2002.09.19

中途半端な「トクホ」

 今回の中国製ダイエット用健康食品の事件を契機に、厚生労働省は健康食品の監視体制を厳しくしようとしている。これからは、保健機能食品、中でも特定保健用食品(しばしばトクホと呼ばれる)がさらに注目を集めることになるだろう。なにしろトクホはその効果、安全性について国がお墨付きを与えているのだから。

 中でも、「血圧が高めの方」「血糖値が気になる方」向けのトクホが注目されている。しかし、このトクホについて気になることがある。

 本来の趣旨からいえば、トクホは病気の人を対象にしたものではない。病気の人、つまり高血圧や糖尿病の患者さんは医療機関を受診し、そこで治療を受けるべきなのだ。トクホの対象はあくまで健康人と患者の間のグレーゾーンの人たちということになっている。つまり、トクホに表示されている「血圧が高めの人」といっても高血圧の人を指すわけではないし、「血糖値が気になる方」であっても糖尿病患者を指すわけではない。しかし、そのような事情を患者さんが知る由もない。高血圧の患者さんでも「血圧が高めの人」と言えるかもしれないし、糖尿病の患者さんはもちろん「血糖を気にして」いる。実際、一部の高血圧や糖尿病の患者さんもこれらのトクホを利用している。

 先日、血糖降下剤を服用しているある糖尿病の患者さんがグァバ茶を飲み過ぎた後、下痢をした。しかもその時食事を少なめにしてしまったため、軽い低血糖症状を起こした。グァバ茶は糖の吸収を遅延させ、食後の血糖を押さえる作用がある(1、2)。いわば、糖尿病に利用される医薬品のひとつαグルコシダーゼ阻害薬と同じような作用を持っているのだ(ただし、その作用ははるかに弱いとされているが)。もしかすると、その患者さんが低血糖気味になったことに、グァバ茶も関係していたかもしれない。

 一方、血圧が高めの方に利用されるトクホはACE阻害作用を介して血圧を低下させる。そのため、高血圧の患者さんがこのトクホを利用する場合、医薬品であるACE阻害薬との相互作用を考慮しなければならない。両者の吸収過程での拮抗作用、降圧効果に対する相加作用あるいは減弱作用、副作用への影響、いろいろな可能性が考えられる(3、4、5)。

 トクホの申請のためには、その臨床効果、安全性が証明されることが必須である。しかし、病気でない人が摂取することを建前としているためか、医薬品との相互作用についてのデータ収集はされていない。一部の商品では、患者さんが利用する際には医師に相談するようにとの注意書きがあるものもあるが、そのような記載が全くないものもある。

 国がお墨付きを与えているから、とばかりにトクホの効果、安全性を過信するのは危険だ。トクホに短期的に血圧を下げるとか、食後の血糖を下げるとかのデータはあっても、長期的な効果、すなわち高血圧に伴う合併症の予防や糖尿病発症予防などのデータはない。トクホを頼るばかりに、医療機関への受診が遅れるようなことがあってはならない。

 今後、トクホの長期的な効果や医薬品との相互作用についてのデータを収集し公開すること、トクホの効果やその限界について患者への周知徹底などが必要である。

■参考文献■
(1)日本農芸科学会誌 72巻、923頁〜931頁、1998年
(2)日本食品新素材研究会誌 3巻、19頁〜28頁、2000年
(3)薬局 52巻、95頁〜102頁、2001年
(4)治療 84巻、31頁〜37頁、2002年
(5)日経ドラッグインフォメーション 58号、2002年

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