地域医療連携ネットワークによる疾病管理 導入事例 つくば小児アレルギー情報ネットワーク

専門医・かかりつけ医・患者・保護者で長期管理が重要


公益財団法人 筑波メディカルセンター 業務執行理事 筑波メディカルセンター病院 病院長 軸屋智昭氏

小児アレルギー疾患の特徴は、遺伝素因を持って生まれた子どもが、年齢が進むにつれ、食物アレルギー・皮膚炎から気管支喘息など、様々なアレルギー性疾患を発症していく“アレルギーマーチ”と表現される経過をたどること。そのため、合併症や急性増悪を引き起こさないよう長期にわたって治療・管理を行っていくことが重要だ。

つくば市・常総市・つくばみらい市からなるつくば保健医療圏(15歳未満人口約45000人)では、特定機能病院の筑波大学附属病院をはじめ、筑波学園病院、そして筑波メディカルセンター病院の3医療機関が入院機能を持つ小児医療を提供している。近隣に小児科診療所は多いものの、アレルギー専門医が少ないという現状がある。

「当院は小児救急に対応し、アレルギー専門医が在籍していることから、多くの小児アレルギー疾患の患者さんが来院しています。小児アレルギーは、日常生活を含めて長期的な観点から管理をおこなう必要があるため、地域の小児科診療所の医師と連携しながら治療・管理にあたることが大切です。地域医療連携の体制整備は、安心して子育てができる街づくりに大きな効果を及ぼします」

筑波メディカルセンター病院 病院長 軸屋智昭氏は、地域医療連携の重要性をこう話す。


公益財団法人 筑波メディカルセンター 筑波メディカルセンター病院 小児科 診療部長 市川邦男氏

同病院は、現在、約350施設・411人の登録医と医療連携体制(病診連携)を構築しており、小児医療においても診療所医師とのヒューマンネットワークの下、連携医療を展開してきた。

「例えば喘息は、重症な発作があるときは小児救急対応できる病院で、安定してきたら家庭で経過を観察しながら、小児科診療所のかかりつけ医が診ていきます。一方、食物アレルギーは、ある程度専門医が診断・治療方針を立て、症状がないときにはかかりつけ医による管理が可能です。いずれにしても、専門医とかかりつけ医が診療情報を共有しながら、長期的に管理していくことが非常に重要です」と、筑波メディカルセンター病院のアレルギー専門医である小児科診療部長 市川邦男氏は話す。

こうした専門医とかかりつけ医、家庭が連携しながら小児アレルギー疾患を管理していくために利用されてきたのが、「僕・わたしの健康手帳」である。

ところが、健康手帳は判型が大きいこと、挟み込んだ資料が落ちやすいなど使い勝手に課題があった。また、専門医を受診する際は持参するものの、かかりつけ医へは忘れて通院するケースが多いという実態があった。ICTの活用により、紙の手帳に不足している利便性を高め連携医療の質の向上を目的に構築したのが、「つくば小児アレルギー情報ネットワーク」(以下、T-PAN)だ。


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診療情報を各医療機関で共有するID-Linkを採用

T-PANは、経済産業省の「平成22年度医療情報化促進事業」の一環として実証事業が展開されている。小児アレルギー疾患患者を地域全体で支えることを目的として、専門医とかかりつけ医、患者の保護者が、疾患の治療や経過などの情報を共有しながら医療を提供する連携基盤である。

主に急性期治療を行う基幹病院の専門医と、日常の診療を行うかかりつけ医とが連携医療・疾病管理を行うための情報共有機能と、患者・保護者による日々の経過情報を記録し、専門医およびかかりつけ医の両者で参照できる機能が要件とされた。

情報共有の概念図

「喘息では、重症度や発作が起きる頻度・程度、運動や冷気で症状誘発がないか等を把握することにより、コントロールが良好なら治療介入を抑えるステップダウン、コントロールが不十分なら治療を濃厚にするステップアップを判断します。それゆえ、患者・保護者が日々の経過情報を記録し、専門医、かかりつけ医が参照できることは非常に重要です。また、日常生活の記録を着実に記入・管理することは、服薬が続かない、あるいは通院しなくなる治療からのドロップアウトを防止し、治療継続の動機付けになります。」(市川氏)

