■2006.06.26 日経ビジネス特別版「がんの診断と治療」より
 

 まず、「がんとは何か」、「がんが悪性腫瘍と呼ばれる理由」、「がんの種類」など、がんの基礎知識を確認していくことにしよう。

がんは遺伝子の異常によって引き起こされる

 がんは人間の体を構成している正常細胞が遺伝子レベルの現象によって「がん化」して起きる疾患である。細胞の1つひとつには約3万個の遺伝子が存在しており、この中の「がん遺伝子」や「がん抑制遺伝子」に何らかの理由で傷がつくと細胞ががん化するといわれている。「がん遺伝子」とは、その遺伝子自体の働きが過剰になる、あるいは異常になった場合、細胞そのものをがん化させる働きのある遺伝子である。一方の「がん抑制遺伝子」は、細胞のがん化を抑制する遺伝子であり、1つの細胞の中で通常これらの遺伝子はバランスを保ちながら共存している。しかし何らかの障害が起きて、これらの遺伝子の働きが失われた時、細胞はがん化していく。そして、がん化したがん細胞は分裂を繰り返して「がん組織」をつくり、基本的には人間の全ての臓器、組織にがんとして発症する。

がんは悪性腫瘍と呼ばれる

 がんは腫瘍の一種である。腫瘍とは細胞の一部が異常に増殖してできた腫れ物やこぶ状の突起、イボなどをいう。しかし腫瘍の多くが良性といって、それ自身の成長がある段階で止まるのに対して、がんは際限なく成長し続ける。がんは正常細胞から栄養や酸素を奪い、増殖し発生した場所から飛び火(転移)して増え続け、ついには宿主の命を奪ってしまう。がんが良性の腫瘍に対して悪性と呼ばれる理由はここにある。
 がんが悪性腫瘍とされる理由をまとめると次の3つになる。
1. がん細胞は人間の正常な新陳代謝を阻害して、自律的(自分勝手)に増殖を続け、止まることがない。
2. がん細胞は他の正常組織が摂取しようとする栄養や酸素をどんどん奪い取って大きくなり、その結果、がん患者は体が衰弱し最後には命を落とす。
3.がんは発生した場所から血管やリンパ節を通じて体のあちこちに飛び火(転移)して、次から次と新しいがん組織を作る。

がんの種類は3つ

 がんは人間の体の全ての臓器や組織に発生する。がんの種類は次の3つに分類されている。第1に「血液がん」である白血病、悪性リンパ腫、骨髄腫など。第2に上皮細胞と呼ばれる胃、大腸、肝臓といった消化器、肺、皮膚などに発生する「がん腫」。第3が上皮細胞ではない神経、筋肉、骨(これらを非上皮性細胞という)に発生する「肉腫」である。

がんの発見と診断はどのように行われるのか

 本人が知らないうちに秘かに増殖を続けるがん。そのがんを早期に発見するためには何が必要か。また、がんであることを確定する診断がどのように行われるかについて見ていくことにしよう。
 まず、がんの発見については、上に掲げた自覚症状があってがんを疑い精密検査を受けた場合、そして自覚症状はないが、がん検診、健康診断、人間ドックでの検査結果によって明らかになる場合の2通りがある。後者の場合でも検査では「がんを疑う」という段階に止まるため、がんであることを確定する診断は精密検査の結果ということになる。がん検診では部位別、臓器別に視診や触診、血液検査、細胞診などにX線、CT、MRI、PETなどの画像診断を組み合わせてがんの発見を目指す。この中で最近またその有用性に焦点が当たり話題となったPET検査は、PET薬剤の性質上、不得意とするがんもあるが“苦痛なく全身を一度にスキャンしてがんを発見する"という特性がある。最近では、全国のPET検査施設でその弱点を補うべくPET単体の検査装置がCTとの複合装置(PET/CT)に置き換えられ、複数の検査を同時に行う総合的がん検診が実施されていることで、がん検診の有効な選択肢として再評価されてきている。

精密検査は、がんであることを確定する検査

 次に、がんの精密検査はがんであることを確定診断する検査である。精密検査は大きく4つに分類される。まず胃や大腸の検査に用いられる「内視鏡」。第2にがんが疑われる部位の組織を採取して顕微鏡レベルでがんかどうかを確認する「生検」。第3に、ある部位にがんが発生すると血液の中に特定の物質が増加することに着目して、その物質を調べる「腫瘍マーカー」。そして最後がX線、超音波、CT、MRI、PET、骨シンチグラムなどの「画像診断」である。この中で骨シンチグラムはPET検査とほぼ同じ原理で、放射性物質を注射し、特殊なカメラで撮影することで、主に骨へのがん転移を調べる検査である。
 前述したように、がんは人間の体の全ての臓器や組織に発生する。そして疑われるがんの種類、すなわち「血液がん」、「がん腫」、「肉腫」のいずれかによって、それぞれの精密検査は異なっている。最近ではがんの精密検査を行う場合、上記4つの検査を複合して実施することがスタンダードとなっている。患者としての心得は、「がんを疑われたら、そのがんの確定診断にどのような精密検査が有効か」を知ることであり、主治医、診断の専門医に尋ねる、専門書に当たるなどの努力が求められる。