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新型コロナ、今の時期に行っておきたい「心のメンテナンス」法

2020/06/12
久持修(やまき心理臨床オフィス代表・臨床心理士)

 連載の第15回では、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」の影響下において、働く仲間を楽にする方法についてお伝えしました。今回はその続編として、前回書ききれなかったことや、新たな局面を迎えつつある現状において何ができるのか、についてお伝えしたいと思います。

「嫌悪・偏見・差別」による負の連鎖

 今回もまずはこちらから。前回もご紹介した新型コロナウイルスがもたらす「3つの感染症」は、非常に有益な捉え方です()。

表 新型コロナウイルスがもたらす「3つの感染症」

第1の感染症(生物学的感染症)
 ウイルスによって引き起こされる「疾病」そのもの
第2の感染症(心理的感染症)
 見えないこと、治療法が確立されていないことによって引き起こされる「不安や恐怖」
第3の感染症(社会的感染症)
 不安や恐怖から引き起こされる「嫌悪・差別・偏見」

 新型コロナウイルスという未知のウイルスが流行することにより、人は不安や恐怖を抱えることになります。すると、人は生き延びる本能に従ってウイルスを遠ざけようとします。

 このとき、ウイルスに人を介して感染するという特性があることから、人を遠ざけようとするようになるのです。つまり、遠ざけるべき対象がすり替わってしまうということです。

 もちろん人との身体的距離を取ることは重要なのですが、そこから「第3の感染症」といわれる「嫌悪・偏見・差別」といった問題が生じてくるようになります。つまり、遠ざけ方が行き過ぎてしまうということです。

 結果的に、「嫌悪・偏見・差別」が生じてくると、人は自分が感染した可能性があったとしても報告しにくくなってしまい、新型コロナウイルスがますます感染拡大することにつながってしまうという、まさに負の連鎖が発生するのです。

過去を振り返り、「息継ぎ」をする時期

 これらの負の連鎖について、客観的に理解をした上で、自分自身に何ができるのかを考えてみることが必要です。なお、前回は、身体的距離を取りながらも人とのつながりをキープするための工夫として、手話を活用することを提案しました。

 新型コロナウイルスの問題が顕在化してから数カ月がたち、「新型コロナウイルスとの共存」や「新たな生活様式の構築」など、今までとは違った局面を迎えつつあります。今回考えてみたいことは、このような状況下で働く仲間を楽にするためにできることは何だろうということです。

 今の時点で私がお勧めしたいのは、「過去を振り返ること」です。

 新型コロナウイルスによって、社会はものすごいスピードで変化を余儀なくされました。医療機関も例外ではありません。外来患者が激減したところもあり、感染防止のための徹底した対策を取らねばならなくなったり、オンライン診療が取り入れられるようになったりもしました。

 また、新型コロナウイルス感染患者を受け入れている病院では、COVID-19専用の病棟を準備しなければならなくなったりもしました。受け入れ当初は、未知の事態に対する不安や恐怖を覚えるだけでなく、どんどん増える入院患者に対応しなければならないという業務の負担なども大変なものがあったのではないでしょうか。

 2020年5月末の時点(原稿執筆時)では、新規感染者はやや減少しています。街には人が増え始め、かつてのにぎわいを取り戻しつつあります。医療機関においても、通常の診療が行える方向に進みつつあるところが多いのではないかと思います。

 このように、私たちはわずか2~3カ月の間に、ものすごいスピードで変化をさせられています。今起こっていることも、「元に戻る」のではなく「新たな生活様式」を大急ぎで組み立てているようなものです。こういうときには、過去を振り返る余裕などあるはずがありません。目の前のことやこれからのことを考え続けているわけです。

 しかし、それは水泳でいうと息継ぎをしていない状況と同じです。私たちはものすごい変化を余儀なくされただけでなく、気がつけばもう既に結構な時間がたっています。そろそろメンテナンスという意味で、過去を振り返る時間を取った方がよいと思います。

「この数カ月、どうだった?」「私たち、頑張ったよね!」と語り合おう

 具体的には、働く仲間との何気ない会話の中で結構ですので、「新型コロナウイルスが流行したこの数カ月、どうだった?」というような話題を振ってみるとよいと思います。

 どんな苦労があったのかなどについて聞いてみて、仕事上の共通する事項などについては「私たち、頑張ったよねえ」などと、苦労を共有できるとなおよいと思います。

 実は、私は現在新型コロナウイルス患者を受け入れている医療機関に出向いて、職員の方へのカウンセリングを行っています(今回の事態を受けて医療機関から臨時で特別に依頼を受けました)。

 1人あたり30分程度の時間ですが、皆さん本当によくお話しになります。そして、「これまで目の前のこととか、これからのことばかり話し合ってきたので、今日こういう(今までを振り返る)話ができたのはよかったです」とおっしゃる方が少なくありません。

 私たちは、節目節目で過去を振り返ることを少なからず行っています。しかし、新型コロナウイルスの影響で「送別会や歓迎会」などざっくばらんに皆で集まる機会もなくなっているでしょうし、4月に新しい年度を迎えたという実感がないまま、気付けば数カ月がたってしまっています。

 例えば、最近はやりの「リモート飲み会」など、オンライン上での飲み会(お茶会)を行ってみるのもよいと思います。こんなときだからこそ、あえて過去を振り返り、仲間と苦労を共有する機会を作ってみてはいかがでしょうか。

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著者プロフィール

久持修(やまき心理臨床オフィス代表)●ひさもち おさむ氏。臨床心理士。東京学芸大学教育学部卒業後、秋田大学大学院教育学研究科で臨床心理学を専攻する。長信田の森心療クリニックなどを経て現職。医療法人社団東京愛成会高月病院、多摩養育園、お茶の水女子大学非常勤講師、日本ブリーフサイコセラピー学会常任理事、日本トータルフットマネジメント協会評議員なども務める。著書に『ナースの心がラクになる すぐやるストレス解消術』(学研プラス、2015)がある。趣味は登山、ランニング、温泉。

連載の紹介

働く仲間を楽にする ナースのための人間関係メンテナンス術
ナースを取り巻く職場環境の中で「人間関係」は大きなストレス源であり、メンタルヘルスが悪化する主な原因の1つです。この連載では、「フラットな関係性の中で働きやすい環境をつくるには?」をテーマに、臨床心理士である筆者が、自分だけでなく仲間も楽になり、誰にとっても働きやすい職場となるような人間関係のあり方、そのつくり方、メンテナンス術などについてお伝えしていきます。

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