社会医療法人 愛仁会 医療業界を取り巻く環境変化に対応するためBIとGISを連携させたマーケティング活動を開始

“今後激変する医療業界で愛仁会が必要とされるためには、常に正しい情報を医師や職員に提供し、そのもてる能力を存分に発揮できるよう支援することが重要です。患者に満足していただく最高の医療を提供する環境をどのように作っていくかが今後の私たちの課題ですが、Oracle BIEEはそれに大きく寄与するシステムになると確信しています” - 愛仁会 局長 松原正明氏

松原 正明氏

社会医療法人 愛仁会
局長

松原 正明氏

社会医療法人 愛仁会(以下、愛仁会)は、1957年に大阪で創立した医療法人だ。最先端の医療設備を備える千船病院、高槻病院の2つの急性期病院と、リハビリ専門病院の愛仁会リハビリテーション病院を中心に、介護老人保健施設、訪問看護ステーション、在宅介護支援センター、ケアプランセンター、ヘルパーステーション、看護助産専門学校などを有する。また、グループ内には社会福祉法人愛和会、医療法人社団明石医療センター、医療法人蒼龍会などの法人を有し、その他地域の医療機関ともパートナー・アライアンスを組み、医療・介護・保健・福祉・教育を包括した総合的な地域医療活動に取り組んでいる。

愛仁会の部門別原価管理を支えるシステム

2009年に社会医療法人として認定された愛仁会は、厚生労働大臣が定める地域の医療体制を確保するための5疾患/5事業の医療計画のうち、3事業(救急、小児救急、周産期)をカバーするなど、全国の社会医療法人のなかでも広範囲に取り組む稀な存在としても知られ、長年の医療活動と介護・福祉事業の実践が業界でも高く評価されている。
また、日本の医療法人にはオーナー経営が多いなか、愛仁会は設立当時から非同族経営と合議制による意思決定といった組織風土を重視してきた。業容が多様化し始めた1977年、医療現場とは独立する形で理事会直轄の本部事務局(現在の愛仁会本部)を設置することにより、迅速な意思決定に必要なデータの収集・分析や、経営計画立案のための徹底的なディスカッションがおこなわれるなど、中長期的な視点から病院経営を考えるガバナンスが形成されている。
それを支えてきたのが愛仁会本部の設立前後から運用されてきた3つのITだ。1つは電子カルテシステム。レセコンが出ていない1970年から医事会計システムを構築し、現場で医師の指示をすぐに入力する発生源分散入力を実施。それをもとにオーダリングシステムが構築され、現在は電子カルテシステムへと発展。
2つ目は収支を支えるIT。1970年代に給与計算センターで稼動していたシステムは現在、人事給与システム、財務会計システムとして稼動中だ。
そして3つ目が1982年から運用を開始した部門別原価管理システムである。愛仁会 局長 松原正明氏は、このシステムの重要性について次のように語る。「従来、半年単位に手作業で行っていた原価計算をシステム化したもので、診療科が増えるごとにレイアウトは若干変化してきましたが、考え方は当時のままの形で今も残っています。法人全体の意思決定がおこなわれる役員会議資料などを含めすべてのデータがイントラネット上で保管され、それが愛仁会の強みになっています」。
病院は医療活動が診療科ごとにおこなわれることから、部門別での原価計算の実施は病院の原価管理に大きく影響する。また、診療報酬が公定価格で定められているため、収益増による改善には限度があり、費用の削減に努めなければならない。医療機関が経営基盤の強化と安定化を図るためには、コストを削減するだけではなくコストを合理的に管理する部門別原価管理システムが不可欠といえる。
この部門別原価管理システムに活用されているのが、Oracle Business Intelligence Enterprise Edition 11g (以下、Oracle BIEE)と、Oracle Databaseだ。

