2002.05.14

分子標的医薬「イレッサ」、固形癌に対する第1相試験結果が最終報告

 話題の分子標的医薬「イレッサ」(Iressa、開発コード:ZD1839、開発:英国AstraZeneca社)の第1相試験結果が、ついに論文発表された。非小細胞肺癌(NSCLC)だけでなく、食道癌や卵巣癌、中皮腫などの患者に対し、幅広い投与量での安全性が確認され、有効性も認められたという。研究結果は、Journal of Clinical Oncology(JCO)誌5月1日号に掲載された。

 ZD1839の標的分子は、上皮細胞成長因子受容体(EGFR)のチロシンキナーゼ(TK)。EGFRは多くの固形癌で過剰発現が認められており、EGFR-TKを阻害することで、細胞増殖につながるシグナル伝達を抑えて癌の増殖・転移を抑制する仕組みだ。同じEGFR-TKをターゲットとする抗癌剤には、スイスRoche社が臨床開発中の「タルセバ」(Tarceva、開発コード:OSI-774、旧コード:CP-358,774)がある。両薬ともTK阻害作用を持つキナゾリン系の小分子で、経口投与が可能だ。

 EGFRはErbB受容体ファミリーに属しており、同じファミリーには、乳癌などの腺癌で過剰発現するHER2(ErbB-2)がある。これは、昨年6月にわが国で発売された注射薬「ハーセプチン」(一般名:トラスツズマブ、開発:スイスRoche社)の標的分子だ。また、昨年12月に日本での販売が開始された経口薬「グリベック」(一般名:メシル酸イマチニブ、開発コード:STI-571、開発:スイスNovartis Pharma社)も、ZD1839と同様、TKを阻害することで抗腫瘍効果を発揮する。慢性骨髄性白血病などでみられる融合蛋白や、血小板由来成長因子(PDGF)などの受容体c-KitのTKが、メシル酸イマチニブの標的分子となっている。

 今回発表された第1相試験は、英米四つの癌研究施設で行われたもの。対象患者数は64人で、NSCLC、食道癌、卵巣癌、中皮腫、乳癌、前立腺癌などに罹患しており、うち94%(60人)は既存の抗癌薬に反応しなかった。ZD1839は28日を1コースとし、1日1回14日間連続投与した後、14日間休薬した。投与量は50〜700mgの8段階を設定した。

 その結果、一次評価項目である治療の「毒性」は、多くが皮疹(脂漏性皮疹など)と下痢、悪心、嘔吐などの皮膚・消化器系副作用であることが判明。グレード3以上の重篤な副作用は、下痢、嘔吐と腹痛が、1日700mg投与された4人の患者のみに認められた。こうした副作用が非常に軽いため、92%(59人)の患者は1コース以上の治療が受けられ、患者全体では154コースとなったという。

 なお、抗腫瘍効果としては、8カ月の観察期間にNSCLC患者16人中4人(投与量1日300〜700 mg)で部分寛解(PR)が認められたほか、食道癌(1人)、卵巣癌(1人)、中皮腫(1人)、類癌性病変(1人)とNSCLC(3人)の計7人の患者で病状が安定(SD)した。また、肺癌患者における呼吸機能障害の改善や、骨転移患者の骨痛の緩和など症状緩和効果もみられた。

 研究グループは「ZD1839は、通常の抗癌剤によくみられる骨髄抑制、心毒性などの副作用がなく、皮疹や下痢が少し認められる程度の忍容性に優れた薬剤。肺癌をはじめ、固形癌治療の新たな選択肢として期待できる」と結論付けている。

 ZD1839の固形癌に対する治療効果を確認するため、現在、日本では胃癌、欧米では乳癌、前立腺癌を対象とした第2相試験が実施されている。なお、わが国では世界に先駆けて、今年1月にNSCLCに対する単独投与薬として承認申請が行われている。第4四半期には欧米でもNSCLCを適応症に、他の抗癌剤との併用投与薬として承認申請が行われる予定だ。

 この論文のタイトルは、「ZD1839, a Selective Oral Epidermal Growth FactorReceptor-Tyrosine Kinase Inhibitor, Is Well Tolerated and Active in Patients With Solid, Malignant Tumors: Results of a Phase I Trial」。アブストラクトは、こちらまで。ZD1839の開発状況に関しては、AstraZeneca社の第1四半期業績報告(原文(PDF形式)及び邦訳)まで。(張辛茹、医療ジャーナリスト)

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