 時間がかかったり、患者が痛がったりして、焦ってしまったことはないでしょうか? また、想定以上に鉗子が胸腔へ刺さってしまった、チューブが胸腔以外(皮下や肺実質内や腹腔内など)に迷入してしまったなど、ヒヤッとした場面があったかもしれません。今回は、胸腔チューブ挿入のコツを紹介します!

学習目標

・処置時、患者さんの痛みをくみ取れるようになる
・左手を使いこなせるようになる

患者の背景を考えよう

 まずは、患者一人ひとりの背景を考えてみましょう。外傷患者であれば、横隔膜破裂の可能性があるかもしれませんし、肥満があれば、想定よりも横隔膜の位置は高くなっているかもしれません。また、非常に筋肉が厚ければ、胸腔まで到達するのはやや困難であることが予想されます。抗血小板薬や抗凝固薬を飲んでいて出血傾向のある患者、あるいは、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や巨大なブラ・癒着など解剖学的異常がある患者にも遭遇するかもしれません。

 このように、患者は一人ひとりその背景が異なります。胸腔チューブの適応疾患によっても刺入位置は異なるでしょう。目の前の患者の背景から、起こり得る問題点を考えておくことが重要です。時間的余裕があるならば、胸部CTで刺入位置を決定するなどの対応で、問題点を解決することもできます。

ポジショニングを考えよう

 胸腔チューブ挿入に当たって、外傷性心肺停止や緊張性気胸などのように時間的に余裕のない場合以外は、しっかりと準備をする時間があります。
 
 上半身は30~60 度起こしましょう。これにより横隔膜を下げ腹腔内臓器損傷のリスクを低減させます。また、合併症の出現にいち早く気付き、対処するためにも、酸素投与・モニター・ライン確保を行っておきます。上肢を上げて固定しておくと、挿入後に上肢を下げた際に皮膚が下がり皮下トンネルができます。

麻酔を考えよう

 胸腔チューブを挿入するためには、メスで3cm前後の皮切を加え、その幅のtractを皮下・筋肉・壁側胸膜につくります。つまり、その範囲の皮下組織・筋肉・骨膜・肋間筋・壁側胸膜に十分な麻酔が必要となります。この「麻酔」が胸腔チューブ挿入の成功の鍵の一つです。

 「1%リドカイン最大5mg/kg」を勧めている教科書が多いですが、術者が初心者の場合や、胸郭の筋肉が多い患者の場合では(以前紹介した局所麻酔薬中毒を予防する観点からも)、倍量使用できる0.5%リドカインを使うとよいでしょう。また、エピネフリン入りのものを使用すると、手技による出血が少なく麻酔薬が局所にとどまりやすいのでお勧めです。

 皮膚と皮下組織に局所麻酔をした後は、針を肋骨に当たるまで進め、少し引いて筋肉に麻酔をします。次に骨膜に麻酔をし、そのまま肋骨上縁に沿って針を進めて肋間筋にも麻酔をしましょう。針を進めている間は、必ず陰圧をかける必要があります。胸腔に入れば(疾患によりますが)空気や胸水・血液が引けます。空気(または胸水・血液)が引けたら、ほんの少し針を抜いて壁側胸膜にも十分麻酔をしましょう(図11)。骨膜・胸膜は痛みを強く感じるため、しっかり麻酔することが大切です。

 十分な麻酔ができたらほぼ成功したようなものです。

図1 局所麻酔の範囲

切開・鈍的剝離を考えよう(tract 形成)

 メスで皮膚と皮下組織を3cm前後切開します。筋肉が厚い場合は、メスの刃が肋骨に当たるまで、一緒に筋肉も切ってしまうことも考慮します。

 次に切開部から曲がり鉗子(曲がりペアン)を挿入し、筋肉・肋骨上縁を通り、肋間筋→壁側胸膜→胸腔へとtractをつくります。曲がり鉗子を閉じたまま刺して、広げたまま抜いてくるのを繰り返すことによりtract が形成されます。特に筋肉はしっかり力を入れて曲がり鉗子を刺さないとなかなか進みませんが、力を入れ過ぎると勢い余って曲がり鉗子が刺さり過ぎるため注意が必要です。

 したがって、左手(曲がり鉗子を持つ反対の手)が重要となります。曲がり鉗子を持つ右手には体重をかけて、左手は刺さり過ぎないように手背を胸壁に当てて曲がり鉗子をつかんでストッパー&コントローラーとして使います(図2) 。

 右手には体重をかけるだけで、ストッパーとしての左手に意識を集中し、進め具合は左手でコントロールするというイメージです。

 ※右利きの場合を想定した記載です。左利きの方は、右→左、左→右に読み替えてください。

図2 左手の使い方

チューブの挿入を考えよう

 気胸なら肺尖部(または前胸部)、血胸/胸水なら背側、などドレナージしたいものによってチューブ先端を置くべき位置は変わります。その胸腔チューブは何のために入れるのか、しっかり意識してチューブを進めましょう。また、挿入前にチューブをどこまで入れるか決めておくことも重要です。進め過ぎれば縦隔や胸膜に当たって疼痛を引き起こします。

 最後に、チューブが中でkinking(よじれ、折れ曲がり)していないかの確認方法としてチューブをくるっと回してみる(トルクをかける)ことをお勧めします。胸腔内で折れ曲がっていなければくるくるとチューブがスムーズに回るので、そうならない場合はゆっくり抜いて入れ直してみましょう。

 以上、胸腔チューブ挿入のコツでした。

今回のポイント
・麻酔は十分な範囲にしっかり行う。エピネフリン入りで濃度の低いリドカインがお勧め
・曲がり鉗子の進め具合はストッパーである左手でコントロールする


【参考文献】
1)北原浩, 太田凡「救急・ER エッセンシャル手技」(メディカル・サイエンス・インターナショナル、2008)
2)Roberts JR「Roberts and Hedges' Clinical Procedures in Emergency Medicine, 6e」(Elsevier、2013)
3)真弓俊彦「ビジュアル基本手技シリーズ コツを覚えて必ずできる!体腔穿刺」(羊土社、2008)

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著者プロフィール

EM Alliance●ER救急医の集まりとして2009年に発足。Web上での教育コンテンツの配信やメーリングリストでの情報交換、年2回のmeetingを 主な活動として、日本の救急医療や研修医の教育、研究活動に貢献することを目的としています。

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