遺伝子検査がもたらす病理診断の新局面
●司会 長村義之 氏
清水哲男 氏
西阪隆 氏
郡司昌治 氏
阿部香織 氏

遺伝子検査の院内化とそのきっかけ

長村分子病理診断は、病原体の検出や予後判定、および、がん診療における分子標的治療のコンパニオン診断など、幅広く導入されてきています。本日は、がん治療などにおける分子病理診断の現状と展望を伺いたいと思います。まず、患者さんにいち早く治療を受けていただくため、検査の院内実施に取り組まれているところもあると思いますが、先生方は、現在どのような検査を行っていますか。

阿部当院では固形腫瘍の遺伝子検査が始まったばかりで、院内で対応可能な検査方法はリアルタイムPCR法と遺伝子解析装置 アイデンシー IS-5320(アークレイ社、以下 i-densy)を用いた方法です。i-densyによる検査はやり方次第では即日報告が可能で、早く結果が欲しいという臨床科からの要望に対応可能と考えています。
 遺伝子検査の院内化は、検査部門からだけでなく、臨床科からの要望もあることを管理者が理解してくれた上で、検査の院内化が可能になりました。装置の新規購入には予算など大きな壁がありますので、日ごろから臨床の先生とコミュニケーションを取って、相談しやすい環境をつくっておくことも重要です。

郡司当院では、補助的な診断に遺伝子解析を用いているほか、分子標的薬以外でも、脂肪肉腫のMDM2など、ドライバー遺伝子が分かっているものは、遺伝子解析によって確定診断まで進めます。当院における院内導入のきっかけは、診断結果の迅速化、正確性が求められていたことと、EGFR遺伝子変異の陽性率が低い傾向があるという問題でした。自施設で検査をすることで精度管理を見直すことができ、陽性率が改善されました。

西阪当院では、病院の方針としてがん診療に力を入れていて、臨床サイドからは検査の迅速化が求められていたほか、遺伝子異常の有無だけでなく、細部を知りたいという要望がありました。院内検査と外注検査が一致するかどうかについて各診療科に納得してもらうことが大きなハードルでしたが、これらをクリアしてi-densyの導入・稼働による院内検査を実現しました。

清水当院ではEGFR遺伝子検査を外部委託していますが、遺伝子変異陽性の症例を見逃したくないので、保険診療の許容範囲内で、できるだけ多くの患者さんを検査しています。

長村病理部門がある病院の中には、分子病理診断を院内検査として実施している施設もありますが、多くの施設は検査を外注されているようですね。一方、分子病理診断の院内化で検査のスピードアップや精度管理が容易になるという利点も指摘されました。

検査依頼から結果報告までの時間

長村治療をするタイミングを考えた場合、分子病理診断のturn-around-time(TAT)が重要となりますが、先生方の施設では依頼から報告までに、どのくらいかかりますか。

郡司EGFR遺伝子検査だけのオーダーであれば、解析にi-densyを活用することにより2日以内に結果を出しますが、ALK免疫組織化学染色(免染)、ALK FISHを加えると約1週間かかります。

西阪肺がんであれば、H&E染色の病理診断のときに、EGFR遺伝子変異検査とALK免染のオーダーを同時に行います。結果返却までEGFRはi-densyにて2日、ALKは外注にて10日ほどかかります。

清水外注ではEGFRの解析に1〜2週間かかります。臨床医としては早く診断をつけて早く治療を始めたいので、院内化が望ましいと考えています。

西阪院内で検査することになれば、私たち臨床検査科の仕事は増えますが、診療に積極的に参加している証ともいえ、臨床検査技師、病理医の日常業務へのモチベーションが上がるものと信じています。

郡司そうですね。遺伝子検査は診療に直結するので、臨床検査技師としてもやりがいがあります。

長村遺伝子検査を院内化している病院は、全国でまだ1割程度と言われています。院内化に当たっては臨床検査技師の役割が大きいので、日本病理学会では日本臨床衛生検査技師会と共同で、認定病理検査技師の育成・認定を進めています。