■PETの基礎知識
 
 PETとはPositron Emission Tomographyの頭文字をとったもので、日本語では「ポジトロン(陽電子)放射断層撮影法」と呼ばれている。1970年代半ばにアメリカで開発され、当初は脳の機能を研究する目的で使われていた。
 その後、がんの診断に有効なことが分かり、1990年代に全身のスキャンが可能となると、急速に臨床への応用がすすむ。現在、がんの早期発見に不可欠な最新の画像診断法として注目されている。
 

PETの仕組み

 アメリカ映画を見ていると、FBIが犯人の車に発信器をとりつけ、それでアジトをつきとめる…そんなシーンがよく登場する。これは、核医学などで用いられてきた、トレーサーの原理だが、PETもこの原理を応用している。
 PETでは、発信器のかわりにポジトロンを出す放射性同位元素―ポジトロン核種を酸素、水、糖など、といった人体が必要とする物質にくっつけたPET製剤を用いる。検査目的によって、発信器の種類(表1)を選ぶが、がんの診断には、フッ素18をブドウ糖にくっつけたFDGと呼ばれるPET製剤を用いる。 がん細胞は、普通、ブドウ糖を正常細胞の3〜8倍消費して増殖するので、FDGを静脈内に注射するとがん細胞に多く取り込まれる。そして、ブドウ糖はがん細胞内でエネルギー源として代謝が進むが、FDGは代謝が行われず細胞内に貯まっていく。FDGは放射性物質なので、ガンマ線という放射線を正常細胞よりも強く出す。これをPETカメラで見れば、アジト発見。がんのありかが分かるというわけである。
 PETは、カメラとかスキャナーと呼ばれる部分だけを見れば、CTやMRIと同じように見える。しかし、がんのありかをつきとめるためには、FDGという放射性の薬剤を必要とする。PET製剤が無ければ、カメラはただの箱にすぎない。FDGに用いるフッ素18は、半減期(その効力が半分になる時間)が110分と短く、時間を置かずに人体に注入する必要があるため、小型サイクロトロンやPET製剤合成装置を病院内に設置する必要がある。PETカメラが1.5〜2.5億円、サイクロトロンが3億円程度、建物を含めれば、ハードウエアだけでしめて数億円のシステムとなる。これが、PET検査の値段が高くなる理由でもある。

PETの得意・不得意

 PETの得意分野を頭からみていくと、脳腫瘍、甲状腺がん、食道がん、乳がん、肺がん、膵がん、転移性肝がん、子宮がん、卵巣がんなどがあげられる。その他、悪性リンパ腫や悪性黒色腫、骨腫瘍の診断にも有用だ。今までの診断法では、がんの予想される部位別にCT、MRI、超音波などの中から適切なものを選ぶ必要があった。しかし、PETでは、一度の全身スキャンで、部位を選ばず当たりをつけられる。そのため、予想外のがんがみつかるというメリットもある。
 一方、FDGが腎臓から尿に排泄されるため、腎がんや膀胱がん、尿管がんおよび膀胱近くの前立腺がんなどは、がんとの判別がつきにくく不得意といえる。特に膀胱の近くはFDGが光って分かりにくい(写真1)。その他には、胃や腸のうすく拡がるがん、高分化型といって活動性が低く、ゆっくりと進行するがんなどが不得意である。
 さらにPETの弱点としては、MRIやCTに比較して1/16の空間分解能しかなく画像が不鮮明な点があげられる。そこで作戦としては、まずPETでがんが有るか無いかの当たりをつけ、次にPETで有るとされたものについて、CTやMRIなどの画像と合成(フュージョン)し観察。病変部位の「形や大きさ」を正確につきとめるのが良い。