こうした専門医とかかりつけ医が患者の診療情報を共有するICT基盤として採用されたのが、NECの地域医療連携ネットワークサービス「ID-Linkだ」。ID-Linkは全国各地で展開されている地域医療連携のプラットフォームとして導入されており、全国で約1,400の施設で運用されている(2012年12月末現在)。「診療情報開示施設が各自でリポジトリーを持ち、連携先施設と共有する仕組みは、開示する情報を自院で管理しやすく、医療情報連携基盤として良い考えだと思います」(軸屋氏)と評価する。


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診療情報と経過表の共有で疾病管理を実現する仕組みを構築

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T-PANは、診療情報開示施設である筑波メディカルセンター病院の病院情報システム(NEC)から共有する情報(血液検査結果、検査レポート、処方・注射情報、エックス線検査画像など)を開示用サーバに抽出・管理。それらの情報を連携先医療機関の患者IDとひも付ける機能を介して、かかりつけ医が自院の患者IDで閲覧できる。

それぞれの情報はカレンダー形式の情報共有画面にアイコンで表示され、またT-PANではアレルギー検査結果、成長曲線はグラフで、経過は症状を色分けした表としてグラフィカルに見ることができ、状態把握しやすいよう工夫されている。


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また、患者・保護者が携帯電話またはスマートフォンから入力した日々の経過情報は、筑波メディカルセンター内に設置されたサーバで蓄積・管理。専門医とかかりつけ医が、それぞれ患者を診療する際にセキュリティを確保したインターネット経由で閲覧する。T-PANではかかりつけ医は主にタブレット端末を利用し、デバイス認証、ユーザー認証を経て共有情報にアクセスしている。

患者・保護者は、携帯・スマートフォンから毎日の経過を入力し、食物アレルギーに関する気づきを入力するコメント(食事メモ)を入力。さらに、簡単な質問に答えるだけで、1カ月の喘息の状態を点数化して客観的に知ることができるJPAC(Japanese Pediatric Asthma Control Program)と呼ばれる評価基準も利用可能。確実に入力してもらうために、患者・保護者の携帯・スマートフォンにリマインドメールを送信して設問に対する選択項目を選ぶ形式を採用している。


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地域全体の診療の均質化・質の向上と、患者QOLの向上に寄与

当初、T-PANの情報開示施設は筑波メディカルセンター病院だけだったが、筑波学園病院が加わり2病院となった。さらに、情報閲覧施設として、3病院29診療所が連携医療に参画している。登録されている患者数も徐々に拡大し、2013年1月現在、305人に上っている。

T-PAN運用による医療連携の成果の1つは、基幹病院の診療情報および患者・保護者の記録をかかりつけ医とともに共有することによる、疾病管理の向上にある。T-PANに参加しているかかりつけ医に対するアンケートでは、基幹病院との円滑な医療連携において、「とても役立つ」「役立つ」と期待する医師が殆どを占めた。「診療所の医師の参加と、患者・保護者の参加との相乗効果が生まれています。特に、T-PANに参加している患者さんが十数人になったかかりつけ医のT-PAN活用意識の高まりを実感しています。」(市川氏)

一方、携帯電話またはスマートフォンで日々の経過情報を記録できるようになったことが、より患者および保護者が自ら治療に積極的に取り組む“アドヒアランス”の向上に寄与していると指摘する。「最近のお母さん方は携帯電話がいつもポケットにあり、わずかな時間で容易に入力できるため記入漏れが減りました。毎日の気づきのメモの記入率・記述量は紙の健康手帳のときと比べて明らかに増えており、それらが治療継続に寄与しています。」(市川氏)

患者の保護者からは、『治療の経過を判りやすく説明してくれるので、通院に励みが出てきた』『発作を起こした時や通院時の不安がなくなり安心できた』と言う声が寄せられているという。


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実際の運用の要となるサポートデスクの設置


公益財団法人 筑波メディカルセンター 筑波メディカルセンター病院 事務部 部長 中山和則氏

T-PANの有用性を発揮し、円滑に運用していくためには、患者・保護者に仕組みのメリットを理解してもらい登録者を拡大すること、診療情報を開示・共有することの同意の取り付け、さらにシステムへの患者登録作業や利用法の説明、かかりつけ医の紹介などの業務が重要になる。T-PANでは、これらの業務を担うためのサポートデスクを組織化したことがポイントだ。筑波メディカルセンター病院事務部 部長 中山和則氏は、次のように話す。

