■インタビュー
 
 

―患者が知っておくべき「がんの治療法」という視点から、3つの治療法の概要を解説してください。

森山 まず手術療法ですが、基本はメスでがん組織を切除してしまうことです。目で見えるがんだけを切除するだけでは、その周囲のがん組織取り残す心配がありますから、通常の場合、がん組織の周りの正常組織をある一定の範囲で切除します。同時に周囲のリンパ節も切り取ります。リンパ節を切除することの意味は、がんの転移を防ぐということです。がんは血管やリンパ管を通って全身に広がっていく性質を持っています。しかしリンパ管に入ったがんは、いったんリンパ管の合流部であるリンパ節で止まります。このリンパ節をがんと一緒に切除することで、すでにリンパ節に転移しているがんやそれ以上の転移を食い止めることができます。

 次に化学療法は、抗がん剤によってがんの増殖を止める、がんそのものを殺すことを目的とした治療法です。しかし抗がん剤だけでがんを完治させることは難しく、現在のところ抗がん剤による完治が期待できるのは、急性白血病、悪性リンパ腫などの「血液がん」、それに精巣、卵巣の腫瘍などです。化学療法は手術療法と併用されることも多く、主に術後がんの再発・転移を抑えることを目的としています。

 3つ目の放射線療法は、X線やガンマ線という放射線をがんのある患部に照射してがんの細胞分裂を止めることを目的とする治療法です。患者の体の外側から放射線を当てる「外部照射」と、前立腺がんの最新治療として注目されている『小線源療法』など、体の内部に放射線を発するカプセルなどを入れてがんのある部分に直接照射する「内部照射」の2つの方法があります。放射線療法はがんのある限定された場所(局所)に放射線を当てる治療法なので、がんがあちこちに転移している場合には使えません。一方の手術療法も局所療法ですから、手術に比較して放射線を使った方が効果がある、あるいは同等であると判断される時に選択されます。

―がん治療はがんが発生した臓器別にクリニカル・パス(標準治療)が定められており、患者がこれら全てを理解することは困難です。現在のがん治療の全体像を把握することはできるでしょうか。

森山 がんは人間の体のほとんど全ての組織に発生します。がんの種類は、「血液がん」、上皮細胞にできる「がん腫」、神経や骨といった非上皮性細胞にできる「肉腫」に分けられますが、1つの臓器に発生したがんの治療法についても患者さんの状態や合併症の有無などにより、選択肢が幾通りにもなってしまいます。しかしがん治療のオーバービューを理解したいということであれば、がんの病期(ステージ)を軸として、そのステージごとにどのような治療が選択されるのかを提示することは可能です。ここに掲げた表は、0期からIV期まで5段階のがんの病期、すなわちがんの進行状況に対して、手術療法、化学療法、放射線療法のどの選択を行うか、またどれとどれを併用してくかを示したものです。

早期がんは内視鏡手術と縮小手術が適用される

森山 まず、0期、I期の早期がんの場合、主な治療として「内視鏡手術」、「縮小手術」が適用されます。ここでの「内視鏡手術」とは、「内視鏡的切除」と言われているものをさします。胃や大腸の検査に使われる内視鏡と同様のものを使い、がんだけを切り取る手術です。この場合、開腹、開胸など体を切ることがないため回復も早く、時には入院の必要がないこともあります。「縮小手術」とは最小限の範囲でがんを切り取る手術方式をいいます。手術は本来持っている臓器の機能に障害を与えます。手術をしてもできるだけその機能を残す。これが縮小手術の目標です。この縮小手術は、10年ほど前からその実施が叫ばれ、5〜6年前位から定着してきました。また、がんを最小限の範囲で切除するためには、がんの組織の大きさと転移の範囲を正確に確認する必要があります。この診断に威力を発揮するのがCT、MRIなどの画像診断であり、縮小手術のスタンダード化には画像診断の進歩が不可欠でした。続いてII期の進行がんでは、縮小手術を基本として部位によっては腹腔鏡手術や胸腔鏡手術が用いられることがあります。腹腔鏡手術とは、例えば大腸がんの場合、腹部に3〜4ヵ所の小さな穴を開け、そこから腹腔鏡、手術器具を入れてがんを切除する手術法を指します。早期がんそして進行がんでもII期のがんである場合は、一般的にこのような手術を実施することでがんの完治が望めます。

III期では「拡大手術」。 IV期では手術以外の選択が

森山  リンパ節転移のあるIII期になると治療も難しくなります。その理由はがんを100%切除することが困難になり、治療しても部分的にがんが体内に残り再発・転移が予想されるからです。この段階での治療は「拡大手術」、「放射線療法」、「化学療法」ですが、放射線療法、化学療法は手術後に治療効果を高める目的で補助的に行われるのが一般的です。ここでいう「拡大手術」とは、がんがかなり進行している状態に対応して、できるだけ広い範囲を切除する手術法を言います。例えば大腸がんでがんが肛門の近くまで広がっていた場合、がんの存在する大腸の部分に加えて肛門も切除しなくてはなりません。さらに遠隔転移といって、最初にがんの発生した部位から離れた臓器への転移があるIV期になると、特殊な症例を除いて手術はできなくなります。例えば大腸がんの場合の遠隔転移は肺や肝臓などです。体のあちこちにがんがあり、がんが残っている、そして別な臓器でがんが進行している状態ですから、このステージで選択されるのは、症状を除くための部分的な「放射線療法」、「化学療法」です。いわゆるがんの末期ですが、患者さんがこのステージにあって、痛みが強く苦しむ場合、「緩和療法」といい、主にモルヒネを使って症状をやわらげ、痛みを取り除く治療が行われます。

―現在、スタンダードとされているがん治療は手術療法、化学療法、放射線療法の3つですが、将来有望な治療法はありますか。

森山  人間が本来持っている免疫力を高めてがんを征圧しようとする免疫療法。がんが熱に弱いことを利用した温熱療法などがあります。この他に西洋医学、すなわち日本の医療界の標準治療に代わる、あるいは補完するという視点から行われている代替医療、補完療法など、がん治療には実にさまざまな治療法が提示されています。私はこれらを全否定するつもりはありませんが、やはり実際にがんにこれだけの効果があったというエビデンス(治療実績の根拠)の蓄積がなされていないと思います。むしろスタンダードとされる治療が急速に進展しています。化学療法では、分子レベルでがんの増殖を抑える抗がん剤、分子標的薬の開発。放射線治療分野では、これまでとは別の放射線を利用した重粒子線治療などがあり、その治療効果が期待されています。

―最後に、がんと診断された場合の病院や医師の選択についてアドバイスを。

森山  まず、診断されたがんの部位の治療に実績のある病院を選択することです。そして主治医と納得するまで話し合う。最近では患者さんも大変に良く勉強されていますから、医師も患者さんが納得したうえでの治療を望んでいます。

 その際、主治医と患者さんの相性というのも大切です。この先生なら信頼できる。こういう患者心理がいろいろな意味でがん治癒への力となるからです。また、がん治療に実績のある病院はチーム医療で治療に臨んでいる傾向にあります。検査に携わった内科医、放射線科医が執刀する外科医と患者さん1人ひとりについて症例検討を行い、どのような治療法がいいかを選択します。このような体制が確立しているかどうかも病院選びの基準だと思います。