「第23回日本遺伝子診療学会大会」レポート ゲノム医療に向けた変革が始まる電子カルテ 国立がん研究センターと富士通のゲノム医療分野への取り組み先進諸国の最優先課題の1つである、ゲノム医療の実装。診療と研究の融合も、国を挙げての取り組みとして進められている。ここで重要なテーマの1つは、ICT(Information and Communication Technology)の活用だ。そこで、2016年10月に開催された「第23回日本遺伝子診療学会大会」の中から、ゲノム医療とICTの融合をテーマにしたセッションを取り上げ、その概要を紹介する。ゲノム医療におけるICT活用の一端を垣間見ることができるはずだ。

ゲノム医療の本格展開に必要な
大規模統合データベースの実現

国立大学法人東京医科歯科大学
名誉教授
東北大学 東北メディカル・メガバンク
機構長特別補佐
田中 博 氏

国立大学法人東京医科歯科大学
名誉教授
東北大学 東北メディカル・メガバンク
機構長特別補佐
田中 博 氏

 セッションはまず、座長を務める東京医科歯科大 名誉教授の田中 博氏による「我が国のゲノム医療の発展とICTへの期待」と題する講演からスタートした。この中で田中氏は、これまでのゲノム医療の歴史を簡単に紹介。2003年のヒトゲノム解読から始まったゲノム医療への期待は失望で終わったが、2007年にシーケンス革命が起きたことで一気に実証研究が進んでいったと説明する。2013年からはその第2期が始まっており、米国では2015年1月のオバマ大統領による年頭教書で「Precision Medicine Initiative政策」が発表される等、国家的な取り組みへと発展。日本でも、2015年7月に「ゲノム医療実現推進協議会」が具体的な方向性を示す中間報告を行う等、ゲノム医療が国家事業として推進されており、本格的な離陸への元年といってもいい状況にあると言う。

 「次世代シーケンサが臨床現場に取り入れられた結果、希少先天遺伝疾患の原因遺伝子の現場での同定や、がんに対する適切な分子標的薬の選択が可能になり、また薬剤代謝酵素の遺伝型の同定による副作用防止も実現されました」と田中氏。しかし多因子疾患の機序/発症予測は無着手の状態であり、今後はこの領域での研究推進が重要になると指摘する。「多因子疾患は遺伝子だけでは解明不能です。生活習慣情報などゲノム以外の情報も統合した大規模な統合データベースが必要になります」。

国立研究開発法人
国立がん研究センター
中央病院 遺伝子診療部門 部門長
吉田 輝彦 氏

国立研究開発法人
国立がん研究センター
中央病院 遺伝子診療部門 部門長
吉田 輝彦 氏

 これに引き続き、国立がん研究センター(NCC) 中央病院 遺伝子診療部門の部門長を務める吉田 輝彦氏が、ゲノム医療実用化に向けた具体的な取り組みを紹介。NCCは2015年11月に、がんのゲノム医療の本格的導入のため「遺伝子診療部門」を開設。がんの「個別化予防」と「個別化治療」という、2つの取組みを進めていると言う。

 「NCCは1998年4月から中央病院で遺伝相談外来を行っていますが、個別化予防はこの流れを継承したものです。また診療と研究を組み合わせた『遺伝性腫瘍汎用プロトコール』を定めており、2016年7月現在、17施設の倫理審査委員会に承認されています」。

 吉田氏も、臨床ゲノム情報を統合したデータベースこそが、ゲノム医療の要であると指摘。そのために国内では、AMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)の臨床ゲノム情報統合データベース整備事業が進められていると紹介する。さらに「ゲノム医療を加速していくには、診療現場の電子カルテや診療支援システムの変革も必要」だと言及。NCCではその開発を進めており、富士通をはじめとするIT企業との共同研究も行っていると語る。

患者と対話しながら入力できる
家系カルテシステムを共同開発

 その一例として吉田氏が挙げるのが、家系単位の情報入力・閲覧・分析が可能な「家系カルテシステム」である。遺伝性疾患の診療や予防を適切に行うには、個人だけではなく血縁関係にある家族の遺伝情報や既往歴の把握も必要になる。この情報を患者(クライエント)との対話を中断することなく入力し、電子カルテの他の情報やオーダーと連携できる仕組みが求められるのだと言う。

 この共同研究に参加しているのが富士通だ。同社は1970年代に医事会計システムの提供を開始して以来、国内最大級の体制を整備し、医療機関に貢献する数多くの医療情報システムを構築してきた。この実績に基づく技術とノウハウを「国民の健康寿命が延伸する社会の実現」に活かすため、高度医療研究機関や専門家との検討を2014年から開始。NCCとも同年に、ゲノム医療を支援するためのICTの仕組みを確立することを目的に、共同研究契約を締結した。研究対象の分野の1つである遺伝性腫瘍の相談や診断・予防分野の研究テーマは、①遺伝カウンセリングの強化・効率化、②情報取り扱いのセキュリティ強化等の検討、③電子カルテ等の院内システムとの連携、④業務や情報を院内外に繋げるネットワーク化、⑤遺伝子型と個体に発現している表現型の情報を統合するデータベースなど、「ICTの仕組み作りには、高い技術力と院内システムの運用ノウハウが必須であり、富士通に期待している」と、吉田氏。

