加来 次に稲垣先生より、SGLT2阻害薬の安全性について解説いただきたいと思います。

稲垣 先ほど、下村先生からお話しいただいたSGLT2阻害薬による効果と作用機序は、同時に様々な副作用の発現にかかわってきます(図2)。例えば、尿中に糖を排泄するため糖濃度が高くなり、尿路感染症を発症しやすくなります。浸透圧利尿により体液量が減少する結果、血圧が下がり心血管イベント抑制につながる可能性もあります。その一方で頻尿・多尿に伴う脱水から血液凝縮が生じ、心血管イベントを増加させる懸念もあります。

 また、糖新生が活性化することで脂肪分解、蛋白質分解の亢進が起こり、これがケトアシドーシスや、筋肉量の低下といったサルコペニアを惹起する懸念もあります。

 実際のルセオグリフロジンの国内臨床試験における副作用ですが、安全性評価対象例数1,262例中、236例(18.7%)、452件に副作用が認められました。

 糖尿病薬で特に懸念される低血糖症は30例(2.4%)に認められ、そのうちSU薬の併用において13例(8.7%)に認められています。SGLT2阻害薬は作用機序を考慮すると低血糖を起こしにくい薬剤であると考えられますが、SU薬と併用する場合には特に注意が必要であると考えられます。SGLT2阻害薬は糖新生を亢進して血糖値を維持する薬剤ですから、肝硬変患者や極端な糖質制限をしている患者では、糖新生が追いつかず低血糖が発現する可能性は否定できないと思われます。

 尿路感染症は、長期投与試験では一定の割合で膀胱炎や外陰部膣カンジダ症が認められています。特に日本の女性患者はこうした訴えをしにくい傾向がありますから、十分に観察する必要があると思います。承認時における副作用として、頻尿は35例(2.8%)、多尿が1例(0.1%)、口渇は10例(0.8%)と数字上はそれほど多くない印象です。しかし、プラセボ対照試験の併合解析(前期・後期第Ⅱ相臨床試験、第Ⅲ相二重盲検比較試験)における12週時点のルセオグリフロジン単独投与群(2.5mg/日、195例)においては、ヘマトクリット値やヘモグロビン量、BUNの変化量が、それぞれ2.26%(プラセボ変化量:0.60%)、0.69g/dL(プラセボ変化量:0.19g/dL)、1.0mg/dL(プラセボ変化量:−0.1mg/dL)上昇しており、循環血漿量が減少して血液がやや濃縮している傾向があることがうかがわれています。

 また、血中ケトン体については、同解析における12週時点のルセオグリフロジン単独投与群(2.5mg/日、135例)ではアセト酢酸、βヒドロキシ酢酸の変化量が、それぞれ43.8μmol/L(プラセボ変化量:25.1μmol/L)、109.5μmol/L(プラセボ変化量:64.3μmol/L)上昇していました。ケトン体の増加は、インスリン作用不全によるケトアシドーシスを悪化させる懸念がありますので、インスリン分泌不足の患者さんへの使用は避けるべきでしょう。

 また、体重減少を引き起こす可能性がありますので、特にやせ型の高齢患者、筋肉量がそもそも少ないような患者では、サルコペニアといった、そういう点にも注意する必要があると考えます。

加来 それでは続いて討論に入りたいと思います。まずSGLT2阻害薬は、どういった患者に適していると考えられますか。

浅野 食事療法を遵守できない患者にSGLT2阻害薬を導入し、体重を落としながらインスリン感受性やβ細胞の保護をはかるという方法が有用だと考えています。

加来 それは既存の血糖降下薬とは異なるポイントですね。

下村 血糖値の改善効果は確実に認められると思いますが、高齢の患者では脱水、やせ型の患者ではサルコペニア、また、女性では泌尿器や生殖器系の感染症が懸念されます。したがって、こういったリスクの少ない中壮年の男性で、肥満、メタボリックシンドロームを伴う症例により安全に有効に使用できる可能性が高いのではないかと思います。

