■ニュース
 

読売新聞のPET関連記事 (3月3日夕刊)について

 読売新聞の3月3日付け夕刊に「国立がんセンター(東京)の研究によれば、PETのがん検診でがんの85%が検出できなかったことが分かった」というセンセーショナルな記事がのりました(注:3月6日にもホームページ上に類似した記事が出ています。
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/medi/saisin/20060306ik0d.htm?from=os2)
 これに対し、PET画像診断フォーラムのメンバーの先生方から、この記事の誤りを指摘するご意見が多数よせられました。ここでは、その中から、陣之内 正史先生(厚地記念クリニック・PET画像診断センター)のご意見を紹介します。

 PET検査施設で働くPET専門医、核医学専門医としての見解を述べさせていただきます。
がんセンターのデータの内容、解釈、そのほかの問題点については、別の人に譲ります。
 私が問題と考えるのは次の2点です。
 
1. タイトルが過激で「PETでは癌の85%を見逃し、15%しか分からない」という誤解を生じる。
     
2. そのことにより、PETという癌の診断に極めて有用な検査の普及の障害となる。
  (1) 検診の機会を逸する可能性。
    全国のPET検診を行っている施設では、PETの限界を踏まえ、核医学会のガイドラインに沿って検診を行っており、PET単独での検診は限られています。
記事ではそのことに触れておらず、あたかも全国で行われているPET検診が多くの癌を見逃しているかのように誤解されます。
実際は、他の検査も含めた総合検診で行われることが多く、たくさんの方の癌が発見され、命を救われています。
こうした早期発見される可能性のある方たちが、この記事を見て誤解し検診をやめてしまう恐れがあります。つまり、癌の早期発見の機会を逃してしまう懸念があります。
  (2) 検診ではなく診療(癌の診断)のレベルを低下させてしまう可能性。
    PETが癌の診断に有用で、いくつかの癌ではPETをしないまま治療方針を決めた場合、誤った治療法を選択する危険性があります。例えば、肺癌などではPETにより思わぬ転移が見つかる確率が20%程度といわれています。つまり、手術適応例が適応外になるわけです。
今回の記事により、癌の患者さんはもとより、核医学専門医や放射線科以外のPETの有用性をよく理解していない医師たちが、「PETは役立たない」という認識を持ってしまった場合、治療前にすべきPET検査をしないケースも起こりえます。すなわち、医療レベルの低下が引き起こされ、ひいては患者さん、国民全体の不利益となるのです。
  (3) 上記二つのことは、誤解を生ずるような医療記事を紙面に出したことにより、「適切な医療を受ける機会を奪われてしまった」と訴訟の対象になるかもしれません。

 読売新聞社医療情報部の記者の方は、がんセンターのデータの数字だけを見て、「PETが役立つといわれていたが、実際はこんなに見逃しがあるのだ」というインパクトのある記事が書けると思われたのかもしれません。
 しかし、この記事は、我々PETの専門家・核医学専門医が、長年にわたりPETの有用性を説いて広く普及するようにしてきた努力を、無に帰する懸念すらあります。特に、一般の人向けの記事を書く場合には、PET臨床の実態と有用性を理解された上で、誤解の生じないよう適切な内容とタイトルにすることが、マスコミとしての義務ではないでしょうか。
 出来れば、今後、公正を期す意味で、「PETが、がんの検診にいかに役立っているか」といったルポ風の記事を出して頂くことを望みます。もしそのような追加の報道がなければ、この記事は日本の癌診療のレベルを低下させた、極めて問題のある記事として残ることになるでしょう。