女性が元気に活躍するために〜更年期症状に対するHRTの有用性を再考する〜 後編

HRTで自信を取り戻すことができた

水沼 エストロゲン欠落症状が主原因の、ほてり、発汗、動悸といった自律神経系症状に対して、HRTは80%程度の高い効果が認められています。

有馬 アンケートでHRTの効果を聞いたところ、体調面だけでなく生活全般にわたる効果を感じたという回答が得られました(図2)。更年期症状の改善によって、精神的にも安定する効果があります。疲労感が軽減され体力面の心配もなくなり、失っていた自信を取り戻したという回答のほかにも、肌に張りが出るなどの美容効果で気分が上向きになった、ポジティブになったことで人付き合いや外出なども活発になったという波及効果的な意見もありました。

 また、身体症状・精神症状を有している更年期世代の働く女性を対象に、HRT使用・未使用別に健康への満足度、労働能力への満足度を比較したところ、HRT使用者の方がどちらの満足度も有意に高く、精神症状のある場合により顕著な差が現れました。「HRTを使って元気に働くことができている」という体験談があちこちから聞かれてくるようになれば、HRTを受けてみたいという女性が増えてくるのではないでしょうか。

水沼 更年期障害の治療の難しいところは、HRTが非常に有効な症状もあれば、そうでもない症状もあることです。不調の訴えが多いイライラ感や憂うつ、不安感などの精神的症状や不眠に対する効果は40%程度です。どの薬剤で治療を始めてもよいと思いますが、更年期症状の原因はエストロゲン欠落だけとは限らないことを頭に入れておくべきです。

図2 HRTを受けた変化

NPO法人  女性の健康とメノポーズ協会の調査より

日本の女性たちに受け入れられた経皮吸収型製剤

有馬 HRTにも様々な薬剤がありますが、貼付剤などの経皮吸収型製剤もあって、剤形が選べるのはよいことですね。

水沼 HRTを行う上で、経口剤以外の選択肢が増えたことは大きな変化です。貼付剤が登場したとき、日本の女性たちに受け入れられるだろうかと危惧しましたが、杞憂でした。患者さんのアドヒアランスにも寄与し、貼付剤には多くの点でメリットを感じています。

有馬 実際、貼付剤は服薬の手間がかからず、もし痒みや湿疹などの異変があれば、はがすこともできるので使いやすいという声が寄せられています。

水沼 有効性や安全性の点で経口剤と経皮吸収型製剤の差異について、ガイドラインで使い分けを明記できるほどのエビデンスは十分ではありませんが、近年の学会報告では剤形の違いによる影響を示す報告がいくつかあります。

症状、効果と副作用の情報共有が継続治療につながる

水沼 外来で医師が一番困惑するのは、来院の理由がよくわからない患者さんです。何に一番困っているのかがつかめないと、治療方針が決まりません。

有馬 当協会では、「症状メモ」を作成して受診時に持参するように勧めています。いつからどんな症状があって困っているのか、どう治したいのか、月経のことや気になる症状などをメモしておきます。これがあれば、受診時に緊張して思うように言えないときでも、メモを見せれば自分のことをわかってもらえます。

水沼 それは医師としても助かります。症状メモがあれば、患者さんの状態を把握するのにさほど時間はかからないでしょう。

 治療の選択肢としてHRTを提示する場合は、「ほてりの症状はエストロゲンの欠落によるものです。HRTは症状緩和に高い効果があります」というように、患者さんにHRTを使用する目的や有効性の根拠をきちんと説明します。またエストロゲン欠落は骨粗鬆症や動脈硬化の発症にも関係があることを説明します。使用のリスクについても必ず聞かれます。もし「乳癌が心配です」と言われたら、「発症のリスクはゼロではありませんが、5年未満であればリスクは上昇しません」など、説明の際にガイドラインをうまく活用していただければと思います。

教育・啓発活動がHRT普及の第一歩

有馬 女性が元気に活躍するためには、女性も医師も、女性のライフステージの変化について理解を深める必要があり、またそのための啓発活動の重要性を改めて感じています。一般教育の中で学ぶことも大事ですが、医師を目指す学生が医学教育でもしっかり学ぶ機会があればHRTの普及状況も変わってくるのではないでしょうか。

水沼 私は大学で「更年期・老年期医学」を教えていますが、10年後、20年後には医師の意識は変わるのではないかと期待しています。学会としても何かやらなければいけないと思っています。台湾は、学会などの働きかけがHRT普及率に寄与したと聞いています。

有馬 台湾では、学会が医師・医療従事者向けに更年期やHRTに関する教育・啓発活動を頻繁に行い、多いときは年400回ものセミナーを実施したそうです。台湾のHRT使用率は最高約27%(2001年)、アジア諸国で最高水準です(現在17%前後)。HRT普及の推進にはこうした地道な活動が不可欠だと思います。

水沼 日本女性医学学会が日本更年期医学会から名称を変更したのは、性成熟期、更年期、老年期のライフステージを問わず、医師が女性の生涯を通したヘルスケアに積極的に関わるためです。ぜひ婦人科専門のかかりつけ医を持っていただき、女性専門医として患者さんの生涯の健康づくりのお役に立ちたいと思っています。

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