「患者さんへのT-PAN参加の勧めは医師が診察時に行いますが、限られた診察時間の中で時間をかけて丁寧に説明することは困難。そこで、医師がT-PANを勧めた後にサポートデスクで、具体的な仕組みやメリット、情報管理の安全性など、パンフレットを用いて丁寧に説明し、よく理解し納得してもらった上で同意書に署名していただいています。電子化された診療情報がネットワークを介して共有されることになるので、より透明性を高くすることが大切と考えています。」(中山氏)

同病院では小児科ブースの事務担当者4人が、専任ではなく兼務の形でサポートデスクの業務に柔軟に対応している。かかりつけ医を持たない患者に、かかりつけ医を選んでもらうためのサポート、小児科診療所への連絡業務などにおいて、連携先医師を知っている小児科事務員がサポートデスクを担当することの効果も大きいといえる。

「入力画面は一目見れば直感的にわかるシンプルな使いやすいものなので、入力方法の細かい説明に長い時間をかける必要がありません。おかげさまで、引越し以外の理由で脱会された患者さんはまだいません」と中山氏は強調する。

診療所のかかりつけ医の参加拡大のためには、従来から地域の診療所とヒューマンネットワークを持つ地域医療連携室と協力した運用サポートも重要だと中山氏は指摘する。


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地域完結型医療推進のベースとなるT-PAN

今後はT-PANの対象を小児医療全般に広げるとともに、他の診療科へも拡大して地域医療連携の質の向上に活かしていく構想がある。

「病院全体でICTを活用した地域医療連携を推進していく中で、急性期機能を持つ当院と、回復期、療養期の機能を担う病院とのネットワーク化が、連携医療としての成果を上げられると考えています。ヒューマンネットワークができている診療科領域であれば、必ずICTの活用による成果を上げられると期待しています。」(軸屋氏)

また、ICTによる地域医療連携では継続運用が大きな課題であり、そのための事業化が重要。軸屋氏は、「事業継続していく価値があるものとして、エビデンスを出していくことが大切」と強調する。T-PANでは連携医療の仕組みの中に患者自身も参画し、メリットを享受できる機能を実装しているので、市川氏は基幹病院、かかりつけ医、患者などすべての利用者が分担して費用を負担することも大事な考えだと指摘する。「いくらの負担なら納得していただけるか十分な検討が必要ですが、事業継続のための一施策として重要でしょう。そのためにはシステムを継続して改善し、利用者のメリットを高めていくことが大切です。」(市川氏)

1つの病院で病気を治す病院完結型医療は限界にきており、機能分化した医療機関が連携する地域完結型医療へ転換されつつある。さらに患者(保護者)も参加するT-PANのような連携基盤に大きな期待が寄せられる。


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近隣の診療所との小児医療全般の医療連携拡大に期待 財団法人筑波麓仁会 筑波学園病院


財団法人筑波麓仁会 筑波学園病院 小児科 部長 牧たか子氏

筑波学園病院は小児科の入院機能を持ち、急性期の二次医療を担うとともに、かかりつけ医としての一次医療も提供している。

小児科についてはアレルギー専門医が在籍しないため、専門的な治療は筑波メディカルセンター病院と連携した医療を提供している。T-PANには運用開始当初から参加しており、2012年秋から診療情報の開示も行うようになった。

T-PANを利用した小児アレルギー診療におけるメリットを、小児科部長 牧たか子氏は次のように述べる。

「定期的な診療、疾患管理を行っていく上で、筑波メディカルセンター病院の専門医がどのような治療方針の下、どんな治療を実施しているのか具体的に把握できる点はとても有効だと感じています。例えば夜間に喘息発作が起きて同病院の救急を受診した際など、患者・保護者にどんな治療をしたのか伺っても、口頭の情報だけでは詳細がわからず正確でない面も多々あります。また、食物アレルギーの経口負荷試験などは当院で実施しないため、その結果をT-PANで参照できるのは非常に便利です。」(牧氏)

患者・保護者が持参した検査結果票をコピーしたり、お薬手帳の情報を転記したりといった煩雑さがなくなったこともメリットの1つだと指摘する。

また、患者・保護者が記録する日常の経過情報を共有できる点を高く評価している。「喘息の経過表を配布・記入してもらっていましたが、外来診療のときに忘れてくる方が多く見られました。また、T-PANでは経過表が経年蓄積されるため、季節性変化のある喘息では昨年の同時期との比較参照が容易で、季節的な傾向を把握した治療が可能になります。患者・保護者にとっても専門医ともつながっているという安心感を持たれていると思います。」(牧氏)

