2002.07.27

【日本骨代謝学会速報】 骨粗鬆症研究はゲノムから“クリニコーム”へ−−学術賞受賞講演より

 日本骨代謝学会は7月26日、骨・カルシウム代謝関連研究の進歩に大きく貢献した4人の研究者に、今年度の学術賞を授与した。受賞者の一人、東京都老人医療センター内分泌科の細井孝之氏は、受賞講演で“クリニコーム”という造語を紹介し、「ゲノム情報に加え、今後はクリニコーム情報を用いた研究を進めたい」と抱負を語った。

 細井氏の受賞テーマは「骨粗鬆症の遺伝的素因に関する研究」。他の多くの慢性疾患と同様、骨粗鬆症の発症にも環境要因と遺伝的素因の双方が関与しており、遺伝的素因の寄与分は50%程度と見積もられている。

 どのような遺伝因子がどの程度発症に寄与するかがわかれば、将来の骨量推定や骨量を規定する環境因子の特定、さらには薬物療法に対する反応性の予測や、骨折リスクの推定も可能になる。そう考えた細井氏らは、骨粗鬆症の発症に関与する「遺伝子の個人差」(多型)の同定に着手した。

 遺伝情報の解析には血液などの生体材料が必要で、骨粗鬆症患者や対照群となる健常者から、インフォームド・コンセント(IC)を与えてもらう必要がある。「(成人病診療研究所所長の)白木(正孝)先生には、3000人ほどの方からICを得ていただき、大変助かった」と細井氏は振り返る。候補遺伝子については、1.成長期における骨格形成、2.生活習慣因子との相互作用、3.閉経後の骨量減少、4.骨・カルシウム代謝の変化、5.老化遺伝子−−の五つの観点から選定し、遺伝子多型のタイピングを進めた。

 最初に多型と骨量との相関が見付かったのはエストロゲン受容体遺伝子で、1995年から1996年にかけてのことだった。それを皮切りに、カルシトニンやインスリン様成長因子1(IGF1)、腫瘍壊死因子α(TNFα)遺伝子などのマイクロサテライト多型や、TNFβ、インターロイキン6(IL6)、時計遺伝子Klothoなどの一塩基多型(SNP)について、骨粗鬆症との関連が次々と明らかになったという。

 もちろん、狙いを定めた遺伝子の多型に、骨粗鬆症との関連が認められなかったケースも多い。「もし“Journal of Negative Data”という論文誌があれば、山のようなデータが報告できるだろう」と細井氏は話し、会場は笑いの渦につつまれた。

 細井氏らが研究を始めた当時と現在とで大きく変わったのは、人間のゲノム(細胞内、個体内の全遺伝子)が解読され、遺伝子解析研究にゲノム情報が利用可能になったことだ。「老化関連候補遺伝子については50SNPを同定しており、さらにゲノムワイドのSNPリストも利用できる」と細井氏は語る。

 ここに、個体における生理的・病的形質の全体像、つまり“クリニコーム”(Clinicome、細井氏の造語)情報を組み合わせれば、骨粗鬆症を始めとする老化関連疾患の分子生物学は加速度的に進むはずだ。細井氏らは既に、老化関連の24疾患について臨床的なパラメーターや病理学的な所見を集積しており、「今後はゲノム情報だけでなくクリニコーム情報も用いて研究を進めて行きたい」と述べた。

 なお、今年度の学会賞は該当者なし。学術賞は細井氏のほか、松本歯科大学生化学講座の宇田川信之氏(破骨細胞の機嫌と分化機構に関する研究)、大阪大学大学院医学系研究科分子病態内科学講座の小守壽文氏(Cbfa1/Runx2による骨格形成制御に関する研究)、東京大学医学部附属病院整形外科・脊椎外科の田中栄氏(骨吸収の細胞内情報伝達に関する研究)が受賞した。

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