PETの利点と安全性

 PETの利点としては、表2に上げた5つのポイントがある。順に説明しよう。
1.がんの早期発見
 がん細胞は、一般に小さくても活動性つまり悪性度が高いものが多い。そこでPETでは、病変の形態的変化が現れるより前に、「活動性の変化」をとらえて、早期のがんを発見することができる。
 写真2は、早期にみつかった8mmの前立腺がん。PET画像(横断像)だけでは、膀胱の背中側にFDGが集まっているのが認められるが、直腸との鑑別が難しい。CT画像と合わせてみると、腫瘍が前立腺外腺と呼ばれる部分にあることがわかり、前立腺がんと診断できた。
2.転移・再発の有無の確認
 がんの転移や再発があるかどうかは、治療方針を決める際に重要だ。
 写真3はPETで発見された右の乳がん。CTでは、他の組織との見分けがつきにくいが、PETでみれば一目瞭然である。また、全身スキャンなので、乳がんに多いリンパ節転移・骨転移・肝転移・肺転移などもチェックできる。
 最近の乳がんの手術の傾向としては、昔のように大きく病変部をとらず、乳房
を温存するようになっている。しかし、リンパ節への転移を恐れて、腋の下のリンパ節をとってしまい、術後、手が上がりにくくなったりする後遺症に悩む患者も少なくない。最終的には、リンパ節の生検が必須となるが、PETと生検の結果を併せて、リンパ節をとるかとらないかを判断する。この患者は、リンパ節などへの転移がなかったので、手術も乳がんの切除だけで済み、術後の経過も良好である。
3.良性・悪性の鑑別
 外科の医師が、「切れば分かるので」と試験開腹や試験開胸などをすすめることは、診療の現場で、実は数多くある。
 この症例は、CTで肺がんと診断され、翌週に手術が予定されていたが、主治医が再確認の目的でPET診断を要請したもの(写真4)。PETでみると、CTでがんと疑っていた箇所には、異常は認められない。その結果、結核腫と判定され、手術を中止し経過をみることになった。 このように、PETでは、良性・悪性の鑑別ができるので、患者にとって不必要な手術を避けることができる。
4.治療効果の判定
 現在、がんの化学療法や放射線療法の効果の判定は、CTやMRIでがんの大きさが小さくなったかどうかみているのが一般的だ。しかし、がん細胞は死んで小さくなるよりも前に、活動性が低下する。そこで、PETを用いれば、従来より早い時期に治療効果の判定ができる。もし、治療効果が得られない場合は、早めに次の治療方針を検討することができるし、治療効果が現れている場合は、患者に負担の大きい治療を中止し様子をみることができる。
 写真5の左はステージIV(末期)の悪性リンパ腫の患者。大腸、脾臓、リンパ節など多臓器に病変がみられる。右は化学療法(抗がん剤の投与)後の状態で、抗がん剤がよく効いていることが分かる。このように悪性リンパ腫は、現在では化学療法が非常に有効ながんの一つである。
5.苦痛の少ないPET健診
 痛みを伴うのは、しいていえばPET製剤を注射される時だけ。あとは寝ていればよいので楽な検査といえる。
 特に女性にとっては、内診や触診をしないでも、子宮がん、卵巣がん、乳がんのチェックできるので福音といえる。
 安全性に関しては、放射性のPET製剤を静脈注射するので、わずかながら放射線被曝がある。ただし、1回のPET検査による被曝量は、人間ドックなどでX線による胃の検査(バリウム検査)を受診するときの1/5〜1/3程度。これは人が1年間に自然界から受ける被曝量とほぼ同程度であり、健康に大きな影響はない。

PETで脳や心臓の異常が分かる

1.アルツハイマーの診断
 もともとPETは脳機能の研究から始まったので、脳の活動状態を調べるのは得意である。アルツハイマー型痴呆では、連合野と呼ばれる部分の活動性が低下している。これを初期段階から発見することができる(写真6)。 その他、脳血管障害、てんかんの病巣などの発見にも役立つ。
 2002年アメリカでは、俳優のチャールトン・ヘストンが、PETで極初期段階のアルツハイマーと診断されたと公表した。ヘストンは下記のサイトで、PETがアルツハイマーの早期発見にいかに有用かを訴えている。(http://www.ami-imaging.org/public/heston-pet.htm)
2.心筋梗塞、動脈硬化の診断
 心臓は一生休まず全身に血液を送り続けるため、心臓そのものを動かす心筋にも多くの血液を送り込み、その血液に含まれる脂肪酸やブドウ糖などをエネルギー源として利用している。
 写真7は、心筋梗塞の患者のPET画像で、矢印の部分が梗塞によって心筋のブドウ糖代謝が低下している部分だ。ただし、低下はしていても代謝はみられるので、まだ心筋が生き残っており、バイパス手術などで心臓の機能を回復することが可能である。このように、PETは心疾患の治療方針の決定にも有用である。
 また、FDGの他に窒素13のアンモニアPET製剤を使うと、冠動脈を通して心筋に流れ込む血流量をチェックできる。冠動脈を流れる血流量は、正常な場合、運動すると通常3〜5倍程度増加するが、動脈硬化などによって冠動脈が狭くなっているとあまり増加しない。そこで、安静時と運動負荷時に得られるPETの画像から、冠動脈の動脈硬化の程度を評価することができる。

<日経ビジネス別冊 Special Ad Sectionより>