対談

AIを活用し低線量CTの現在と未来

― 被ばくを最小限に抑えつつ、高精細・高画質の画像を実現 ―

対談する2人の写真 広島大学大学院医系科学研究科 放射線診断学 教授 粟井 和夫 氏 ヤノンメディカルシステムズ株式会社 代表取締役社長 瀧口 登志夫 氏
CT検査による放射線被ばくの影響を最小限に抑えながら、高精細の画像を得て検査精度を最大限に高める──。この難題に正面から挑むべく、臨床の最前線で活躍されている画像診断専門医と、優れたエンジニアリング・情報処理技術を持つ医療機器メーカーが共同開発に取り組んでいる。タッグを組んだ広島大学の粟井和夫氏と、キヤノンメディカルシステムズ株式会社の瀧口登志夫氏に、放射線被ばくのリスク、低線量CTによる肺がん検診の有用性、低線量CT開発の歴史と今後の方向性などについて話し合っていただいた。

AIDR 3D標準搭載による被ばくの低減

瀧口 日本では、CT検査数が諸外国に比べて多いとされています。社会医療診療行為別調査によると、日本のCT検査は20年以上にわたり増加傾向にあり、現在では年間約3,000万件程度のCT検査が行われていると推定されています1)。この現状について、どのようにお考えでしょうか。

粟井 CTが普及していること自体は日本の医療水準が高く、多くの患者さんがCT検査を受けることができることを意味しており悪いことではありません。ただ、適切な使い方がされているかが問題です。例えば肺野を見たいだけなのに、首から骨盤まで撮影するといったオーダーが出ている場合は不適切でしょう。CTの適正使用については、日本医学放射線学会の画像適正使用委員会で議論が始まっており、近々ガイドラインとしてまとめられる予定です。また、医療法施行規則の一部の改正により、2020年4月から、CT等のX線装置を用いた検査を行う場合、検査の正当性を患者さんへ十分に説明することや、被ばく線量の管理と記録が義務づけられました。CT検査の正当性、最適化につながる新たな取り組みです2)

瀧口 日本で稼働しているCTが約1万4,000台あり、その約半数が当社の機器です。そのほとんどに低線量による高精細画像を描出する逐次近似応用再構成技術AIDR 3D(Adaptive Iterative Dose Reduction 3D)が標準搭載されていますので、CT検査による放射線被ばくの低減に微力ながら貢献できたと思っています。

低線量CTによる肺がん検診

瀧口 低線量のCTによる肺がん検診が、わが国でも普及しつつあるとうかがっています。

粟井 2011年に発表された米国のNLST試験(National Lung Screening Trial)では、肺がんリスクの高い約5万3,000人を低線量CTで検査する群と単純X線検査の群に割り付け、年1回・計3回のスクリーニング検査を行ったところ、単純X線群と比べて低線量CT群では肺がん死亡の相対リスクが20%低下したことが示されました3)。この報告を受けて、世界的に低線量CTを用いた肺がんスクリーニング検査が実施されるようになりました。

瀧口 粟井先生も、広島県三次市の住民を対象に実施された低線量CT肺がん検診の有用性について発表されていますね4)

粟井 三次市では、2015年1月から市立三次中央病院で低線量CT肺がん検診を実施しています。私たちは、このプロジェクトに対して、準備段階から技術的ならびに医学的支援を行ってきました。三次市に居住する50〜75歳の重喫煙者を対象とし、毎年1,200人余りのCT検診を実施しており、5年間で27人の肺がんが発見されています。このプロジェクトの初年度から使用しているCTが、キヤノンメディカルシステムズ(以下、キヤノンメディカル)のAIDR 3Dを搭載した320列CTです。同意を得た被験者に対しては、通常の低線量(1.5mSv)に追加して、超低線量(0.15mSv)でも撮影し、その診断能を比較する研究も行っています5)。前者はFBP(Filtered Back Projection:フィルター逆投影法)、後者はFIRST(Forward projected model-based Iterative Reconstruction SoluTion:モデルベース逐次近似再構成法)という画像再構成技術が用いられています。その結果、超低線量のCTでも検診に使用可能との結論を得ています。2025年頃には、CT検診による早期発見・早期治療により、三次市の肺がん死亡率減少という結果が出せるのではないかと私は期待しています。

