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New Aspect 経鼻内視鏡検査は見落としが多いとはいえない(下)

2004年ころから本格的に普及が始まった経鼻内視鏡は、上部消化管の診療に新たな地平を切り開いた。前回に引き続き、大阪赤十字病院の圓尾隆典氏に、経鼻内視鏡の特徴とメリットについて解説していただく。圓尾氏は、「経鼻内視鏡の利点を理解し、真剣に取り組む医師の教育・啓発が今後の課題」と指摘する。(日経メディカル編集部)(日経メディカル2009年4月号から)

圓尾 隆典
大阪赤十字病院消化器科
まるお たかのり氏
京大医学部卒。天理よろづ相談所病院勤務を経て、大阪赤十字病院消化器科副部長。経鼻内視鏡研究会in関西 代表世話人。

日経メディカル12月号のトレンドビュー「経鼻内視鏡に死角あり」の記事は世間に大きな誤解を招いた。経鼻内視鏡検査には見落としが多いという印象を与え、経鼻内視鏡を敬遠する風潮を引き起こした。経鼻内視鏡は通常径の経口内視鏡(以下、通常内視鏡)と比べても患者に優しく楽な検査であり、画期的な診断技術である。その発展・普及は、胃癌の早期発見に威力を発揮するという意味で、人類の幸福に寄与すると言っても過言ではない。

死角はどんな検査にもある

死角とは、「ある角度からはどうしても見ることができない場所や領域」(広辞苑)とされている。

複雑に入り組んだ形状の人体内を観察する際、場所ごとに死角となる部位が存在するのは当然で、通常内視鏡においても、観察上の死角は同じように存在する。

従って、死角の存在が経鼻内視鏡に特有の現象であるかのような記述は不適切で、あえて言えば、「内視鏡での観察の際に死角となる場所がある」というのが正しい表現である。死角という言葉をあたかも欠点と同義であるかのように述べたことが誤解を招く結果となったのである。

じっくりなめるように観察

通常内視鏡では見えて、経鼻内視鏡では見えない病変は存在するのだろうか。筆者はそのような病変の報告を寡聞にして知らない。

経鼻内視鏡は、視野角(一度に見える範囲)が、通常内視鏡の140度に対して120度とやや狭い。また、通常内視鏡より焦点距離が短く、より近寄らないとくっきり見えにくい。そのため、胃の壁に近づけ、じっくりなめるように観察する必要がある。

この点を押さえていないと観察の際に違和感を覚える可能性がある。その代わり、経鼻内視鏡の特性を理解して丹念に観察すれば、通常内視鏡と遜色ない観察が可能である。筆者は注意深く観察することで数mm大の微小な病変も日常的に指摘している(症例参照)。

症例 80代男性で発見された微小な病変
胃体中部後壁大彎の瘢痕に近接する発赤として認識された(左)。インジゴカルミンを散布し、近接観察したところ、病変の境界や表面模様が明瞭に観察された(右)。

癌の診断に専念できる経鼻

残念ながら、通常内視鏡でも無視できない偽陰性(見落とし)率が報告されている。発見された早期胃癌例の約半数が、1年前に通常内視鏡検査を受けていたとの報告もある。

見落としの原因には、医師の診断力の限界や不注意、患者の苦しみのため十分な検査ができなかった、癌が発見不能な微細な状態であった、などが挙げられる。

経口内視鏡検査では、いくら上手に検査をしても嘔吐反射は避けられない。人間の身体は、口にモノを突っ込めば嘔吐反射が起こるようになっているからだ。患者が嘔吐反射に苦しんでいるときは、検査する側も観察に専念できない。いくら高性能の内視鏡を使っていても、十分に観察できなければ癌の診断はおぼつかない。

これに対し、鼻からのルートだと嘔吐反射を誘発しにくいため、検査が楽に受けられる。時間をかけて観察しても苦しくないため、検査をする医師も落ち着いて癌の診断に専念できる。結果として、癌を見落とす心配も、経口よりむしろ少なくなることが予想される。

経鼻内視鏡は楽に受けられることが多いが、鼻腔が細くて内視鏡が入りにくい人や鼻の痛みを強く感じる人がいる。一方、経口内視鏡でも苦しくないという人もいるし、経口内視鏡でないとできない検査内容もある。必要に応じて両者を使い分ければよい。

医師の教育・啓発を急げ

経鼻内視鏡は楽で安全で、見落としが少ない画期的な診断技術であると多くの医師が報告している。

ところが最近、雑で苦しい経鼻内視鏡があるという声も耳にする。ここ数年で急速に普及した新しい検査手技であり、施設や医師によって検査の質に差があるのは確かだ。

残念なことに経鼻内視鏡検査の研修ができる施設はまだ限られており、多くは自己流で検査を始めている。それでも真剣に経鼻内視鏡に取り組む医師であれば、楽な検査ができるようになるのにさほど時間はかからないが、すべての医師がそうとは限らない。経鼻内視鏡の利点を理解し、真剣に取り組む医師の教育・啓発が今後の課題である。

日本人の胃癌死亡率はここ50年間ほとんど変わっていない(図1)。胃癌は早期発見すれば治癒させることができる。経鼻内視鏡が早期発見に果たす役割はきわめて大きい。いまだ黎明期にあるこの検査法を温かい目で見守っていただき、医療者と患者とメーカーが共同で育んでいってこそ、経鼻内視鏡が人類に貢献できる素晴らしい検査手技となる道が開けることになろう。皆様のご理解、ご協力をお願いしたい。

図1  癌死亡率の年次推移日本人の胃癌死亡率はここ50年間、ほとんど変わっていない。
(厚生労働省「人口動態統計2006年次版」をもとに作成)