スピード感が求められる愛仁会の経営管理

Oracle BIEEの活用のきっかけは紙の資料の電子化だったと話すのは、愛仁会 医療情報部 課長 井内伸一氏だ。「愛仁会の事業規模が大きくなり、施設の数が増えるにつれ、以前は20枚程度だった役員会議用の経営管理資料が、最近は50枚を超えるまでになり、会議のたびに資料を作成する手間とコストが大きな負担となっていました」と井内氏は振り返る。
愛仁会は経営判断のスピード感も株式会社に近い形でシビアに進める。たとえば、第2木曜日に会計が締まり、翌週の第3月曜日に役員会が開催されるので、その間に理事長、事務サイド、医師が判断するための経営管理資料を準備しなければならない。また、起案書の記載方法が起案部署や作成者によって異なるため、会議の出席者からも、論点の把握に時間がかかり、協議中の資料も探しづらいとの声が上がっていたと井内氏は明かす。
紙媒体は日々の実績や月次報告などの定点報告が主だったが、Oracle BIEEを活用することで大量のデータから必要な情報を整理して提供することが可能になり、出席者全員が同じ資料を閲覧しながら協議し、タイムリーに状況把握し考えるための道具として活用できるようになったという。また、今後は経理が締まった瞬間にデータ連携がおこなわれ部門別原価計算が完了するため、資料を作る側の省力化と見る側の効率化が同時に実現する見込みであるという。

病院経営の改革で医療業界の環境変化に対応

井内 伸一氏

会医療法人 愛仁会
医療情報部 課長

井内 伸一氏

さらに、Oracle BIEEの活用を今後促進する大きなポイントとなったのが医療業界を取り巻く環境の変化だ。その1つが2014年度から導入される「病床機能報告制度」である。厚生労働省は現状把握のため各医療機関に急性期、回復期、長期療養、特殊疾病などの医療機能のほか、人的体制、構造設備などの病床機能についても管轄の都道府県に報告するよう求め、2018年度に開始される第7期医療計画において医療・病床機能を把握できるように検討している。
2つ目は、2014年度の診療報酬改定における「医療提供体制の効率化」だ。入院基本料が高額な重症患者向けの急性期病床を現在の4分の3に削減し、医療費の抑制を図るというものだ。
これまでの病院は受け身の立場で安住してきたと松原氏は指摘する。「従来は流通業のように商圏を分析して住民の所得傾向に応じた店舗展開をおこなうようなマーケティングを実施しなくとも収益が確保できていましたが、もはやそのような状態ではなくなったといえるでしょう」。
井内氏も、こうした医療制度改革による影響に言及する。「診断群分類(Diagnosis Procedure Combination)別包括評価制度やレセプト電算処理により国側もナショナル・データベースを保有し、どの地域に、どんな疾患をもつ患者が存在しているのかを把握できるようになります。病院側も可能な限りデータを保有し、どこにどのような医療ニーズがあるのか、どのニーズを取り込むことができれば収益につながり、どの程度の費用が発生するのか計算を積み上げることが必要になっています」。

地図を使ったマーケティング・イメージは経営会議でも好評

そこで、まずは取り組みやすいところからマーケティングをおこなおうと考え、2013年5月〜7月にいくつかの手法を検討。その結果、見た目でのわかりやすさを重視して、Oracle BIEEとGIS(Geographic Information System:地理情報システム)を連携させた商圏分析の実施を計画した。「法人内で意見を募った結果、紙時代と同じレイアウトのGUIでは反応は鈍かったのに対し、地図はイメージに残りやすく経営会議でももっとも関心が高い結果となりました」(井内氏)。
そうして2013年10月から構築を開始。当初は市販の住宅地図を使っていたが、後にジオコーディング(住所からの地理座標変換)機能や商圏作成機能を備えた専用GISを導入した。また、Oracle BIEEとのデータ連携を強化し、ダッシュボード化もおこなっている。
分析の対象となったのは、愛仁会グループの4地区(千船、宝塚、豊中・吹田・高槻、明石)の病院だ。Oracle Databaseに蓄積したレセプトデータをもとに地図データ上で患者がどこに居住しているのかを表示。さらに人口当たりの受療率を計算して表示することができるため、マーケティング・ツールに活用する予定だ。また、地域の診療所にアプローチする際にも利用することを視野に入れている。

