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2002.09.26

保存血液の遺伝子解析に9割が同意、スウェーデンの疫学研究参加者

 匿名化され倫理委員会が承認している研究ならば、過去に提供した血液サンプルの遺伝子解析を行うことに、提供者の9割以上が同意する−−。これは、世界保健機関(WHO)が実施している疫学研究「MONICA」(monitoring of trends and determinants in cardiovascular diseases)に、スウェーデンから参加した一般住民を対象とした調査結果で、British Medical Journal(BMJ)誌9月21日号に掲載された。

 わが国では約3年前に、東北大学(大迫研究)や九州大学(久山町研究)、国立循環器病センターなど複数の研究機関が、健康診断などで採取した血液などを無断で遺伝子解析したことが相次いで明るみに出、大きな社会問題となった。その背景には、研究者側の「遺伝子解析研究への利用には容易に同意が得られないのでは」との思い込みもあったようだが、今回の調査結果はインフォームド・コンセント(IC)の再取得が必ずしも難しくないことを示している。

 この調査を行ったのは、スウェーデンUmea大学のBirgitta Stegmayr氏ら。Stegmayr氏らは、過去に行われた研究で採取した血液を使った遺伝子研究について、ヘルシンキ宣言に基づき、当時の参加者からICを改めて受けることにした。

 対象となったのは、WHOが心血管障害と糖尿病の危険因子を調べる目的で実施している大規模疫学研究「MONICA」への参加者。スウェーデンからは1990年に25〜64歳の男女2000人が参加したが、Stegmayr氏らは参加者から無作為に1583人を抽出し、うち研究参加時に「将来の心血管・糖尿病研究のため」の採血と保存に同意した1494人を調査対象とした。

 11年後の2001年の時点で、死亡や転居などで連絡がつかない人を除き、血液提供者1409人の連絡先が判明。Stegmayr氏らは、「倫理委員会が承認した心血管疾患の遺伝性に関する学問的研究」と、「倫理委員会が承認し、提供された試料が匿名化されている心血管疾患の遺伝性に関する企業の研究」の二つについて、保存血液の使用を認めるか否かを郵便で尋ねた。

 その結果、学問的研究に用いることに同意を示したのは全体の93%にあたる1311人で、企業の研究でも91%に及んだ。前者のうち、8割は遺伝子研究に関して一括した同意を示したが、残りの292人(22%)は、複数の研究を行う場合は研究ごとに新規同意を与えると答えていた。

 以上からStegmayr氏らは、「学問的研究でも企業の研究でも、11年前に提供した血液を使うことに同意しない人は極めて少ない」と結論付けた。ただし、この「MONICA」研究は1985年から継続している研究で「調査者と参加者の信頼関係」がある点や、そもそも医学研究に好意的な人を対象とした結果であることには留意したい。

 わが国で“無断使用”が問題となったケースでは、直後に研究機関側が血液などの提供者に向けた説明会を開催。国立循環器病センターのケースでは、結果的に8割強の人が匿名化を条件に遺伝子解析への健診血液利用に同意した。そして、許諾を求める過程で得られた教訓が、2001年の「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」や、今年6月に厚生労働省と文部科学省が共同策定した「疫学研究の倫理指針」(関連トピックス参照)に反映されたとの経緯がある。

 しかし、こうした指針策定後も、複数の研究機関で遺伝子解析研究への試料の“無断使用”が明るみに出ており、指針の精神は研究者レベルにまでは広く理解されていないようだ。研究参加者は常に、いつでも参加を拒否する権利を持っている。保存試料であっても、できる限り提供者に説明を行い文書で同意を得ることが、今後の研究のあり方ではないだろうか。

 この論文のタイトルは「Informed consent for genetic research on blood stored for more than a decade: a population based study」。現在、全文をこちらで閲読できる(リンク先の運営次第で変更になることがあります。ご了承ください)。ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針はこちら、疫学研究の倫理指針はこちらまで。(八倉巻尚子、医療ライター)

■関連トピックス■
◆ 2002.6.19 文科省と厚労省、疫学研究に関する倫理指針を告示