肝がんとともに

化学療法について

最新の分子標的薬の臨床研究結果

 ソラフェニブ(製品名「ネクサバール」)については、今年2011年6月に米国で開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO2011)で最新の臨床研究の結果が発表されました。

 ソラフェニブは、現在、進行肝細胞がんに対して使用できる唯一の分子標的薬ですが、まだ承認されたばかりです。そのため、どういった状態の患者さんに使用するとどういった効果が得られるのか、ということをさらに詳細に解明していく必要があります。

 そこで実施された臨床研究が、GIDEON研究と呼ばれるもので、正式名称は、「Global Investigation of therapeutic DEcision in hepatocellular carcinoma and Of its treatment with sorafeNib」です。

 この研究では、切除不能な肝細胞癌(HCC:Hepatocellular Cell Carcinoma)に対するソラフェニブの、日常臨床における安全性および有効性について、世界的な規模で調査を行っています。

 GIDEON研究には、39カ国から3000人を超える患者が登録されています。日本からも40の施設が参加しています。現在も研究は進行中ですが、今回はソラフェニブの投与開始から4カ月以上経過した1571例の患者さんでの治療内容および安全性に関する評価が、そして1612例の患者さんでの全生存期間(OS:Overall Survival)、無増悪期間(TTP:Time To Progression)が、中間解析結果として発表されました。

 このGIDEON研究の中間解析結果を要約しますと、肝機能を示す指標であるChild Pugh分類において、肝機能が中程度低下しているChild Pugh B(7〜9点)の症例では、肝機能が良好なChild Pugh A(5〜6点)の症例と比較して、ソラフェニブの投与期間が短く、重篤な有害事象の発現が多い、というものでした。また、有害事象としての死亡例は、Child Pugh Aの症例に比べてChild Pugh Bの症例で多かったことも明らかになりました。

 つまり、まず言えることは、ソラフェニブを安全に使用するには、肝機能が低下していないほど良いだろうと考えられる結果でした。

 GIDEON研究について詳細に見てみましょう。

 対象者1571例のうち、Child-Pugh分類が分かっていた患者さんの内訳は、Child-Pugh A症例は957例、Child-Pugh B症例は367例、Child-Pugh Cは35例でした。

 うち日本人の症例は、161例であり内訳はChild-Pugh Aが136例、Child-Pugh Bが20例、Child-Pugh Cは0例、Child-Pugh分類評価不能は5例でした。

 いずれのグループにおいても男性比率が80%以上と高く、年齢は60歳前後でしたが、80歳代後半や90歳代の方も含まれていました。

 ソラフェニブの投与状況について見てみると、添付文書に示されている投与量(1回400mg、1日2回で計800mg)である800mgを初回に投与された症例は、Child-Pugh Aでは77%、Child-Pugh Bでは71%でした。初回投与量が1日400mgだった症例も2割程度あり、1日平均投与量(中央値)は700mg前後でした(表1)

 ただし、8週以内に何らかの理由により投与を中止しなければならなかった症例は、Child-Pugh Aでは30%だったのに対して、Child-Pugh Bでは46%に上りました。また、投与期間(中央値)は、Child-Pugh Aでは14週だったのに対して、Child-Pugh Bは9週でした。


 また、Child-Pugh分類別に有害事象の頻度を解析した結果、全ての有害事象を対象とすると、Child-Pugh AとChild-Pugh Bの間で差はあまり見られませんでしたが、重篤な有害事象は、Child-Pugh Aでは29%だったのに対して、Child-Pugh Bでは56%と多い結果でした(表2)。また、薬剤と関連する重篤な有害事象も、Child-Pugh Aでは8%だったのに対して、Child-Pugh Bでは15%と多い結果でした。


 次に、有効性に関する結果について見てみます。

 全生存期間(OS)を、Child-Pugh分類別に解析した結果、全生存期間中央値は、Child-Pugh Aでは10.3カ月、Child-Pugh Bでは4.8カ月でした(図1)。全生存期間中央値とは、対象患者さん群の生存期間を見た場合に、半分の患者さんが生存されている期間を表しています。つまり、Child-Pugh Aだった984人のうち、半数の人は10.3カ月後に生存されており、Child-Pugh Bだった376人のうち、半数の人は4.8カ月後に生存されていたことを示しています。


 一方、肝がんが増悪(進行してしまう)するまでの期間(中央値)について解析した結果、Child-Pugh Aでは4.2カ月でしたが、Child-Pugh Bでは3.6カ月でした(図2)。つまり、Child-Pugh Aだった984人のうち半数の人が増悪するまでの期間が4.2カ月、Child-Pugh Bだった376人のうち半数の人が増悪するまでの期間が3.6カ月だったことを示しています。


 ここまでのGIDEON研究の結果について、発表された米国臨床腫瘍学会(ASCO)の場では、Child-Pugh Bの患者さんに対してソラフェニブは一般的に使用できるとは言えないこと、ソラフェニブはChild-Pugh Aの患者さん、つまり肝障害が進んでいない患者さんに用いるのが最適であると結論されています。

 なお、ソラフェニブが肝細胞がんの適応で承認される際の根拠となったSHARP試験は、対象者の95%がChild-Pugh Aの患者さん(ソラフェニブ割付群)でした。

 また、昨年(2010年)の米国臨床腫瘍学会では、SHARP試験の結果をさらに解析した結果が発表されています。

 その結果によれば、SHARP試験に参加した患者さんのALT(アラニントランスフェラーゼ、GTPとも言います)、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、GOTとも言います)、ビリルビンの値が低いほど、ソラフェニブによる治療のメリットがより大きい可能性が示唆されました。

 中程度の肝機能障害患者さんにおいては,ALT、AST、ビリルビンは、一般的に肝機能が低下するほど値が高くなる指標です。つまり、先ほど述べたGIDEON研究とこのSHARP試験をさらに解析した結果から、ソラフェニブは、肝機能が良好であるならば、より高い効果が得られると期待される薬剤といえます。肝機能が低下している症例での効果については、今後のGIDEON研究の進展を待つ必要があると言えるでしょう。