2004.10.25

米国でインフルエンザ・ワクチン不足による混乱が広がる

 British Medical Journal(BMJ)誌10/16号と10/23号に掲載されたOwen Dyer氏の2週にわたるリポートは、11月に始まる見込みのインフルエンザ流行期を目前にした、米国の不安な情勢を明らかにした。英国にあるChiron社工場で製造されたインフルエンザ・ワクチン「Fluvirin」のSerratia marcescensによる汚染が発見され、米国市場は予定量の約半分に当たる4800万回分のワクチンを失った。英国でも全体の17%に相当する220万回分を同社が供給する予定だったが、不足は英国の製造会社6社の在庫で埋め合わされた。

 米国では毎年、平均3万6000人がインフルエンザで死亡する。昨年のワクチン接種者は過去最高の8000万人で、うち約半数がハイリスク者だった。CDCは、2004年の流行期のハイリスク者は9490万人と推算、市場を二分するChiron社とAventis社に計1億人分のワクチン製造を依頼していた。不幸にも、ワクチン不足は接種を促すキャンペーンが終了した時点で明らかになり、政府は現在、健康な人に接種の自粛を呼びかけている。

 BMJ10/16号には、英国当局の判断が改められてChiron社のワクチンの一部が出荷できるかもしれないという期待を抱いたFDAの担当官がその週に渡英したとあった。が10/23号では、結局、安全性は保証されず、FDAは全てのChiron社のワクチンは使用不可と宣言せざるを得なくなったと述べている。

 一方New York Times紙は10月17日、老人や慢性疾患患者たちが予防接種を受けるために何時間も行列し、一人が転倒、頭を打って死亡し、ワクチン価格は通常60ドルのバイアルが800ドルになっていると報道した。

 BMJ10/23号によると、大統領候補者のTV討論でも、ワクチン不足が話題にのぼった。Bush氏は「製造会社の責任が問われる訴訟を恐れるが故に、製薬会社はこの種のワクチンを製造したがらない」と説明したという。また、民主党は、ワクチン不足への対応におけるBush氏の失策を非難するTV CMを流している。CMは「Bush氏は、カナダ当局との交渉がうまくいけば、必要なワクチンを入手できる可能性を示唆した。しかしその後、HHS長官のThompson氏が、カナダのワクチンは米国で承認を得ておらず、流行期に間に合うよう市販許可を得ることは無理だと可能性を否定した」という内容だ。

 医師や看護師もうかうかしていられない。ニューメキシコ、ミシガン、マサチューセッツを含むいくつかの州が、ハイリスク者以外にワクチンを接種した医療関係者には、罰金または禁固刑を課すと警告したからだ。

 Chiron社は、今回のワクチン製造および製造工場閉鎖に関する情報を提供するよう求めた、大陪審の召喚状を受けとった。今年9月にChiron社の取締役に就任した、Tektronix社会長兼最高経営責任者Richard Eills氏は、10月15日にChiron社を退いた。

 さて、肝心のワクチンだが、CDCは、Aventis社が出荷していなかった2200万回分を譲り受けると発表した。当初の予定量の5200万回分は既に流通している。経鼻型ワクチンを市販しているMedImmune社は、10月21日、110万回分を追加製造、出荷する許可を得たと発表した。FDAは今も、世界中のワクチン製造会社と交渉を継続しており、前進はあったと述べている。

 Owen Dyer氏のリポート2本の原題は以下の通りで、下記URLで全文が閲覧できる。

*「Factory's loss of licence halves supply of flu vaccine to US」、http://bmj.bmjjournals.com/cgi/content/full/329/7471/876-b
*「US health workers who give flu jabs to healthy people could face fines or imprisonment」、http://bmj.bmjjournals.com/cgi/reprint/329/7472/939-c(PDFファイル)

(大西淳子、医学ジャーナリスト)

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