■2006.06.26 日経ビジネス特別版「がんの診断と治療」より
 

 ―近年、女性のライフスタイルの変化に伴い、婦人科がんの発症は大きく変化しています。具体的には晩婚・少子化・肥満女性の増加などにより卵巣がんや子宮体がんが増加する一方、婦人科検診の普及により子宮頸がんは減少しています(図1)。この3つの婦人科がんにおけるPET検査の役割とは、どのようなものですか。

岡 村 PET検査というと、これまでがんの早期発見を目的としたPETによるがん検診ばかりが注目されていて、がんの患者さんの診療に役立っているということを、一般の方はあまりご存知でないと思います。婦人科がんと診断された患者さんにどのような目的でPET検査を行うかといえば、治療前の病巣の広がりの診断(病期診断)、治療中の効果判定、それから治療後の再発・転移診断などがあります。治療前の病期診断は、その婦人科がんに対して、手術すべきか、抗がん剤を投与するか、放射線で治療するか、またはそれらを組み合わせるべきかを決める重要な診断です。治療中の効果判定とは、採用した治療法が本当に効果があったかを確認するもので、その後の治療方針を見直す診断です。そして大切なのは転移・再発の診断。一般的にがんは再発・転移しやすい性質を持っており、がん治療後の定期検診が欠かせません

PET検査で再発・転移を診る

塚 本 婦人科のがん診療でPET検査を行う場合、患者さんの多くは婦人科専門医からの紹介です。実際にPET検査で何を診る機会が多いかといえば、やはり再発・転移の診断です。例えば、手術後に腫瘍マーカーだけが上昇していて、CTで探してもMRIで探しても、転移・再発しているはずのがんが見つからないというような困った症例があります。腫瘍マーカーが上昇しているということは、体のどこかに再発や転移がある可能性が高いということです。PET検査では使用する薬剤ががんに集まりやすい性質を持っていて、これを写真で見るとがんのある場所が光るという特性を持っています。そのためCTやMRIで見て分かりにくいがんが見つかる。実際の診療ではPET検査で部位が特定できた場合、後からその部位をCTで詳しく見ていくと発見できることがあります。しかし、最初からCTだけ、MRIだけで探していたら分からないことがあります。

岡 村 婦人科がんのPET検査で再発・転移の診断を診ることが多いということは、実は婦人科がんの特徴が反映しています。子宮がんは頸がん、体がん共、リンパ節に転移しやすい。また、卵巣がんは腹膜播種(ふくまくはしゅ)といって、がん細胞がお腹の中に散らばりやすい性質を持っています。子宮がん、卵巣がん共にその治療の基本は、対象となるがんを手術によって切除することですが、切除した後、果たして再発・転移がないかということを定期的に検診することが大切です。その意味からPET検査が有用なのは、もし再発・転移がある場合、それがどのくらいの範囲なのかをPET検査だけで診断できるという点です。CTやMRIなど、他の検査をしなくても分かる。PET検査は一度に全身スキャンができますからね。

塚 本 そうですね。臓器ごとに数種類の検査をしなくても良いというのは、患者さんにとってもメリットがあります。PET検査が全身スキャンできる利点としては、こういう症例があります。原発不明がんで紹介のあった患者さんですが、この方は主治医である外科医からの依頼で、「CTで腹部にリンパ節転移がある。膵がんの疑いがあるので、PETで診てもらいたい」ということでした。実際にPET検査で膵臓を見ると、膵臓にはがんを示すPET薬剤の集積はない。ところが子宮内膜の部位に強い集積があって光っている。これは子宮体がんで間違いないという症例でした。詳しく言いますと、子宮上部のリンパ節にも転移があり、子宮体部から徐々にがんが上方に転移していったものでした。外科の先生ご自身は、子宮ではなく膵臓などもっと上部の臓器にがんがあると疑っていた訳ですから、PET検査をやらなかったら、子宮体がんだと分からなかったと思います。

―今年春には新聞報道でPET検査の有効性に疑問が投げかけられ、大きな話題となりました。現在、婦人科専門医やがん患者さんのPET検査に対する評価、反応についてはいかがですか。

岡 村 まず、がんの早期発見を目的とするがん検診でのPET検査は、単独では見落としがあるため、CT、超音波、MRIなどの画像検査や内視鏡検査、血液検査などを組み合わせて総合的な検診を行うことでがん発見率が高められます。これまでPET検査はがん発見のための「万能の検査装置」であるような誤解があったので、これについては正しい知識を持っていただきたいと思います。次にがん患者さんの診療という点からはPET検査は紛れもなく非常に優れた有用性を持っています。私の施設では、昨年秋頃を境に婦人科専門医からがん患者さんの紹介数が増え、現在でもその傾向が続いています。

婦人科専門医が
PET検査の有用性を認識

塚 本 10年ほど前、PET検査が臨床に使われ始めた頃は、PETは婦人科がんに不向きだと言われていました。その理由は、婦人科臓器のある膀胱付近にがんがなくてもPET薬剤が集積するためです。そのため子宮や卵巣をPETで診ようとしてもアーティファクト(画像の乱れ)が起こり、正確な診断ができませんでした。しかし最近では画像処理の技術が良くなり、卵巣がん、子宮体がんが良くわかるようになりましたし、子宮頸がんも排尿がきちんとできていれば診断できるようになりました。また、再発・転移診断に非常に役立つこともあり、機器の進歩や読影技術の向上も含め、婦人科専門医が認識し始めていて、最近、PET検査の依頼が増えているように思います。

