
【Photo Gallery】 2008.6〜
国立成育医療センター
国際援助活動
今回は、国立成育医療センターの国際援助の活動先であるラオス国立母子保健病院を取材した。発展途上国の健康水準や医療状況はまだまだ整備されているとはいえず、各国や各団体からの是正を目指した介入が行われている。しかし日本では、国際保健医療プログラムは数少ないのが現状だ。
国立成育医療センターでは、成育10ヵ年計画の1つとして国際保健医療が掲げられた。2005年のラオス視察に始まり、翌年ラオス国立母子保健病院と友好病院協定を締結。成長曲線の作成、自動二輪運転者に対するヘルメット着用推進教育など、事業を着実に積み上げてきた。
プロジェクトの中心人物である堀越先生は高校生の時にアメリカに留学し、ホストファミリーの温かい心に触れたことが国際協力を志すきっかけとなった。学生時代はバッグパックを背負い、アジア、ヨーロッパ、中南米への旅を繰り返した。
沖縄中部病院での研修後、カンボジア小児病院で次々と亡くなる子供たちを看取る経験を通して、国際母子保健に関わることを決めた。その後入職した国立成育医療センターでは、国際保健医療プロジェクトが立ち上がるところだった。声をかけられ仕事をするうちに、プロジェクトの中心となった。現地スタッフからも深く信頼されている。
堀越先生はこの6月で成育医療センターを退職し、トロント小児病院感染症科クリニカルフェローとしての研修を始め、新たな一歩を踏み出そうとしている。国際母子保健や海外の医療事情について何も知らなかった同僚の私に対して、彼は多くのことを教えてくれた。彼のシャイな人柄の中にある、弱者への温かい眼差しを私は尊敬している。
ハード面での援助ももちろん大切であるが、自分自身で判断し行動できるようになるために、人的交流を介した継続的な教育活動が大切だとつくづく思う。仕事を通して海外へ出ると、多くの人と出会い、さまざまな事柄に気付く経験をする。堀越先生もそうだが、若い時代に国際的な視野を広げることの大切さを感じる。国際保健医療について興味のある方は『国際保険医療学』(杏林書院)を、母子保健領域についてはLancetの『Child Survival Series』(2003)の一読をお勧めする。
■ラオス国立母子保健病院(Mother and Child Health Hospital)
首都ビエンチャンの中心にある国立母子保健病院はラオス母子医療の中核となる病院であるが、その医療事情は非常に厳しい。予算も限られ、十分に教育された医療者も少ない。しかし、周産期・小児医療を求める人々はここを頼りにやってくる。
国立母子保健病院の小児科医ブンナック先生は9歳でビエンチャンへ単身上京、働きながら医師となり旧東ドイツへ留学した立志伝中の人物だ。祖国ラオスの母
子医療を良くしたい一心で奮闘を
続けている。
■小児科医 堀越裕歩先生
若いレジデントに対しての教育、成育医療センター院内での調整、ラオスで活動するWHO、UNICEF、JICAなど他の機関との情報交換や調整、予算の獲得など、プログラムを継続するにあたっては苦労も多い。しかし若いレジデントの中に興味を持つ人が出てきたこと、ラオスの医療を良くしたいという現地スタッフたちと協力し合いプロジェクトがうまく進めた時の喜びは大きい。
■ラオス成長曲線作成プロジェクト
ブンナック先生の長年の夢であったラオス人独自の成長曲線作成のプロジェクトが始まって2年が経過した。男児150人、女児150人を対象としたコホート研究として体重、身長、頭囲の計測、発達の観察を記録。データコレクターの教育、データ入力の確認などを繰り返しながらサポートを続けてきた。現在のところ転居、死亡などでの脱落は約7%と高い追跡率を維持している。
■その他のプロジェクト
ラオスでは自動二輪の増加に伴い交通外傷での死亡数が急増し、特に多くの若い命が失われている。罰金などの法整備により改善もみられるが、ヘルメットの着用率は高いとはいえない。通学に自動二輪を利用する高校生に対し、Peer Educationを用いたヘルメット着用推進教育を行っている。
他にも、内陸国ラオスではヨード欠乏の危険があるため、食塩へのヨード添加が行われている。それに関連して妊婦への尿中ヨード濃度測定を行い、多くの妊婦で基準値を下回るという結果を得た。
また、経皮ビリルビン測定器を提供しての新生児黄疸のモニター、コンサルテーションや新生児蘇生術の講義などの教育活動も行っている。