国立がん研究センター(NCC)が進めているゲノム医療対応電子カルテシステム開発の全体像。家系単位の閲覧・更新・分析等では、富士通との共同研究が行われている。

国立がん研究センター(NCC)が進めているゲノム医療対応電子カルテシステム開発の全体像。
家系単位の閲覧・更新・分析等では、富士通との共同研究が行われている。

富士通株式会社 ヘルスケアシステム事業本部 次世代ソリューション推進部 マネージャ 安藝 理彦 氏

富士通株式会社
ヘルスケアシステム事業本部
次世代ソリューション推進部
マネージャ
安藝 理彦 氏

 「NCCと開発している家系カルテシステムには、大きく2つの特長があります」と説明するのは、富士通の安藝 理彦氏。第1の特長はグラフィカルな家系図を画面に表示し、そこで直接情報を登録・修正できる点だと言う。「これまでにも家系入力のツールはいくつか存在していましたが、それらのほとんどは表形式で入力した上で、家系図を作成するというものでした。しかしこれでは入力中に家系図を把握することができず、診療現場で使いやすいとは言えません。患者からのヒアリングと並行して家系図を作成するには、家系図への直接入力が必要だと考えました」。

 NCCと富士通が共同開発した家系カルテシステムでは、家系カルテ一覧から家系を選択すると、すぐにグラフィカルな家系図が表示される。家系図の中の人物をクリックすると、その人物に関する詳細情報を表示。氏名や生年月日等の基本情報、病歴、検査歴等を登録・修正できる。家系図への人物追加も容易であり、追加後は自動的に年齢順に並び替えが行われる。患者と話をしながら、一緒に家系図を作成できるのである。

 第2の特長は、他の医療機関で入力した内容も統合できるよう、データベースを構造化している点だ。これによってより多くの家系情報の集約が可能になり、家系間の類似性評価等も実現しやすくなる。もちろん家系情報の大規模な集約を行うには、家族関係という機微な情報を安全かつ適切に扱える仕組みも欠かせない。そのため、どの情報まで各ドクターに見せるべきかに配慮しながら、アクセス制御の開発も進めていると言う。

国立がん研究センター(NCC)と富士通が共同開発している家系カルテシステムの画面例。グラフィカルな家系図を表示し、そこで直接情報の登録・修正が行える仕組みで、特許出願済だ。そのため患者と対話しながら、一緒に家系図を作ることが可能だ。

国立がん研究センター(NCC)と富士通が共同開発している家系カルテシステムの画面例。
グラフィカルな家系図を表示し、そこで直接情報の登録・修正が行える仕組みで、特許出願済だ。
そのため患者と対話しながら、一緒に家系図を作ることが可能だ。

家系カルテシステムの人物詳細情報画面。ここで基本情報や病歴、検査歴等を記録できる。なお現在は若干の機能制限があるが、今後開発が進むことで解消されると見込まれる。

家系カルテシステムの人物詳細情報画面。ここで基本情報や病歴、検査歴等を記録できる。
なお現在は若干の機能制限があるが、今後開発が進むことで解消されると見込まれる。

ICTと医療情報学の融合を推進し
システマティックなゲノム医療へ

 安藝氏はさらに、富士通が開発している他の2システムの紹介も行った。1つは「類似症例検索システム」。これは、患者と似通った症例の発見、病態進行に対する考察、治療選択の検討を支援することで、診断やカンファレンスにおける臨床意思決定をサポートするものだ。

もう1つは「個別化投薬支援システム」であり、薬物動態シミュレーションを行うことで最適な投与設計をサポート。薬剤の副作用を最小化しながら、最大限の効果を引き出すことが容易になると言う。また、これらのシステムを影で支える技術として、富士通研究所の以下の4つの技術の紹介も行なった。(詳細は、プレスリリースのURLを参照)「これらの技術が富士通のソリューションを支える基盤となっている」と安藝氏は述べた。

  1. 複数組織のデータを異なる鍵で暗号化したまま照合可能な暗号技術
    http://pr.fujitsu.com/jp/news/2016/02/15.html
  2. 時系列データを高精度に分析する新たなDeep Learning技術
    http://pr.fujitsu.com/jp/news/2016/02/16.html
  3. ゲノム情報の解析処理を高速化する技術
    http://pr.fujitsu.com/jp/news/2016/03/15.html
  4. パーソナルデータのプライバシーリスクを自動評価する技術
    http://pr.fujitsu.com/jp/news/2016/07/19.html

 安藝氏は「富士通は、医療をICTによる大きな革新が期待できる分野と位置づけ、高度医療研究機関との共同研究を実施しています。その研究成果を用いて、今後も、ゲノム医療をはじめ、治療の精緻化が進む医療現場を支援するICTの仕組み作りを進め、日本人の代表的な疾患の克服、健康長寿社会の実現に寄与するソリューションを提供していきます」と続けた。

 最後に田中氏が「ゲノム医療に対応した電子カルテが実現されるのはまだ先の話だと思っていましたが、ICTベンダーの協力によって予想以上に進展しています」とコメント。「これからもICTと医療情報学を融合することで、ゲノム医療をシステマティックに推進していく必要があります」と締めくくった。

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