瀧口 従来のマルチスライスCTによるヘリカルスキャンは、約4cmの撮影幅でらせん状にスキャンして画像を再構成しており、例えると約4cm幅での撮影を繰り返してつなぎ合わせるようなものでした。2007年に発表した320列CTは、1回の撮影幅が16cmとなり、撮影時間を大幅に短縮することができました。320列CTの開発には、低線量とともに患者さんの負担を軽減するというコンセプトもありました。

粟井 三次市の低線量CT肺がん検診は、キヤノンメディカルの画像再構成技術があってこそ、市民の理解を得られ実現したものだといえます。欧州でも大規模無作為化試験(NELSON試験)が行われ、CT検診の導入により男性の肺がん死亡率が24%減少したことが報告されており6)、肺がんの早期発見にCT肺がん検診が有用であることのエビデンスも増えています。ただ、毎年検査することによって肺がんを誘発する可能性も否定できないので、CT検診においては診断能を損なわない範囲で線量をなるべく低くすることが必要です。

放射線被ばくリスクの疫学研究と生物学的研究

瀧口 成人と小児とでCT検査による放射線被ばくのリスクは異なるのでしょうか。

粟井 放射線被ばくの疫学研究は難しく、例えば、線量50mGyの影響を調べる場合は約8万人、25mGyでは約32万人を対象に、長期に経過を追跡しなければならないとされ7)、研究報告はありませんでした。しかし、2012年にCT検査を受けた約18万人の小児および若年成人を23年間追跡したデータが発表され8)、世界を驚かせました。小児のCT検査では、白血病や脳腫瘍のリスクがわずかながら増加するという結論でした。この研究は研究対象や結果の解釈についていろいろ批判がなされ、データが再解析されましたが、同様の結果が報告されました9)。その後、この報告を支持する論文と支持しない論文が出ていますが、現在の世界的なトレンドとしては、支持する研究が多いようです。成人に関しては、私の知る限りこのような疫学研究はないようです。

瀧口 最近は放射線被ばくによるDNA損傷の研究が注目されていますね。

粟井 私たちは広島大学原爆放射線医科学研究所の田代聡教授と共同して、CT検査の前後でのリンパ球のDNAの損傷について研究しています。放射線を浴びたDNAは、さまざまな影響を受けますが、なかでも重篤な損傷は、DNAの二本鎖が切断されてしまうことです。二本鎖が切断されるとγH2AXというヒストンたんぱくの一種が放出されます。そこで、γH2AXをバイオマーカーにして、DNAの損傷を調べたところ、CT検査後にDNAが一部損傷するものの、数日以内にその損傷は修復されることがわかりました(in vitro study)10)。ただ、修復の過程で遺伝子転座や二動原体遺伝子などのエラーが起こることもあるので、損傷が多いとエラーが積み重なって発がんに至る可能性は否定できません。

瀧口 放射線の強さによって、DNAの損傷は変わるのでしょうか。

粟井 in vitroでは、CTの被ばく線量とγH2AX数は正比例することがわかっています10)。そこで、私たちの研究チームは低線量と標準線量で、DNA二本鎖切断と染色体異常に差が生じるかどうかを調べることにしました。当院の呼吸器外科部門に紹介された患者さんで承諾いただいた方を2群に分けてCT検査を実施しました。すると、DNAに対する低線量CTの影響は検出されませんでしたが、標準線量CTではDNA二本鎖切断と染色体異常が増加しました11)。放射線量(中央値)は、低線量CTが1.5mSv、標準線量CTが5.0mSvでしたので、CTの放射線量を約1.5mSvまで落とせば、DNAや染色体への影響を抑えられる可能性があると考えられます。今後、1.5mSvあたりでさらなる高精細画像を描出できるCTの開発をお願いしたいと思っています。

瀧口 深部臓器まで1.5mSvでの撮影を可能にするにはまだまだ高いハードルがありますが、開発目標としてやりがいのあるところをお示しいただきました。

画期的だったFIRSTの技術をAiCEに応用

粟井 近年のCTの技術的な進歩は目覚ましいものがあります。CTでは、放射線量が少ないと被ばくのリスクは低減しますが、一方でノイズが増加して画質は劣化します。この問題を解決するために、キヤノンメディカルは逐次近似再構成法を応用したAIDR 3Dを開発し、低線量でありながら画質を劇的に改善することに成功しました。

