■インタビュー&コラム
 

 「今夜の降水確率は30%」「模試の結果は、合格率80%以上の『A判定』だった」。日常的に使われる、いわゆる「確率」を含んだ言い回しである。
 実際のところ、今夜の天気は「雨が降る/降らない」のどちらかであろうし、○○大学の入試結果は「合格/不合格」のどちらかしかない。しかし実際にどちらかと予測し断定することは困難である。よって現在の状況を過去に蓄積されたデータと照合し、確率を用いて推測することがよく行われている。
 
 医師が患者さんに話をするときにも、多くの場合この確率論が基本にある。「病院に行けば確実に診断がつく」「この検査を受ければ、ある疾患か否かがわかる」というのは誤解である。もちろん、どちらか言い切れる場合も少なくはないのだが、医師としてより正確に説明しようとすればするほど、確率の概念を持ち出さざるを得なくなる。
 たとえば腫瘍マーカーという血液検査の項目がある。腫瘍細胞が産生する特定の物質の量を測定することで、腫瘍がありそうか、あるいはなさそうか、見当をつけるものである。腫瘍そのものを見つけるわけではないが、その存在を手軽に推測することができる。
 ところがこの腫瘍マーカーの値が正常値を超えていたからといって、「腫瘍がある」と断定できるかといえば、そうでもない。腫瘍マーカーの一つであるCEAが、正常上限を越えた10という値を示していたとしても、それが健康な人であれば、悪性腫瘍がある確率はそれほど高くはない。しかし50なら、その確率は10のときよりも高くなってくる。もし大腸がんや肺がんの術後で50を超えたというのであれば、再発という形での悪性腫瘍の存在の確率はさらに高まる。つまり同じ「腫瘍マーカー高値」の状態であっても、患者さんの状況に応じて確率は異なってくる。

 同様のことは画像診断にもあてはまる。胸部レントゲン写真やバリウムによる胃の検査で「異常なし」と言われたとする。しかしそれは「100%異常がない」ということを意味するものではない。あくまで「検査前の時点より『異常なし』の確率が高まった」ということだ。仮にそれが10歳の子どもであれば、ほぼ100%に近い確率で胃がんの可能性は否定できるかもしれない。しかし60歳を越えた人がバリウムの検査で異常が見つからなかったとしても、同じことは言えない。それくらいの年齢なると、もともと胃がんに罹患している確率がゼロとは言えず、レントゲンにうまく写らなかっただけかもしれないからである。

 「医者がはっきり説明してくれない」という患者さんの声を、ときどき耳にする。でもそれは果たして、その医師が頼りないから、力量がないからだろうか。
 人間には個性があり、それだけ奥が深い。同じような症状でも、100人いれば100通りの異なった転帰をとり得る。その患者さんにとって最善の道を探ろうとすれば、医師の決めつけで物事をいうことが許される時代ではない。現在の臨床症状や画像を含めた検査所見を、その医師の経験に照らして確率的に説明することになる。その結果どうしても慎重な言い回しにならざるを得ないのである。

 我々医療サービスを提供する側の人間は、患者さんに少しでも確実性の高い情報を提供できるよう、医学の発展に向けて努力を続ける責務がある。高い確率で危険を回避し、苦痛をできる限り少なくし、最良の結果が期待できる方向を目指していかなければならない。
 そして医療サービスを受けるみなさんには、この確率の考え方を踏まえた上で、医師の話にじっくり耳を傾け、「最終的にどの道を選ぶかは自分で決める」という信念をしっかりと抱いていただきたい。