新経営管理システムの導入による生産性と収益の向上

2014年度にはOracle BIEEとGISを活用した新しい経営管理システムの運用がスタートする。
「経営者は日々忙しいため、時間がない中でいかに迅速に意思決定をするかが課題でしたが、もっとも効果的な手段の一つが地図連携でした。Oracle BIEEとGISとの連携が始まったことで、経営者からはさまざまなリクエストが来るようになっています」と松原氏も期待を寄せる。
また、井内氏も「Oracle BIEEは地図ソフトと連携させることで、地図をきれいに見やすく作ることができるので、次も使ってみようかという気にさせる効果があります。使い方をおぼえれば作り込みが可能な柔軟性があり、そのためのノウハウが世の中に豊富に存在することも強みですね」と感想を述べる。
経営管理システムの狙いは大きく3つあるという。1つはマーケティング(患者はどこに存在するのか)、2つ目は機能整備(患者を受け入れるためにはどんな医療機器や技術をもったスタッフが必要か)、3つ目は地域連携・広報(どうすれば受療してもらえるのか)だ。
「このシステムを使うことが、病院の収益向上のための仕事をいかに作るかを考えるきっかけになります。生産性の高い仕事の獲得こそが本当の成果です」(井内氏)。

患者が満足する最高の医療環境を作る

Oracle BIEEとGISの今後の活用について、井内氏は愛仁会の強みを活かしたノウハウのサービス化の可能性を示唆する。愛仁会は医療が収益の中心になっているが、人生のほぼすべてのステージに関わるトータルヘルスケアを提供する法人であり、今後グループ内のデータをOracle BIEEのレポジトリに集約することで、愛仁会に関る人がどのように生まれ、育ち、どんな医療や福祉サービスを受けてきたのかを履歴で把握することがサービスにつながるという。
「そうしたデータが今後数十年かけて延べ数千万人分、数億人分も蓄積していくならば、食生活や生活習慣、居住地域などを分析することによって、将来罹患する確率の高い疾病予測など、新たな可能性も生まれるのではないかと考えています」(井内氏)。
そして松原氏は、今こそ医療法人は質が厳しく問われていると語る。「今後激変する医療業界で愛仁会が必要とされるためには、常に正しい情報を医師や職員に提供し、そのもてる能力を存分に発揮できるよう支援することが重要です。患者に満足していただく最高の医療を提供する環境をどのように作っていくかが今後の私たちの課題ですが、Oracle BIEEはそれに大きく寄与するシステムになると確信しています」。

課題

  • 役員会議で使用する経営管理資料の発行の手間とコストを削減する
  • 経営判断のスピードを向上させる
  • 資料の記載方法を統一する
  • 紙媒体の資料を一層読みやすくし、迅速な内容把握を可能にする
  • 2014年度から導入される 病床機能報告制度へ対応する
  • 2014年度診療報酬改定で求められる医療提供体制効率化に対応する
  • 病院経営におけるマーケティング手法を導入し収益を確保する
  • 多忙な医師・職員のBI利用を促進する

導入効果

  • Oracle BIEEとGISの連携による経営管理システムの活用の促進
  • 経理システムと連携した部門別原価計算システムを構築
  • 資料を作る側の省力化と見る側の効率化が同時に実現
  • 医療マーケティングを実施できるシステムの構築
  • 個々の患者に対する機能整備の明確化
  • 地域連携・広報の実現
  • 病院の収益向上に向けた仕事作りへの意識向上
  • 愛仁会グループ4地区のレセプトデータを基にしたマーケティングの実現
  • 地域の診療所との病診連携の基盤づくりが実現
  • 愛仁会の強みを活かしたノウハウのサービス化の基盤づくりが実現
  • 出産からか介護まで、患者の医療履歴の収集が可能に
  • 疾病予測や先制医療の臨床研究などへの発展

オラクル選定理由

  • 大量データからの必要な情報を整理しタイムリーな状況把握に活用できる
  • 見やすくきれいな地図データを生成できる
  • 将来も含めたシステムの柔軟性が確保できる
  • 豊富なシステム活用のノウハウがある

導入プロセス

  • 2013年5月〜7月:Oracle BIEEとGISを連携させた商圏分析の実施を計画
  • 2013年10月〜:新経営管理システムの構築を開始
  • 2014年2月末:Oracle BIEEとGISと連携した新経営管理システムの運用を開始予定