瀧口 検出器素材やDAS(データ収集機構)といったハードウェアの工学的な改善とともに、収集した画像を処理するソフトウェア技術も大幅に向上させることができました。もともと当社では、「CT検査による被ばくを半減したい」という想いでプロジェクトをスタートさせていて、AIDR 3Dをすべての現行販売機種に有償オプションではなく標準搭載することを決意しました。すでに全国の施設で稼働中だったCTに対しても、技術者が1台1台インストールを実施しました。

粟井 2015年には、モデルベース逐次近似再構成法であるFIRSTが実用化されました。FIRSTは、高い分解能を有するとともにノイズを劇的に除去できるという優れた画像再構成法です。これにより、AIDR 3Dよりも画像精度がさらに向上しました。そして、2018年にはFIRSTで得た画像を教師データとしてDeep Learningを用いた深層学習応用再構成法Advanced intelligent Clear IQ Engine(AiCE)を開発されていますね()。

瀧口 FIRSTの開発は非常に難しかったのですが、技術者がチャレンジを続けてようやく完成できたものです。このFIRSTによって得られた画像を教師画像に、AI(人工知能)の一つであるDeep Learningによって画像のノイズを除去しています。

粟井 FIRSTが最も重要なブレークスルーテクノロジーで、この技術開発がAiCEという深層学習の画像再構成までに展開する大きな布石になったのではないでしょうか。AiCEではFIRSTより低線量でも高画質が得られるという大きな特徴があります。また、AiCEは計算時間が短いのも大きなメリットです。1980年代のCTは、40枚の計算をするのに約30分を要していました。当時は診療する医師も「午前中のうちに結果が出ればいい」と鷹揚でしたが、今は検査が終わって3分後には結果を求められる時代になりました。キヤノンメディカルはこのようなワークフローにも気配りされて製品化していると感じています。

 多くの優れた特徴を持つAiCEは、現在のところ他の追随を許さない非常に優秀な画像再構成法だと思いますが、FIRSTをもっと磨き、それをベースにさらにAiCEを進化させていってもらいたいですね。

瀧口 私たちも今後、FIRSTをさらに磨き、さらなる高画質化と低線量化の実現を目指したいと考えています。また現在、粟井先生と共同でSpectral CTと呼ばれる新しいCTの開発に取り組んでいますが、これにも大きな期待をしています。

粟井 Spectral CTは、2つのX線エネルギーで撮影するdual energy CT(DECT)の新しいかたちとして提案するもので、Deep Learningを二重、三重に取り込んだような複雑なシステムです。ただ、このSpectral CTがゴールではなく、さらにその先に、複数のエネルギーを用いたCT(Photon counting CT)があると考えています。また、まったく別の切り口として、超高精細なCTのように空間分解能を高めていく進化軸もあります。キヤノンメディカルとは、オープンな議論をさせていただいており、とても楽しく、やりがいを感じています。

瀧口 非常にワクワクするお話です。今後とも臨床の先生方のご意見をうかがいながら、最新のテクノロジーを活用し、低線量で患者さんにとって負担が少なく、超高精細な画像を得られるCTの開発に努めていきたいと思います。本日はありがとうございました。

対談した2人(瀧口氏と粟井氏)が並んでいる写真

References

1)日本学術会議 臨床医学委員会 放射線・臨床検査分科会: CT検査による医療被ばくの低減に関する提言. 平成29年(2017年)8月3日
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-23-t248-1.pdf

2)日本医学放射線学会: 診療用放射線に係る安全管理体制に関するガイドライン(2019年11月改訂)

3)National Lung Screening Trial Research Team: N Engl J Med 2011; 365: 395-409

4)粟屋禎一 他: 広島医学 2016; 69: 729-735

5)Fujita M, et al: Jpn J Radiol 2017; 35: 179-189

6)de Koning HJ, et al: N Engl J Med 2020; 382: 503-513

7)Brenner DJ, et al: Proc Natl Acad Sci U S A 2003; 100: 13761-13766

8)Pearce MS, et al: Lancet 2012; 380: 499-505

9)Berrington de Gonzalez A, et al: Br J Cancer 2016; 114: 388-394

10)Fukumoto W, et al: Eur Radiol 2017; 27: 1660-1666

11)Sakane H, et al: Radiology 2020; 190389