2003.01.16

臨床教育における内診・直腸診、麻酔下患者では4分の1がIC未取得−−英調査

 医療において倫理的問題がクローズアップされる中、麻酔下や鎮静下の患者では、医学教育に協力する旨のインフォームド・コンセント(IC、十分な説明に基づく同意)が不十分であることが明らかになった。こうした患者に対し、臨床教育の一環として膣の内診や直腸診を行ったケースでは、24%でIC取得の有無が不明確だったという。英国の医学生らによる実態調査から判明したもので、研究グループは「医師−患者関係の根幹を成すのは“信頼と尊重”だが、医学生が受ける臨床教育にはそれらが欠けている」と指摘している。調査結果は、British Medical Journal(BMJ)誌1月11日号に掲載された。

 この調査を行ったのは、英国Bristol医科大学の学生であるYvette Coldicott氏ら。研究グループは、まず英国内の全25医科大学に対し、医学教育における膣の内診および直腸診に関するガイドラインの設置状況を尋ねた。その結果、内診に関するガイドラインがあると答えたのは17施設だが、直腸診のガイドライン設置は1施設のみで、内診に比べるとガイドライン設置率が極めて低いことがわかった。

 次にColdicott氏らは、ある医科大学の2〜4学年の学生452人を対象に、自己回答式の質問票を配布し、医学教育におけるIC取得の実態を調べた。英国の医科大学は4年制で、臨床実習は2年生からスタートするため、1年生は調査対象から除いている。回答を寄せたのは2年生が130人、3年生が140人、4年生が116人で、全体の回答率は85%だった。

 内診や直腸診の実施件数(指導医が実施し学生が見学したものと、学生が実施したものを合わせた数)には学年による差があり、2年次で32件、3年次で245件、4年次では1211件だった。この調査対象の医科大学では、生殖医学教育の一環として、4年生までに最低でも10回は内診を行うことになっているという。

 研究グループは、この内診・直腸診の実施例について、ICの取得状況を分析した。すると、4年生が関わった事例でICを取得していないのは5%のみだったが、2年生では3分の1、3年生では半数にも及ぶことがわかった。明確なIC取得が行われていないケースは、ことに鎮静下・麻酔下の患者で目立ち、こうした患者に対する内診・直腸診702件では、そのうち24%が明確なICを取得していなかった。特に2年生と3年生では、9割以上が「ICを取っていたかどうかわからない」と答えていた。

 これらの結果についてColdicott氏らは、「医師が同意を取っていて、学生がそれを単に知らなかっただけであるというケースもあるだろう。しかし明確な同意のないところでは、学生は侵襲に対して法的な責任がある」と指摘。「指導医は(患者から)同意が取られ、学生も倫理的および法的規則を知っていることを確認する責務がある」と主張した。

 この論文を受けて、カナダToronto大学の生命倫理学者Peter A. Singer氏は、「すべての医学教育機関は臨床教育において倫理的なガイドラインを設置すべきである」と提言。Toronto大学で作成された医学教育の倫理ガイドラインでは、「教育者は技術を教授するだけでなく、倫理的な行為のお手本(role model)となるように振る舞い、学生と倫理的問題を討議する機会を設ける責任がある」こと、さらに「学生は倫理的問題があると考えたときには、その教育項目に参加しない権利や、そのことについて生命倫理学者や指導医に相談する権利がある」ことが挙げられている旨を強調した。

 Coldicott氏らの論文のタイトルは、「The ethics of intimate examinations-teaching tomorrow's doctors」。現在、全文をこちらで閲読できる。Singer氏の論説「Intimate examinations and other ethical challenges in medical education」の閲読は、こちらまで。Toronto大学の倫理ガイドライン「Guidelines for ethics in clinical teaching」は、こちら(PDF形式)まで。(リンク先の運営次第で変更になることがあります。ご了承ください)。(八倉巻尚子、医療ライター)

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