岡 村 最近では患者さん本人もよく勉強されています。ご自身ががん患者である場合、術後にがんの再発・転移を診断してもらうためにはどのような検査が必要かを書籍やインターネットを通じて情報収集されているケースが多い。婦人科専門医からの紹介状の中にも「本人の希望もあり」と付記されていて、PET検査を依頼されたこともあります。

塚 本 次にPET検査を依頼される婦人科がんの種類ですが、これは卵巣がんが多いですね。その理由は、特に卵巣がんはCTなど他の検査で再発が見つかりにくいということです。症例のひとつを紹介すると、その患者さんはCA19-9という卵巣がんの可能性を示す腫瘍マーカーが上昇していましたが、他の検査では再発の部位が分からなかった方です。「子宮がん、卵巣がんの疑いがあり、PETによる精密検査を」ということでは、保険が適用されない時期だったので、自費でPET検査を受けていただきました。すると腹壁の再発が見つかりました。確かにPET検査の結果が分かれば、CTでも腹壁に異常があることが分かりましたが、PETの助けなしにCTだけでは多分、この再発は見つけられなかっただろうという症例です。その方は、幸運にも腹壁だけに転移していたので、手術して現在は予後も良好です。

岡 村 一方、子宮がんのうち子宮頸がんは触診や組織を取って顕微鏡レベルでがんがあるかどうかを調べる細胞診などの婦人科検診があり、割と早期に見つかるケースが多いため、がんを発見するために行う検診目的でPET検査することは稀です。子宮頸がんの患者さんの場合は、主に治療後の再発・転移を診ることがPET検査の役割です。

塚 本 そしてもう1つの子宮体がんは、子宮体部といって子宮上部にある胎児を育てる場所に発症します。体がんの場合は、月経とは関係のない出血や子宮周囲の臓器に痛みを感じることが症状として現れます。体がんを確定診断する方法は、組織診です。体がんの治療は子宮、卵巣、卵管の切除が基本ですが、ここで大切なのは、体がんがどのくらい進行しているかという病期(ステージ)の診断です。具体的には、摘出手術を行う際に、リンパ節など他の臓器にどこまで転移しているかを判断することが重要です。これまではこの病期診断にはMRIやCTが使われていましたが、これがPET検査でより正確に把握できるようになると期待されています。

課題は、「治療効果判定」の保険適用

塚 本 現在、全国のPET検査施設の検査装置はPET単体から、PETとCTを組み合わせたPET/CTが主流になっています。このことによってがん診療におけるPET検査の精度が高まり、より信頼性の高い診断が可能になったと思います。あと課題として残っているのは、「治療中の効果判定」にPET検査を用いることが保険適用ではないということ。つまり治療として用いた放射線や抗がん剤が効いているかどうかを判定するためにPET検査を活用するというものです。がんの治療中に早い段階でその効果を見極めれば、治療方針を効果的に変更できるからです。

―今年4月の保険改訂で、新たに子宮がん、卵巣がんのPET検査が保険適用になりました。今後PET検査を望む患者さんへの対応は。

岡 村 厚生労働省に保険適用を認めてもらうには、診断技術の有用性だけではだめです。同省は、医療費の総枠を抑制しようとの方針ですから、保険を認めた場合、総合的に医療費の低下につながるかを検証します。その意味から、今回、婦人科がんに適応が認められたということは、PET検査の診断能力だけではなく、その医療経済効果まで含めて認められたということになります。

塚 本 そうですね。このことが広く認知されると、患者さんから「子宮がんの手術後数年が経ちましたが、心配なのでPET検査を受けたい。保険はききますか?」という質問が増えてくると思います。結論から言えば、主治医から「再発・転移を確認するためにPET検査を依頼する」という紹介状が必要です。そのためには、患者さん、主治医双方にPET検査に関する正しい知識を持っていただくことが必要ですね。


?の断面で、肝臓の 経皮的マイクロ波擬固療法(PMCT) を行った部位(矢印)に、CTでは低吸収域を認めるが、PET/CTではFDGの集積は認められない。一方、PET/CTで肝臓の右辺縁にFDGの異常集積(矢印)を認めるが、CTでは病変は指摘できなかった。?の断面で、 肝臓の右辺縁にCTでは紡錘形の低吸収域を僅かに認めるのみだが、 PET/CTではFDGの明瞭な集積(矢印)を認める ?の断面で、CTでは播種か腸管か判別し難いが、 PET/CTにて1時間後、2時間後ともに同部位に多数のFDGの高集積部位を認め、播種巣と診断できた。以上より、肝転移巣治療後の部位に腫瘍の残存・再発がないことがわかったが、一方、CTで診断困難な肝周囲、骨盤腔内の腹膜播種病巣がPET/CTで明瞭に捉えられた。その他に縦隔、鎖骨上窩リンパ節転移も認められた。