オラクル製品とサービス

  • Oracle Business Intelligence Enterprise Edition
  • Oracle Databasect

(本事例は2014年3月のものです)

Oracle Customer

AIJINKAI

社会医療法人 愛仁会

  1. URL:www.aijinkai.or.jp
  2. 業種:Healthcare
  3. 従業員数: 2,522名

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聖路加国際病院 Quality Indicator事業の推進により医療の質改善を実践医療データの活用によるQI測定・分析、臨床支援システム構築

聖路加国際病院は、他の医療機関に先駆けて医療の質を評価する指標であるQuality Indicatorを測定・分析し、質の改善活動に取り組んでいる。病院情報システムのデータを利活用したQI計測・分析システムや臨床決断支援システムの構築・運用により、医療の質向上を実現している。

聖路加国際病院(St. Luke's International Hospital)は、米国聖公会の宣教医師のルドルフ・トイスラー医師が1902年に東京・築地に診療所を開設したことを端緒として、現在の大規模病院へ発展してきた。
「病院ランキング」などでは、しばしば上位に評価され、1日平均の外来患者数は約2,700人に上る。一般病床520床を有し、プライバシー保護や静かな環境、感染症予防の観点から小児病棟や緩和ケア病棟、集中治療室などの一部を除いたすべての病室が個室である。約380名の医師と約870名の看護師が在職し、1ベッド当たりの医師数、看護師数を全国平均値と比較すると医師は約4倍(0.65人)、看護師は約2倍(1.35人)の人数が勤務している。充実した医療スタッフによる手厚い医療・看護が提供されており、毎年実施する患者満足度調査では9割を超える患者さんが同病院の入院治療に満足しているという。
また、2012年7月には、国際的な医療施設認証機関であるJCI(Joint Commission International)の認証を取得。病院としては国内3番目であり、聖路加国際病院、聖路加国際病院附属クリニック予防医療センター、聖路加産科クリニック、聖路加訪問看護ステーションの4つの事業体の複合医療施設で同時に認証を取得したのは国内初である。

より良い医療の提供に向けたQI活動を推進

嶋田 元氏

学校法人聖路加国際大学
情報システムセンター センター長

嶋田 元氏

2010年に厚生労働省が立ち上げた「医療の質の評価・公表等推進事業」が始まったのを機に、医療の質を評価・改善しようとするQI(Quality Indicator)事業を推進する医療機関が増えた。聖路加国際病院は、それを遡る2005年頃からいち早くQI事業に取り組んでおり、2007年からは他施設に先駆けて一般書籍として活動の経過を公表している。
「医療の質」というのは多くの場で使われる言葉だが、その意味は必ずしも明確でない。「一般的に引用される医療の質の定義は、『患者さんに望ましい健康アウトカムをもたらす可能性をどれだけ高くするのか、その時々の専門知識に合致しているのかの度合い』とされています。望ましい健康アウトカムもたらす可能性が高く、かつその時々の専門知識に合致した医療というのは、根拠に基づいた医療(EBM=Evidence-based medicine)です」。学校法人聖路加国際大学 情報システムセンター センター長の嶋田 元氏はこう説明する。
日常診療では、患者さんの意向や医療提供側など様々な要素がからむが、患者さんに望ましい健康アウトカムにつながるような目標を持って、検査結果や医学的知識、最新の研究結果などに基づいて医療行為が行われる。「このように、根拠に基づいて提供される医療と日常の診療が合致している度合い、つまりエビデンスとプラクティスのギャップが小さいことが、“質の高い医療”と言えます」(嶋田氏)。QIは、エビデンス・プラクティス・ギャップを計測するための指標であり、医療の質を評価するためのものと説明する。
医療の質を評価する際には、ストラクチャー(構造:組織、医療機器、医療スタッフの種類・数)、プロセス(過程:実際の診療・看護内容、職員の行動)、アウトカム(結果:治癒、生存、QOL)の3つの側面から評価される*。

