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2008. 5. 24

脳卒中における虚血耐性現象の意義と降圧療法の位置付け

広島大学大学院 脳神経内科学教授 松本昌泰氏に聞く

2008. 5. 24

脳卒中における虚血耐性現象の意義と降圧療法の位置付け

広島大学大学院 脳神経内科学教授 松本昌泰氏に聞く

関連ジャンル:

脳血管

 近年、虚血性脳損傷や虚血耐性現象の分子メカニズムが徐々に明らかになっている。その臨床的意義と脳卒中治療における降圧治療の実際について、広島大学大学院脳神経内科学教授の松本昌泰氏に聞いた。(聞き手:見留 正璽=メディカル・ラボ)

広島大学大学院脳神経内科学教授の松本昌泰氏

――虚血性脳損傷の分子メカニズムや虚血耐性現象を解明することは、脳卒中の急性期治療を向上させる新たな脳保護療法の開発につながると期待されています。そこで最初に、この分野の知見についてお話しください。

松本■脳を灌流する動脈が閉塞した場合、その灌流領域における脳梗塞の発生は、虚血の重症度と時間に規定されます。灌流領域の中心部は、短時間のうちに梗塞になりますが、その周辺の組織には残存血流が存在するため、機能は停止していますが、組織自体は生存している領域があります。それが「ペナンブラ」と呼ばれる領域です。 このペナンブラが梗塞に移行するには、微小循環障害と神経細胞の虚血に対する選択的脆弱性が関与していると考えられています。

 微小循環障害の進展には、接着分子を介した白血球の血管内皮への粘着が深く関与しています。実際、動物実験では接着分子の抑制による脳保護作用が報告されています。しかし、接着分子であるICAM-1に対するモノクローナル抗体を用いた臨床試験では、有害との結果が報告されています。したがって、微小循環の改善という点では、安全で効果的な抗白血球療法の開発が期待されています。

 一方、神経細胞の選択的脆弱性を規定する因子としては、グルタミン酸受容体などを介して細胞内に過剰に流入するCaイオン、虚血再灌流時に大量に産生されるフリーラジカル、そしてアポトーシスなどが知られています。

 このうち、フリーラジカルの捕捉薬として開発されたエダラボンは臨床応用されていますが、グルタミン酸受容体拮抗薬、Ca拮抗薬をはじめとした脳保護薬の開発は動物実験では良好な成績を示しながらも臨床試験では効果がなかったものが多い、というのが現状です。
 そこで、脳保護療法の開発には、研究者や実験モデルにかかわらず、一貫して脳保護効果が観察できる実験系を使用することが望ましいと考えられるようになりました。その実験系のひとつと考えられているのが、「虚血耐性現象」です。

 虚血耐性現象とは、非致死的ではあるが細胞にとってはストレスとなる虚血侵襲をあらかじめ加えておくと、その後に起こる致死的な虚血侵襲に対する抵抗性を獲得する現象のことです。その存在は各種脳虚血モデルで確認されています。ヒト臨床例においても、一過性脳虚血発作を伴う脳梗塞症例は、伴わない症例と比べて脳梗塞の容積が小さく、予後も良好であることが分かっています。

 この虚血耐性の分子メカニズムとしては、遺伝子発現を伴う神経細胞の応答機構が注目され、各種ストレス蛋白の発現やアポトーシス抑制遺伝子の関与などが報告されています。私たちも、アポトーシスの抑制に重要な役割を果たしている転写因子(CREB)が、神経細胞にストレスが加わった際に神経細胞を保護する遺伝子発現を引き起こしていることを明らかにしています。したがって、転写因子の活性化を促進する方法あるいは薬剤を開発することが、脳卒中における脳保護療法の開発につながると期待されています。

――脳血管障害の予防には、血圧の管理が非常に重要と言われています。そこで、脳卒中の1次予防、2次予防について解説してください。

松本■確かに脳血管障害の最大のリスクは高血圧で、血圧値と脳梗塞あるいは脳出血の発症が非常に強く相関することが、多くの疫学研究で明らかになっています。例えば、久山町研究をみると脳梗塞の発症率は140/80mmHgから、脳出血では120/80mmHgから有意に高くなることが分かります(図1)。

図1 血圧と脳梗塞の発症率(久山町研究)

(次ページに続く)

(日経メディカル別冊)

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