女性が元気に活躍するために〜更年期症状に対するHRTの有用性を再考する〜 後編

 更年期症状は多種多様であり、その根本には加齢に伴うエストロゲン分泌の低下・欠乏があるものの、症状の出現には本人の性格や取り巻く環境など様々な要因が複雑に絡み合っている。ホルモン補充療法(HRT)はほてりや発汗、動悸などに高い効果が認められるが、HRT導入の際は、更年期症状があるからではなく「エストロゲン欠落症状があるから」という基準をもって治療選択すべきである。本対談の後編は、HRTの診断と治療、信頼関係を築くための医師と患者のコミュニケーションについて、弘前大学大学院医学研究科教授の水沼英樹先生と東京医科歯科大学助教の有馬牧子先生に話し合っていただいた。

水沼 英樹先生

弘前大学大学院医学研究科
産科婦人科学講座 教授
日本女性医学学会 理事長

有馬 牧子先生

東京医科歯科大学
学生支援・保健管理機構
学生・女性支援センター 女性支援部 助教
NPO法人 女性の健康とメノポーズ協会 理事

精神神経症状だけが更年期症状ではない

水沼 更年期には様々な不定愁訴が現れますが、その原因は複合的です。のぼせ、ほてり、発汗、動悸などの自律神経系の症状はエストロゲン分泌に依存的に現れますが、抑うつ、不安感といった精神神経系の症状は、本人の性格、家族や職場などの環境ストレスによっても発症します。更年期の不定愁訴を更年期症状とひとくくりにとらえて治療するのは早計です。また、更年期症状の背景に重大な疾患が隠れているかもしれないことも見逃してはなりません。

有馬 「NPO法人 女性の健康とメノポーズ協会」の調査では、更年期世代の女性の約8割が何らかの不調を感じています。みなさんいろいろな症状で悩まれていますが、中でも不安・イライラ・神経過敏、うつ気分などの精神神経系の症状が目立ちます。

水沼 女性の多くが更年期症状といえば精神神経系の症状だと思い込んでいますが、例えば、脳疾患や関節リウマチのような炎症性疾患でもうつに似た症状が見られるのが一般的です。更年期障害と診断するためには、症状を裏付ける器質的疾患がないという除外診断を確実に行うことが重要です。

エストロゲン欠落の三大症状は「ほてり」「発汗」「不眠」

水沼 治療を決定するにあたり肝心なのは、症状の主な原因がエストロゲンの欠落かどうかを明確にすることですが、それは問診で鑑別できます。エストロゲン欠落の三大症状は、「ほてり」「発汗」「不眠」で、不眠を含めるかどうかは解釈が分かれています。最初に顔のほてりや発汗の有無を聞いて「あり」なら、エストロゲン欠落症状と思ってまず間違いありません。更年期の不眠の原因の多くはほてりや発汗ですが、これらの症状なしに不眠を訴えている場合は、睡眠障害を疑います。着目すべきは「患者さんが一番困っている症状は何か」ということです。

 またHRTの使用は更年期症状があるからではなく、「エストロゲン欠落症状があるから」という発想が大事です。「エストロゲン欠落症状とは何か?」を意識して、診断は総合診療的な視点で、治療はピンポイントで行うべきです。

インフォームドコンセントにガイドラインを活用しよう

水沼 2009年に「ホルモン補充療法ガイドライン」を発行し、2012年には改訂版を発行しました。ガイドラインの普及が進む中で、婦人科専門医も自信を持って処方できるようになったと思います。私も患者さんに見せながら説明することがあります。

 このガイドラインの特徴は「HRTの適応と管理のアルゴリズム」(図1)を示したことです。アルゴリズムにのっとれば、HRT初心者の医師でも悩まずにHRTを考慮するか鑑別できるので、ぜひ活用していただきたい。エストロゲン欠落症状がないHRT希望者も、リスクとベネフィットの説明に了解が得られれば次のステップに進みます。また、禁忌症例・慎重投与例に関連する既往歴を漏らさずチェックできる「HRT問診票」を巻末に掲載しています。これらを使いながら説明すると患者さんも理解しやすいと思います。

有馬 目で見て確認できるものがあるのは助かりますね。患者さんは意外に自分のことがよくわかっていないので、医師と対話しながら確認できると、自分がどうしたいのかが見えてくると思います。

図1 治療決定までのアルゴリズム

「ホルモン補充療法ガイドライン」より

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