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乳がんの診断に役立つ、しこりの“硬さ”情報

 乳がんの主な検査には、視診・触診のほか、乳房をX線撮影するマンモグラフィや超音波検査などがある。それぞれに得意、不得意があるため、例えば胸のしこりに気づいて医療機関を訪ねた場合などは、これらの検査をひと通り受けることが多い。さらにがんの疑いがある場合には、乳房に針を刺して細胞や組織を採取する検査が行われる。
 乳がんの検査では、「しこりの有無や大きさ」を見極めることも大事だが、「しこりの硬さ」も重要な診断材料となる。良性のものに比べて、悪性腫瘍つまりがんの場合は、しこりが硬い傾向があるからだ。しかし冒頭で挙げた視診・触診、マンモグラフィ、超音波検査の中で、しこりの硬さを診ることができるのは触診だけ。しかも触診には限界があり、深いところにあるしこりや、小さいしこりだとわかりづらい。そのため触知しないしこりの硬さを描出できる画像技術の開発が、従来からの課題となっていた。

 

しこりの硬さを5段階で評価。3以上で「要精査」

 このような状況にあって、日立メディコは筑波大学と共同で、超音波でしこりの硬さを検出し、画像化する技術(Real-time Tissue Elastography:以下「エラストグラフィ」)を開発した。現在までのところ、およそ130の医療機関に、この機能が組み込まれた超音波診断装置が導入されている。
 検査方法は、探触子で乳房をごく軽く圧迫する以外は、通常の超音波検査と同じ。受診者はこれまで通り超音波検査を受けながら、必要に応じて検査者が超音波診断装置のモードを切り替えると、硬さを表示した画面になる(図1)。柔らかい部分は赤、平均的なところは緑、硬い部分は青というように、組織の硬さが段階的に色で表現されるが、特に問題となる緑〜青については、筑波大学の研究データをもとに5段階に分類されている(図2)。この診断基準ではスコア4以上を「悪性の可能性が高い」とし、 乳がんの検診(スクリーニング)ではスコア3も含めた、スコア3〜5の病変が悪性の可能性ありとして精密検査機関に紹介される。

 
 

乳がん検診(スクリーニング)への期待

 現在、市区町村で実施される乳がん検診では、マンモグラフィを中心とした画像検査が主体となり、さらに先進的な検診では超音波検査も組み込まれている。しかし、これらの乳がん検診では、その検査精度がしばしば問題視されている。検診で判断がつかないため、「要精査」として精密検査にまわされる人が少なくないからだ。実際、受診者の約7%が「要精査」と判定されるが、精密検査で乳がんが見つかる人はそのうちのわずか3.5%程度(受診者全体の0.2〜0.25%)である。
「要精査」の数が多いことは、保険診療の財政を圧迫する。また、精密検査における確定診断は、乳房に針を刺して細胞や組織を採取して診断することもあり、苦痛を伴う。一般にがん検診で「要精査」と言われれば、結果が出るまでの精神的な負担も大きい。検診段階での絞り込みを徹底することは、極めて重要な課題だ。
 開発に携わった筑波大学附属病院教授(医学博士)・植野映(うえの えい)氏は、「検診に『エラストグラフィ』を利用すれば、『要精査』の人を半分から3分の1に減らすことができるのではないか」と話す。
 乳がん検診における「エラストグラフィ」の有用性を示すデータはまだないが、医療費の削減、そして何より受診者のQOL向上のために、今後、乳がん検診における「エラストグラフィ」の活用が検討されることが期待される。