量から質へ 質から価値へ

「変化が現れやすいという点で、3つの側面のうちプロセスにおけるQIに着目した方が、質の改善に結びつく可能性が高いと言えます。医療者の行為として実践したかどうか見ることによって行動変容を促し、それがより良いアウトカムを生むならなお良いということになります」(嶋田氏)。
同院では、QIをQuality IndicatorとQuality Improvement(質の改善)の2つの視点で実践している。指標の選択から指標値の解釈→要因分析→改善策の決定→改善策の実行のPDCAサイクルを継続的に回すことによって、医療の質の改善に取り組んでいるのである。

量から質へ 質から価値へ

データの利活用によるQI活動、臨床支援にも利用

質改善活動では、指標値の算出はもちろん、要因を分析する際にも情報(データ)の利活用は不可欠。2003年に電子カルテシステムを導入した聖路加国際病院は、2005年から電子カルテ上に保存されたデータを基にしてQIの測定を開始した。医療情報センターでは、それらのデータをはじめ、医事システムや人事・出退勤システム、看護勤務システムなどのサブシステムからデータを抽出・加工して臨床現場にフィードバックしてきた。また、2003年からデータの二次利用を目的にデータウェアハウスシステムも導入し、計測したQIの分析等に活用してきた。「利用しやすい仕組みであり、素早い検索もできる利便性の高いシステムでしたが、データ構造が古くなったり、分析対象が拡大したりといったことを背景に、QIにおけるより細かい要因分析に対応しにくくなっていました」(嶋田氏)。
そこで同院では2011年の電子カルテ更新の際に、電子カルテデータの二次利用とバックアップを目的としたデータベースを新たに導入。電子カルテベンダーとの契約の下、同システムの業務系データをレプリケーションして、入力された情報すべてを利活用できる環境を整備した。これにより利活用できる情報量が多くなり、医療の質改善に向けたPDCAサイクルが、かなり柔軟に回るようになったという。
こうしたデータの利活用を基にQI指標を用いた医療の質改善事例の1つに、糖尿病患者の血糖コントロールの向上がある。過去1年間に同院で治療薬(インスリン製剤、血糖降下薬)を施行された外来患者数に対するHbA1c値が7%未満の患者数を指標とするもので、病院全体、担当医師別の指標達成率など算出している。「医師によってコントロール率にばらつきがあり、特に糖尿病専門医でない医師のコントロール率が低い傾向にあります。それぞれの医師が自身の診療領域における弱点を認識するというだけでも、QIの成果はあると考えます」(嶋田氏)。こうした非糖尿病専門医を対象に、内分泌・代謝科医師による治療薬の選択と使用法についての講演や勉強会を何度も開催することによって、処方内容に変化が見られコントロール率が劇的に改善したという。「指標達成率の高いQIを明らかにするより、達成率が低いものを改善することに意義があると思っています」(嶋田氏)と、QI活動最大の目的を話す。
電子カルテをはじめとする病院情報システムのデータを利活用してQIを測定し、分析を経て臨床現場にフィードバックすることにより、質改善活動を実施してくる中で、さまざまな課題も出てきた。課題の中でも、実際に改善策を提示するものの、臨床現場の医師がいろいろな理由で実践に至らないケースがあることだという。「その理由には、改善策を知っていても適用したくないケース、知らなかったケース、あるいは忘れてしまっていることなどさまざま。そこで、日常診療の中で質改善に向けた行動変容をシステム的に支援できないかと考え、既知の質改善方策を医療者側にリマインドする仕組みを構築しました」(嶋田氏)と、臨床決断支援(CDS)システムの開発経緯を述べる。
同システムによる決断支援の仕組みは、通知条件に合致した患者さんが受診する際に、診察予定の医師に向けて推奨行為を提示・通知するもの。2011年12月の運用開始以来、ステロイド誘発性骨粗鬆症予防、降圧剤処方患者に対する血圧データ入力の促進、ワーファリン(経口抗凝固剤)の処方とINR検査における院内ルール遵守、妊婦に対する風疹の再検査促進、輸血後のB型・C型肝炎等の感染症チェックなど、数々の臨床決断支援(リマインド)として運用されている。