今後の期待として牧氏は、対象疾患の拡大により、「当院に入院された患者さんが退院後に診療所で治療継続するときなど、情報開示施設としての連携機能が活かされるでしょう」と話す。

※食物経口負荷試験とは、実際に食物を摂取してもらい、アレルギー症状の出現を観察して、原因食品かどうかを判断する検査。原因食品を経口投与する試験であるため、患者さんに重篤なアレルギー症状を引き起こす危険性があり、経口負荷試験のガイドラインに沿った、安全性を確保した適切な方法が必要。


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T-PANの運用によって基幹病院との関係性がさらに強固に 清水こどもクリニック


清水こどもクリニック 院長 清水宏之氏

2000年に開業した清水こどもクリニックは、小児科全般の一次医療のゲートキーパーの役割を担っている。二次救急医療は筑波メディカルセンター病院、筑波学園病院に、神経、代謝・内分泌疾患や血液腫瘍疾患など稀で専門性の高い疾患は筑波大学附属病院に紹介している。一方、慢性疾患で患者数が多いアレルギー疾患については、筑波メディカルセンター病院の専門医の指導を受けながら、双方の医療機関で継続的に診療している。

同クリニックでは、T-PANに登録された小児アレルギー患者34人を診療しており、T-PAN参加診療所の中では最も多い施設の1つ。「T-PANに対する親御さんのイメージは、子どもを診てくれる主治医が(専門医とかかりつけ医の)2人いて、同じ情報を基に治療にあたってくれるというものです。これが安心感、信頼感につながっていると感じます」院長の清水宏之氏はこう指摘する。

基幹病院との情報連携については、特にアレルギー検査結果を即座にタブレット端末で参照できることを利点として挙げる。「アレルギー検査は高額で、3歳児未満の保険請求が包括制の小児科診療所では、患者さんのためとはいえ頻繁に実施できないのが現状。基幹病院の結果をネットワーク経由で参照できる点は大きなメリットです。」(清水氏)

また、患者・保護者が記録した日々の経過情報の共有に関しては、これまで口頭で得ていた情報が一覧で閲覧できることにより、喘息管理がより十分に行えるようになったという。「当院の受診時に紙の健康手帳を持参する方は(軽症の患者さんが多いこともあり)非常に少なかったのですが、T-PANで閲覧できるようになりました。患者・保護者がT-PANの毎日のリマインドメールに答えて入力するシステムは、継続的な記録のためにとても有効です」(清水氏)。これまで家庭での管理が不十分であったケースも、T-PANの活用で適切な管理が可能になると期待している。

また、清水氏はT-PANが有効活用されつつある背景には、基幹病院とのこれまでのヒューマンネットワークがあると述べる。

「T-PANの運用によって基幹病院との関係性がさらに強固になり、医療連携が深まってきていると感じています。そうした関係性をベースに地域全体で小児医療を支えていく基盤強化につながることに期待しています。」(清水氏)


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ユーザープロフィール

■つくば小児アレルギー情報ネットワーク

名称

Tsukuba Pediatric Allergy information Network=T-PAN

U R L

http://www.tmch.or.jp/hosp/info/2012-1130-0921-12.html



■筑波メディカルセンター 筑波メディカルセンター病院

所在地

茨城県つくば市天久保1丁目3番地の1

開設者

公益財団法人 筑波メディカルセンター

開院

1985年2月16日

診療科

救急診療科・総合診療科・小児科・脳神経内科・脳神経外科・乳腺外科・
循環器内科・心臓血管外科・呼吸器内科・呼吸器外科・消化器内視鏡科・
消化器外科・泌尿器科・婦人科・整形外科・リハビリテーション科・
緩和医療科・麻酔科・放射線科・放射線治療科・病理科・精神科・
化学療法科・臨床検査医学科・臨床研修科

病床数

413床(一般病床410床、第二種感染症3床)

職員数

約1,100人

U R L

http://www.tmch.or.jp/hosp/


お問い合わせ

NEC
医療ソリューション事業部
URL:http://www.megaoak.com/

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