2003.10.02

ICUでのSDD復権なるか、蘭の大規模試験で死亡率の減少効果が実証

 集中治療室(ICU)に入院中の患者に、選択的消化管除菌(SDD)を行うと、ICU内死亡が相対的に35%、院内死亡が22%有意に減少する−−。SDDに関する過去最大規模の前向き比較研究から、こんな結果が導かれた。しかも、約2年間の試験期間中に耐性菌の増加は認められず、抗菌薬にかかる薬剤費もSDD施行群の方が少なかったという。研究結果は、Lancet誌9月27日号に掲載された。

 SDDは1980年代に提唱された感染予防策で、体内に吸収されないタイプの抗菌薬溶液を用い、口腔や腸管を定期的に洗浄する。消化管からの細菌の移行を防いで感染を予防するとされ、免疫力が低下していることが多いICU入院患者の院内感染(肺炎発症)予防に役立つとするメタ分析結果も出されている。しかし、これまでに行われた臨床試験は総じて小規模なもので、否定的な結果も報告されており、効果に懐疑的な声も少なくなかった。

 また、SDDを行う場合、複数の抗菌薬を連日用いることになる。長期的にはICU内で多剤耐性菌が増え、感染症の治療が困難になるとの懸念もあった。

 オランダAmsterdam大学学術医療センター集中治療部門のEvert de Jonge氏らは、同病院に2室あるICUのうち一方でのみSDDを行って、患者の死亡率などに差が現れるかを調べる前向き試験を実施。併せて、患者から採取した細菌の抗菌薬感受性をチェックし、耐性菌の比率を調べた。なお、この2室のICUは同センターの内科、外科から同じように患者を受け入れており、先行する2年間の研究で患者の重症度や死亡率が変わらないことが確認されている。

 1999年9月から2001年12月の2年3カ月に渡り、SDDを実施するICUにはのべ466人、標準的な感染防護策(口腔のうがいと歯磨き)を行う対照ICUにはのべ468人が入室。平均年齢は60歳、男性が6割で、術後患者が6割を占める。入室時は8割強が人工呼吸器を装着、7割が強心薬を使用していた。こうした患者背景に両室でほぼ違いはなかった。

 患者のICU内死亡率を比較したところ、SDD実施室では15%、SDD非実施室では23%となり、SDD実施室で有意に低いことが判明(相対リスク:0.65、95%信頼区間:0.49〜0.85)。院内死亡率も同様に、24%対31%となり、SDD実施室で有意に低くなった(相対リスク:0.78、95%信頼区間:0.63〜0.96)。この傾向は、内科的疾患による入室患者と術後患者とで差がなく、緊急手術か待機手術かでも変わらなかった。ICU入院期間の中央値は6.8日対8.5日となり、SDD実施室で2日近く短縮された。

 さらに、各種の耐性菌の保菌率は、入室時には両群とも変わらず、入室中はSDD実施室で有意に少ないことがわかった。臨床上問題となるバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)はSDD実施室で1.1%、SDD非実施室で1.3%が保有しており、保菌率は両群とも極めて低かった。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の保菌者はいなかった。感染症の発症数はSDD非実施室の方が多く、抗菌薬にかかった薬剤費は、SDDに要した分を加味してもSDD実施室の方が安くなった。

 SDDの実施で死亡率が低下、入院期間も短縮し、薬剤費も安く済む。耐性菌の増加も認められない−−。まさに良いこと尽くめの結果となったわけだが、注意すべきなのは、この研究は極めて耐性菌が少ない環境で行われたということ。論文に対する論説では「VREやMRSAなどが多い環境では同じような効果が認められるかどうかはわからない」と指摘、そうした環境下でSDDを実施する際は、耐性菌を定期的にモニターする必要があると論じている。

 この論文のタイトルは、「Effects of selective decontamination of digestive tract on mortality and acquisition of resistant bacteria in intensive care: a randomised controlled trial」。アブストラクトは、こちらまで。(内山郁子)

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