データの利活用に課題が多い電子カルテシステム

聖路加国際病院が医療の質改善に向けた活動、臨床決断システムの構築・運用を実現できた背景には、電子カルテシステムをはじめ、各部門に分散されているサブシステムに蓄積されているデータを、できる限り利活用するという構想の下に構築し、統括的に管理できていることがある。診療部門、放射線部門、生体検査部門など部門ごとにまったく業務が異なるために各部門にシステム運用・管理が任される医療機関が多い中で、同院は情報化に関する明確なポリシーとルールを持って、それを実践するための体制を整備する情報ガバナンスが確立されているから実現できたことだ。
ただ、現状の電子カルテを中心とした病院情報システムは、診療現場の業務効率化や医事請求のための仕組みとして開発されてきた経緯があり、医療安全や医療の質を高めるためことを目的にデザインされたシステムでない。「医療の質改善のためにデータ活用するのは、いわば電子カルテシステムの目的外利用で、多くの課題が存在します」と嶋田氏。選定している指標はトータルで約400あるが、2005年当時の電子カルテシステムから抽出できるデータは100程度で、現状もそれほど多く取得できないのが実態だという。
「その中でも特に扱いにくい情報として、病名は多くのデータに付随しますが、レセプトチェック段階の正しい病名であるか、疑わしい病名として入力されたものが消去し忘れたのかなど、データの鮮度が明確でない。あるいは、診療録やサマリーなどは個々の判断で読みやすいように、利用しやすいように変更・修整されるので、重要な情報が欠損したり、不必要な情報が多くなったりします」(嶋田氏)と、電子カルテデータの二次利用の難しさを指摘する。

業務支援システムから質向上システムへ

従来のオーダリング・電子カルテシステム、さまざまな部門システムは、診療業務における業務効率化、情報の共有化を目的に導入・運用され、一定の成果を上げてきた。嶋田氏は今後、医療安全や医療の質の向上を支援するためにITをさらに活用していきたいと嶋田氏は強調する。
「業務支援として電子カルテなどのパッケージを導入することは、その目的を達成できます。反面、医療機関が抱えるさまざまな課題を解決しようとしたとき、電子カルテの性能やポリシーなどに依存してしまうような医療情報システムでは目的を実現できません。医療の質を高めるための分析・実行を促進するようなシステムは、電子カルテシステムの外側に構築する方が望ましいと考えます」(嶋田氏)といい、オラクルをはじめとするプラットフォームベンダーが提供するツール、テクノロジーをいかに利用目的に適応して構築するかが重要と話す。
どのような医療データを活用すれば、何ができるかまだ模索中だという嶋田氏。「医療は、あくまでも人と人の関係の中で行われる病気に対応する手段です。どこまでITがそれを支援できるか志向していきたい」と展望する。

*A. Donabedianが「Milbank Memorial Fund Quarterly, 1966」で提唱

聖路加国際病院

  1. URL:www.luke.or.jp
  2. 開院:1902年
  3. 病床数:520床
  4. 平均在院日数:8.7日
  5. 1日平均外来数:2,700人

医療機関のIT・情報ガバナンス支援を推進
データ活用のための基盤を提供

医療機関のIT・情報ガバナンス支援を推進 データ活用のための基盤を提供

目的と戦略を適切に設定して導入・運用されているお客様の情報システムは、ある意味、その組織体そのものを表していると言ってよいと思います。聖路加国際病院様のように、医療の質向上を目的にQIの測定・分析、そして臨床に生かすというマネジメントサイクルをきちんと見据えてシステムデザインをすることがITを組織全体として使いこなす大切なポイントと考えます。
医療機関にとって、膨大な医療データの利活用は医療の質、経営の質を左右する重要な要素だと考えています。プラットフォームベンダーとしてオラクルは、それを支援するための安全なデータ管理、より高度な活用を踏まえた基盤構築のためのソリューションを提供していこうと考えています。

日本オラクル
日本・アジア太平洋地域
医療・ライフサイエンス インダストリー事業部
医療ソリューション ディレクター

高橋道也氏

(本事例は2014年2月のものです。)

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