2004.06.22

【投稿】 誕生日祝い

 『長寿社会』の新しいネットワーク作りを考える「方円の器」の主宰者である江上尚志さんから「誕生日祝い」が届きました。先週のMedWave Care Mailで紹介したものです。より多くの方にお読みいただきたく掲載します。
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 誕生日祝い     江上尚志氏

         ■□□ 『長寿社会』の新しいネットワーク作りを考える
         ■□□ 「方円の器」
         ■□□ http://www11.ocn.ne.jp/~uten/index.html
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 我が子が生まれてすぐに医師から「お子さんは二十歳まで生きられるかどうか疑問」であるとのご託宣を受けた。実際には二十歳過ぎても生きているダウン症候群の人に医師は会ったことがないという意味である。実際には知的障害者の入所施設で四十歳過ぎのダウン症者がいることなどは後から知ることだった。ダウン症候群、21番目の染色体の突然変異によって発生する症状である。心臓疾患などの障害を持って生まれるケースが多く、大学に進学する人もいるが知的な発達が遅れる場合がある。

 知的な発達の遅れが著しい場合でも、情緒的な発達については健常者よりも優れているケースが多い。幼かった頃には夫婦喧嘩をしようとすると泣き出すのが状態だった。親が大声を出せば子どもは泣くことしか対抗手段を持たない。歩けるかどうかわからないような成長ぶりだったが、幼稚園を卒園する頃から急に体力がついてきた。障害児向けに組み立てられた運動プログラムを着実にこなして行く。柔軟な身体に敏捷な動きまでついてくるという嬉しい付録までついていた。

 この子が二十歳までしか生きられないのならば精一杯生きてきた証を作ろうと考えた。誕生日は親子で楽しく過ごすことが通例だった。この子が生まれたのが4月29日なので当時は天皇誕生日であり今は「緑の日」である。「国中の人がお祝いしてくれる」と言ったことすらある。みんなの笑顔があり、好きなご馳走が食べられる誕生日は彼にとり最高の日だ。ある年から誕生日の翌日になると「来年の誕生日」の話をするようになった。会う人ごとに誕生日を聞き自分の誕生日を教えている。

 やがてノートに記録するようになった。「誕生日ノート」と書かれた彼のノートは先生たち、親戚、ボランティアの氏名と誕生日が記録されるようになり数が増え続けて行った。しかも彼は誕生日を見事なほどに記憶するようになっている。「お父さん、今日は○○さんのお誕生日だよ」とノートを持ってくる。電話をしてみると間違いがない。「天才だな」と喜んでいる親バカになっていた。月ごとに誕生日が列挙されたノート、毎日のように書き換えられるノートに記載された名簿は彼の財産だ。彼は今年32歳になった。

 先日のことである。私の先輩から次男坊あてに小包が届いた。中身はチョコレート状のお菓子と「次男坊から、思いもかけず直接誕生日祝いの電話がかかってきてびっくりしたこと」そして「とても嬉しかったこと、その日は一日中愉しい気分だったこと…」などが記されたカードが添えられていた。先輩から送られた手紙のカードをたどたどしい口調で読んでいく。読めない文字があるから教えてという。バザーで会えるのが楽しみなこと、手紙を書いてくれた人は彼の知っている私の先輩であることをシッカリ認識する。

 何と気がつくと彼は目に涙をためているではないか。「嬉しいのか」と聞くと「正面から認めて礼状をくれたのはこの人が初めて」だと目顔で訴えている。さまざまな方に誕生日の電話をかけてきた。今では付き合いをしなくなった知人の誕生日が出てくることもある。人間の尊厳などと軽々しく言うものではないかもしれない。だが、このことで涙ぐんでいる自分自身を再発見することができたのも事実である。彼が分けてくれたチョコレートのお菓子は微妙に深みのある味だった。

*編集部から
 「正面から認めてくれた」。この言葉が頭の奥を突き刺しました。忙しさにかまけて忘れてしまいがちな「大事なこと」を思い出させていただいたからです。ありがとうございました。(三和)

 皆様からのご投稿をお待ちしています。medwave@nikkeibp.co.jp あるいは miwa@nikkeibp.co.jp までどうぞ。

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