加来 リスクを極力抑え、ベネフィットが得られやすい患者像となると、非高齢者、どちらかというと肥満とりわけ内臓肥満を伴ったような方、そして男性ということになりますか。

下村 そうですね。特にそのような患者では心血管イベント発症リスクを抱えていることもあり、よりベネフィットが期待できると思います。

加来 そういった症例には、SGLT2阻害薬を第一選択薬として使えると考えてもよろしいでしょうか。

下村 海外でSGLT2阻害薬投与によりLDLコレステロール値が増加したという報告もあります。従って、第一選択薬とするには心血管リスクなども考慮しつつ、日本人でのさらなる臨床知見が必要だと思います。

稲垣 これだけ明確に体重を減少させる経口血糖降下薬は、今までにありませんでした。やはり肥満あるいはメタボリックシンドロームを呈する症例に使いたいと考えていますが、第一選択薬としては、今後、安全性も考えたうえで使い方などを議論する必要があると思います。

加来 安全性の面からは、どのような患者で注意が必要でしょうか。

下村 蛋白質分解による筋肉量の減少などがダメージになるという点では、高齢患者、やせ型には注意が必要です。先ほど、肥満、メタボリックシンドロームが適すると申し上げましたが、糖尿病発症初期や早期において高血糖による体重減少が進みつつある時にSGLT2阻害薬を安易に使うと、ケトアシドーシスを起こす危険性もあると思います。

加来 2型糖尿病で罹病期間が長い症例、インスリン依存期の症例などに、インスリン導入なしに安易に使うのは要注意ということですね。先ほど、浅野先生から脱水のご指摘がありましたが、利尿薬を使っている症例でも同様のことが言えるのでしょうか。

浅野 利尿薬とSGLT2阻害薬の併用は相加的か相乗的かはわかりませんが、脱水のリスクがかなり高いと思います。

加来 高用量のビグアナイド薬との併用でも、特に脱水に注意が必要ですね。

稲垣 その通りだと思います。ビグアナイド薬投与患者では、今なお、シックデイや脱水に伴う乳酸アシドーシスより一定の割合で死亡例が報告されています3)

加来 治験データでは、尿路性器感染症が少ないようですが、日本人の臨床試験は一般的に女性の参加者が少ないことが影響している可能性があり、実臨床では注意が必要です。

稲垣 本人が自覚していなくても、尿路感染症を起こしている場合も少なくないと思います。

加来 今年日本では、SGLT2阻害薬の6剤が発売もしくは発売される見込みです。

稲垣 今は、どの薬剤が最も有用かという議論よりも、まずこのSGLT2阻害薬を安全かつ適正に使用して、事故を起こさないことが重要だと思います。そのためには、どういう患者にSGLT2阻害薬が適しているのかをさらに明確する必要があると思います。

加来 そうですね。SGLT2阻害薬は従来にない非常に多面的な作用が認められている一方、安全性についても様々な懸念があります。それらを考慮すると、まず処方を検討してみたい臨床像としては、非高齢者で、肥満とりわけ内臓肥満を伴うような患者、そして飲水などの留意事項に十分に対応が可能な方が考えられます。
 この薬剤は海外での評価が高いですが、その理由としては体重減少作用が大きいと考えています。体重の減少はHbA1cなどの検査値のように来院せずとも、自宅で自ら確認できるため、有効性をすぐに実感できることがメリットではないかと考えます。
 これまでの議論でもありましたが、SGLT2阻害薬のもつリスクとベネフィットを十分に考慮し、最も適している患者からまず使って、適正使用に努めることに尽きると考えます。  本日はありがとうございました。

1)Fukuzawa T, et al: PLoS One 2013; 8: e56681
2)Bolinder J, et al: J Clin Endocrinol Metab 2012; 97: 1020-1031
3)ビグアナイド薬の適正使用に関するRecommendation, 2014年3月28日改訂
※本記事のルセオグリフロジンに関する臨床データは、承認時評価資料に基づいております。