<質問>
大腸がんの遺伝子診断を受けたほうがよいのはどのような人ですか。
<回答者>Robert Mayer氏、医師
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Dana-Farberがん研究所腫瘍内科・学術担当副責任者、Brigham and Women's病院上級医師、Massachusetts総合病院医師、Harvard大学医学部教授 |
家系によっては、大腸がんの発生率が一般的な母集団より高いことがあり、大腸がんのうち約25%はこうした家系の人にみられます。遺伝的に大腸がんになりやすいのは次のような人です。
第一度近親者(親・兄弟姉妹・子)の中に大腸がんになった人が2人以上いる人、2)第一度近親者の中に、50歳以前に大腸がんになった人が1人以上いる人、3)自身が50歳以前に大腸がんになった人。
ある人の健康状態に遺伝的な要因がありそうかどうかを判断するには、なんといっても家族歴を正確に調べることが重要です。残念ながら、現時点で遺伝子検査によって診断できる大腸がんは、家族性大腸ポリポーシスと遺伝性非ポリポーシス大腸がんという2つの症候群だけです。
家族性大腸ポリポーシス(FAP)では、この遺伝子をもつ人の90%以上で、20歳までに大腸全体に文字通り何千個ものポリープが生じます。このポリープは30歳ごろまでにがん化するので、大腸を全て摘出するという予防的な手術が行われます。FAPを発症する患者さんは特定の染色体(5q)に変異があり、体中のすべての細胞にこの変異がみられます。
そのため、検査では、血液を採取して血球からDNAを抽出し、この染色体異常の有無を調べます。結果が陽性だった場合は、親子、兄弟姉妹の第一度近親者も全員(小児も含めて)検査を受けるべきです。そして変異が見つかった人、特にすでに複数のポリープができている人には、予防的手術が行われます。
遺伝性非ポリポーシス大腸がん(HNPCC)は大腸がんの5%が該当すると考えられている家族性疾患で、最初に報告したDr. Henry Lynchにちなんで「リンチ症候群」と呼ばれることもあります。この遺伝要因がある人は30〜40代で大腸がんになる可能性がきわめて高く、特に大腸の右側、虫垂付近にがんが生じやすいという特徴があります。
また女性の場合は卵巣や子宮内膜のがんのリスクも上昇します。染色体は、ちょうどタイプミスを見つけるスペルチェッカーのように、複製時に生じた小さなエラーを修復する能力がありますが、HNPCC患者さんの腫瘍組織を調べるとこの修復能力の消失が非常に多くみられます(これを「マイクロサテライト不安定性」といいます)。マイクロサテライト不安定性のある大腸がん患者さんがかならずHNPCCというわけではありませんが、この不安定性が確認された人は遺伝子検査を受けるべきでしょう。
HNPCCの遺伝子検査は非常に複雑で、高額の費用もかかります。検査では血液を採取し、いくつかの生殖細胞系列変異について評価が行われて、診断が確定します。FAPの場合と同様、陽性と診断されたら、患者さんの第一度近親者も検査を受けて同じ遺伝子変異がないか調べるべきです。HNPCCの変異が見つかった人は、症状がなく健康であっても、通常よりかなり頻繁に(1年おき程度に)大腸内視鏡検査を受けるようにしてください。女性の場合は卵巣と子宮の注意深い診察も必要です。
とはいえ、FAPとHNPCCが家族性大腸がんに占める割合は20%にすぎません。FAPやHNPCCと診断されなくても、家族(特に若年者)に大腸がんが多い場合は、一般的な50歳ではなく30歳までには大腸内視鏡検査を受け、その後も定期的な検査を受けるべきだといえます。
(監修:岡山大学医学部 松岡 順治)
※編集部注釈
FAP、HNPCCなどの遺伝子検査は、国内でも受けることができます。遺伝相談を受け、検査内容を理解、納得した上で検査を受けることが重要です。遺伝相談が可能な医療機関のリストは、いでんネット(臨床遺伝医学情報網)から検索することができます。
This discussion was originally presented on March 01, 2006 on www.plwc.org この内容は、2006年3月1日に、米臨床腫瘍学会の患者向けサイト People Living With Cancer に掲載されたものです。
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