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GSK Hematology Conference 2013年7月20日(土)東京ミッドタウン Hall A

Opening Remarks

早稲田大学理工学術院教授 池田 康夫

 本カンファレンスで取り上げる特発性血小板減少性紫斑病(ITP)は患者が少ない希少性疾患であり、基礎的な研究ならびに治療法の開発が遅れていた。しかし永年続けられてきた専門家らによる病態の詳細な研究が実を結び画期的な治療が登場した。
ITPに対しては2010年から巨核球の増加と成熟を促すトロンボポエチン受容体作動薬「レボレード®」が登場、その効果と安全性に関わる臨床データが蓄積されてきた。
ITPに対する画期的な薬剤に関するカンファレンスが開催されたことの意義は大きい。

特発性血小板減少性紫斑病 (ITP)

トロンボポエチン受容体作動薬(TPO-RA)初の経口製剤であるエルトロンボパグ オラミン錠(商品名:レボレード錠)が、日本で特発性血小板減少性紫斑病(ITP)に対し臨床応用されてから2年半が経過した。同剤の有効性および安全性に関する実臨床の場での評価も固まりつつあるということで、「GSK Hematology Conference 」第1部では、ドイツから招いたSt.John’s HospitalのAristoteles Giagounidis氏による基調講演「Immune thrombocytopenia, relevance of eltrombopag」とともに、その内容を交えたパネルディスカッションが開催された。

Immune thrombocytopenia, relevance of eltrombopag

座長

冨山 佳昭
大阪大学医療学部附属病院
輸血部 病院教授

演者

Professor
Aristoteles Giagounidis
St. John’s Hospital, Germany

 特発性血小板減少性紫斑病(ITP、国際診療ガイドラインでは2010年より免疫性血小板減少症;Primary immune thrombocytopenia)は、血小板の減少に伴い、皮膚や粘膜に紫斑を主体とする出血症状を来たす疾患である。ITP成人患者の死亡率は一般成人に比較して1.3倍となるが、診断後2年を経過した時点で血小板数が30×109/L未満が継続している患者の死亡率は4.2倍に達すると報告されている(表1)

表1 成人ITP患者の死亡率

Portielje, J et al. Blood 2001;97:2549-54; 2. George JN, et al. Blood 1996; 88: 3-40; 3. Stasi R, et al. Am J Med 1995; 98: 436-42.
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ITPの病態解明が新たな治療戦略の構築に繋がった

図1 トロンボポエチン(TPO)とITPの血小板レベル

1. Figure reproduced from Mukai HY, et al. Thromb Haemost. 1996; 76(5): 675-8.
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図2 ITP患者における重篤で致死的な出血

1. Figure adapted from Cohen Y, et al. Arch Intern Med 2000;160:1630-38.
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 ITPにおける血小板減少は、自己抗体による血小板の破壊亢進が主な要因となって引き起こされると考えられてきた。しかし、Cooperら1)やGernsheimer2)の報告から、自己抗体が血小板のみならず巨核球にも働き分化・増殖を抑制、その結果、血小板産生低下が生じるという機序もITPの病態を説明する上で重要な要因の1つであることが明らかになった。通常、血小板が減少すると血液中のトロンボポエチン(TPO)が上昇し、血小板産生を刺激する。しかしITP症例においては血小板が低値であってもTPO値の上昇は殆ど見られないかわずかな上昇に留まる(図1)

 TPOには血小板の前駆細胞である巨核球の増加と成熟を刺激し、血小板産生を促進する働きがある。後述するトロンボポエチン受容体作動薬(TPO-RA)のエルトロンボパグがITPに対して優れた血小板増加作用を有する事実は、ITPにおいては血小板破壊のみならず、その産生低下が大きく関係していることを裏付けていると同氏は指摘した。

 またITP症例における重篤な出血は年齢に応じて高くなり、特に60歳を超えると飛躍的に上昇することから注意を要する(図2)

 Giagounidis氏は、以上のようなITPの病態形成機序の解明が現在の脾臓摘除(脾摘)、ステロイド、免疫グロブリン静注、さらに本カンファレンスの主題であるTPO-RAといった新たな治療戦略の構築に繋がったと指摘した。

TPO-RAの長期投与における忍容性と安全性

 Giagounidis氏は、欧州で推奨されているITPの2次治療の中で十分なデータを備えているのはTPO-RAしかないと指摘した。

 エルトロンボパグは、プラセボ対照試験において血小板数を増加させ、出血症状を改善させた4)。また、エルトロンボパグ群はプラセボ群に較べ、ベースラインにおける併用ITP療法を1種類以上減らせた患者割合が有意に高く(p=0.02)、何らかの救援治療を必要とした患者割合が有意に低かったと報告されている(p=0.001)4)

 エルトロンボパグに関する4本の臨床試験参加者のうちの302例を対象に、同剤の長期投与時の有効性、忍容性および安全性を検討したEXTEND試験5)では治療期間中央値は121週で5年を超える長期治療症例も報告されており、58%の患者で2年以上の継続投与が可能であった(図3)。血小板数の中央値は2週目から50,000/μL以上となり、その後の治療期間を通じて維持されていた(図4)

図3 EXTEND試験におけるエルトロンボパグの治療期間

1. Saleh MN, et al. Blood 2012; 120: Abstract 2198;
2. Saleh MN, et al. Poster presented at the 54th Annual Meeting of the American Society of Hematology, Atlanta, USA, December 8-11, 2012
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図4 EXTEND試験におけるエルトロンボパグによる血小板中央値の上昇

1. Saleh MN, et al. Blood 2012; 120: Abstract 2198; Figure: Saleh MN, et al. Poster presented at the 54th Annual Meeting of the American Society of Hematology, Atlanta, USA, December 8-11, 2012
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 またエルトロンボパグによる他のITP治療薬の減量もしくは中止も69例中45例で認められ、さらに37例では1種類以上の他のITP治療薬を中止することが出来た(図5)。なお、ベースラインの血小板数、併用ITP療法の有無、脾摘の有無、先行試験における反応の有無による有効性の差はなく、健康関連QOLは有意に改善していた(p<0.05、図6)。

図5 エルトロンボパグによる他のITP治療薬の中止、減量効果

1. Figures: Saleh MN, et al. Blood 2013; 121: 537-45
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図6 EXTEND試験におけるエルトロンボパグのQOL改善効果

1. Grotzinger et al. Haematologica 2012; 97:198-99: Abstract 495; 2. and Figure: Grotzinger et al. Poster presented at the 54th Annual Meeting of the American Society of Hematology, Atlanta, USA, December 8-11, 2012 (post-hoc analysis)
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 EXTEND試験では90%の被験者に何らかの有害事象を認め、頭痛が27%を占めて最多であったが、これは先行して行われた無作為化臨床試験におけるプラセボ群における頻度と同等であった。特異的な有害事象として肝胆系検査値異常が12%の被験者に認められたが、肝機能障害は認められず、投与中止によって回復している。また、血栓塞栓症イベント(TEE)が6%の被験者にみられたが、エルトロンボパグ投与期間、血小板数との関連はなかった。

 以上の知見を踏まえてGiagounidis氏は、エルトロンボパグはITPの2次治療として十分なデータを備える数少ない薬剤の1つであり、長期投与時の忍容性および安全性についても良好な結果が得られていると結論づけた。

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