2003.01.27

慢性腎障害にキレート療法、鉛除去で透析導入までの期間を3年延長

 台湾で行われた無作為化試験で、ごく軽度の鉛蓄積がみられる慢性腎障害患者にキレート療法を行うと、腎機能が大幅に改善されることがわかった。腎機能の改善度からは、透析導入を3年遅らせる効果があると見積もれるという。いわゆる「加齢に伴う腎機能の低下」に、多少なりとも鉛などの重金属蓄積が関与していることを示唆する結果で、今後大きな議論の的となりそうだ。研究結果は、New England Journal of Medicine(NEJM)誌1月23日号に掲載された。

 対象患者は、鉛の体内蓄積量が正常上限(600μg)未満で、腎機能が低下しており(血清クレアチニン値が1.5〜3.9mg/dl)、高血圧や糖尿病など腎機能低下の明確な原因となる疾患がなく、鉛汚染を受ける職業などについていない成年男女202人。研究グループは、まず全員を2年間経過観察し、2年が経過した時点で「鉛の体内蓄積量が正常高値(80μg以上600μg未満)で、血清クレアチニン値が4.2mg/dl以下」との条件に当てはまった64人に対して、無作為化試験でキレート療法の効果を調べた。

 キレート療法に割り付けられた32人の平均年齢は57.9歳で、うち26人が男性、血清クレアチニン値は2.7mg/dl、クレアチニン・クリアランス(平均体表面積を1.73m2として換算)は55.9ml/分。対照群に割り付けられた32人では、平均年齢が57.6歳、うち25人が男性で、血清クレアチニン値は2.6mg/dl、クレアチニン・クリアランスは54.7ml/分だった。鉛の体内蓄積量は、前者が平均150.9μg、後者が144.5μgだった。

 キレート療法群にのみ1回キレート療法を実施したところ、3カ月後の鉛の体内蓄積量は43.2μgにまで減少。3カ月後のクレアチニン・クリアランスも60.5ml/分にまで改善した。対照群では3カ月後のクレアチニン・クリアランスは53.1ml/分と低下していた。キレート療法群に対し、約1年後に腎機能が低下した人にのみキレート療法を再度実施したところ、2年後のクレアチニン・クリアランスは平均60.2ml/分になり、対照群の44.1ml/分と比べ腎機能の低下を大幅に抑制できることが明らかになった。

 研究グループは「キレート療法による腎機能悪化抑制効果は、透析導入を3年遅らせる効果に匹敵する」との見積もりを提示。3年間の透析療法にかかる費用を鑑みると、鉛蓄積量が正常高値の人に対してもキレート療法を行う意義は高いとした。

 今回得られた研究結果が示唆するのは、“加齢による”腎機能の低下に、低レベルの重金属蓄積が関与している可能性があること。この研究結果がそのまま日本人に当てはめられるかは不明だが、特に中高年以上の年齢層では、日本人の鉛の体内蓄積量は英国など多くの世帯で水道に鉛管を使用してきた地域並みに高いと考えられている。これまで「鉛中毒」として、急性毒性にのみ注意が払われていた環境中の鉛に対し、今回の研究結果は新たな視点をもたらすものとなりそうだ。

 この論文のタイトルは、「Environmental Lead Exposure and Progression of Chronic Renal Diseases in Patients without Diabetes」。アブストラクトは、こちらまで。

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