2003.08.29

慢性期の多剤耐性HIVに対する“ドラッグ・ホリデー”は無効−−「CPCRA 064」研究

 ウイルスが変異により多剤耐性を獲得、既存の治療に十分反応しなくなった慢性期のヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染者に対し、一定期間の休薬(ドラッグ・ホリデー)によりHIVの薬剤感受性を回復させるとの戦略には臨床的なメリットが認められないことが明らかになった。理論的には期待が持てる戦略で、薬の副作用や高い薬剤費に悩む患者には福音となり得るものだっただけに、大きな失望が広がりそうだ。研究結果は、New England Journal of Medicine(NEJM)誌8月28日号に掲載された。

 HIVに感染したばかり、つまりセロコンバージョン(血清転換:抗HIV抗体の出現)前の初感染者(primary HIV)が断続的に休薬を繰り返すと、HIVに対する細胞性免疫が刺激され、薬を飲まなくても血中HIV量が長期間、低い水準に保たれる−−。この「初感染者に対する計画的な休薬療法」(計画的治療中断;STI療法)は、2000年の報告以来大きな注目を集めており、わが国の厚生労働省研究班でも、有望なHIV治療法の一つとして研究が進められている。

 今回発表された「CPCRA 064」研究は、このSTI療法を、セロコンバージョン後の慢性期HIV感染者に応用するもの。慢性期HIV患者では既に細胞性免疫が低下しているが、STI療法にある程度の免疫賦活効果が期待でき、エイズの発症を遅らせることができるのではないか、との発想に基づくものだ。特に多剤耐性HIV感染者の場合、休薬することで野生型(薬剤感受性)のHIVが優位となり、休薬後に薬剤感受性が復活する可能性があるとも考えられた。

 対象患者は、多剤耐性のHIVに感染しており、抗ウイルス薬の服用下でもウイルス量が5000コピー/ml以上ある270人。138人をSTI療法群(4カ月間抗HIV薬を休薬する)、132人を対照群(他の抗HIV薬レジメンに直ちに切り替える)に割り付け、臨床的なHIV感染症の増悪(日和見感染などHIVコントロールの悪化+死亡)を1次評価項目に両群を比較した。追跡期間の中央値は11.6カ月。

 その結果、STI療法群の22人、対照群の12人でHIV感染症が増悪し、STI療法群の転帰が有意に悪いことが判明(ハザード比:2.57、95%信頼区間:1.2〜5.5)。死亡は両群とも8人で、HIV感染症の増悪率の差は主に日和見感染の増加によるものだったが、抗真菌薬などの予防薬服用継続率には両群に差がなく、転帰の差は休薬期間中のHIV増殖・免疫力低下に起因することが明らかになった。

 また、STI療法群のうち36人(26.1%)は、CD4細胞数の低下や血中HIV量増加などにより、予定されていた休薬期間終了前に抗HIV薬の服用を再開。結果として休薬期間の平均値は2.3カ月となった。4カ月後の時点で、73人(64.0%)では薬剤耐性のパターンの変化または野生型への転換が認められたが、追跡期間を通じSTI療法群のCD4細胞数は対照群より低く、HIV量は多いまま推移した。なお、生活の質(QOL)は両群で変わらなかった。

 研究グループは「多剤耐性HIVに感染している患者に対し、STI療法はHIV感染症の増悪につながる上、免疫学的・ウイルス学的な利益やQOLの改善は認められない」と結論。多剤耐性HIV感染者に対する最良の治療戦略は、今まで通り最適な抗HIV薬レジメンによる治療を継続することであり、STI療法は行うべきではないとまとめている。

 この論文のタイトルは、「Structured Treatment Interruption in Patients with Multidrug-Resistant Human Immunodeficiency Virus」。アブストラクトは、こちらまで。研究を助成した米国国立衛生研究所(NIH)の関連機関、米国アレルギー・感染症研究所(NIAID)のニュース・リリースは、こちらまで。(内山郁子)

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