2001.09.04

【ESC学会速報】 心筋細胞Na/H交換系阻害薬、虚血再灌流後の心筋保護作用を示さず−−ESCAMI試験より

 心筋虚血時の細胞アシドーシスが改善される際、ナトリウム(Na)/水素(H)交換系(NHE-1)は、結果として細胞内カルシウム(Ca)の過負荷をもたらすと考えられている。しかし、再灌流前にNa/H交換系の働きを阻害しても、心筋細胞障害は軽減しないことが明らかになった。毎年注目の臨床試験結果が発表される“ホットライン・セッション”で、9月2日に報告された「ESCAMI試験」の結果による。

 ESCAMI試験は、NHE-1阻害薬のエニポライドを虚血再灌流前に投与することで、心筋のダメージ量(梗塞サイズ)が縮小するかどうかを調べた臨床試験。虚血性心疾患の臨床では、冠動脈閉塞などで虚血状態に陥った心筋の梗塞サイズを、いかに少なくするかが大きな課題となっている。報告に当たったドイツKassel診療所のU. Zeymer氏は、この課題の解決策として、1.早期再灌流、2.心筋需要酸素量の低下、3.直接的な細胞保護−−の三つが重要と指摘する。

 この三つのうち、「直接的な細胞保護効果」が期待されてきたのが、NHE-1の阻害薬だ。良く知られるように、虚血によりもたらされた心筋細胞内アシドーシス除去には二つの機序があるとされている。一つはNaと炭酸水素(重炭酸、HCO3)との共輸送体、もう一つがNHE-1だ。NHE-1によるpH低下は細胞内Na濃度を上昇させるが、その結果、Na/Ca交換機構を介して細胞内Ca濃度が上昇する。これがCa過負荷をもたらし、心筋細胞を傷害すると考えられている。

 Zeymer氏らは最初に、エニポライドの用量設定試験を行った。血行再建術(経皮的冠動脈インターベンション(PCI)または血栓溶解療法)を施行する前にエニポライドを投与する場合、100mgまたは150mgで梗塞サイズが最も小さくなることが明らかになった。

 そこでZeymer氏らは、急性心筋梗塞患者を対象にしたプラセボ対象無作為化試験を実施。患者をプラセボ群(322人)、エニポライド100mg群(321人)、同150mg群(316人)の3群に割り付け、プラセボまたはエニポライドを投与した後、再灌流療法を行った。

再灌流前の投与、エニポライドにも梗塞サイズ縮小効果なし

 エニポライドの効果は、梗塞サイズを1次評価項目として検討。血中αヒドロキシ酪酸脱水素酵素(αHBDH)濃度をマーカーとして梗塞サイズを判定したところ、3群の間に、梗塞サイズの違いは見出せなかった。サブグループ解析でも、エニポライドが有用であるグループは見出せなかったという。死亡や再梗塞などの臨床転帰にも、3群間に差を認めなかった。

 以上からZeymer氏は「心筋梗塞例に対する再灌流前エニポライド投与は有用ではない」と結論。「(再灌流前、つまり虚血後ではなく)虚血前からの投与により、最大限の有用性が得られるのでは」と結んだ。

 虚血成立後にNHE-1阻害薬の有用性を検討した試験としては、同じNHE-1阻害薬であるカリポライドを用いたGUARDIAN試験があるが、同試験でもNHE-1阻害薬の有用性は確認されていない(Circulation;102,3032,2000)。今回の試験結果も合わせると、「再灌流前投与という状況では、NHE-1の有用性は否定された」とZeymer氏はコメントしている。(指方 通、医療ライター)


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