■2006.06.26 日経ビジネス特別版「がんの診断と治療」より
 

 PET検査は、ブドウ糖と放射性物質を結びつけた検査薬(FDG)を注射して、それが体の中でどのように分布するかを、PETカメラを使って撮影、画像化する検査である。検査方法は簡単で、検査薬を静脈に注射した後、60分程度安静にして薬が体内に広がった段階で全身のスキャンを行う。検査台に横になると、トンネルのような形をしたPETカメラの中に、検査台ごとスライドし、そこで撮影が行われる。検査台にいる時間はおよそ20分。
 PET検査全体でも約2時間。痛みはまったくない。PET検査の仕組みは、次のようなものである。検査薬のブドウ糖には、放射線同位体で印がつけられている。このブドウ糖は印があることで、体内にもともとあるブドウ糖と判別することができ、多く集積したところは、画像上明るく光って見える。がん細胞などの悪性腫瘍は、正常な細胞に比べてエネルギーの消費が激しく、エネルギーの元となるブドウ糖を、3〜20倍多く取り込む性質があるからだ。端的にいえば、検査薬が異常に多く集まった場所があれば、そこにがんを疑え、ということになる。

PET検査の長所と短所

 PET検査の最大の長所は、1回の検査でほぼ全身を調べることができる点だ。画像検査にはPET以外にもCTやMRI、超音波検査、X線撮影などがあるが、通常これらの検査は、がんが予想される臓器や部位ごとに、的を絞って行われる。基本的にがんはどこにできるかわからない。それに予想外の場所に転移することもある。全身を一度にスクリーニングできるPET検査は、再発・転移を繰り返すがんに、大変有効なのである。
 もちろん短所もある。もともとブドウ糖が集まりやすい胃や肝臓、腎臓、膀胱、前立腺などにがんができても、PET検査での発見は難しい。それが正常な集積なのか、がん細胞があるせいなのか、判断しにくいからだ。またCTやMRIと比べると正常臓器の形が不鮮明で、がんの病巣が発見された場合、その正確な位置や形、大きさが掴みづらいという欠点もある。
 このようなPET検査の不得意な部分を補うため、通常はCTやMRIなど、他の検査と組み合わせた診断が行われている。特にPETとCTは、互いの弱点を補いあい、検査の精度を相乗的に高めるとされ、検査装置もここ数年で、PETとCTの機能を1台に兼ね備えた、PET/CT検査装置が主流になりつつある。PET/CTなら、PET検査とCT検査が一度で済む。受診者の負担が軽減されるうえ、PETの画像とCTの画像を、精緻に重ね合わせることができるので、より正確な診断が可能となる。

PET検査によるがん検診は有効か

 現在、がんのPET検査は大きく2つの目的で利用されている。1つは健康な人が任意で受けるがん検診としてのPET検査。もうひとつは、がんの疑いがある人やがんと診断された人が受ける精密検査としてのPET検査である。
 がん検診としてのPET検査は、かつて「がん発見の万能の検査装置」などと過大広告され、最近では逆に「見落としが多く、役に立たない」と“PETたたき”ともとれる報道がなされたこともあり、正しく理解されているとはいえない。
 PET検査施設におけるがんの発見率を見てみると、検診受診者のおよそ1〜3%にがんが発見され、そしてそのうちの7〜8割がPETで見つかっている(表1)。残りの2〜3割はPET検査では発見できなかったが、CTやMRI、超音波検査など、同時に行った他の検査でがんが見つかったケースである。
 しかしブドウ糖の代謝を捉えるPET検査では、臓器や組織の“形”を映し出すCTやMRIとは、まったく見方の異なった情報を得ることができ、実際にPET検査でなければ発見できなかったがんが、検診で数多く見つかっている。

がん検診では、PET単体の検査からPET/CT検査が主流に

 「PET検査には見つけづらいがんもある。PET単独の検査では不十分」というのが、専門医の共通した見解だ。日本核医学会のがん検診ガイドラインでもCT、MRI、内視鏡などの検査との組み合わせを推奨しており、現在70施設を超える全国のPET検査施設ではPET単体の検査からPETとCTを組み合わせたPET/CTによるがん検診が主流となってきている。
 PET/CTは、生体の機能をとらえるPETと、解剖学的な形態をとらえるCTの双方の長所を併せ持つ診断装置であり、診断精度の向上と検査時間の短縮がその特徴だ。装置の名称はPET/CTだが、PETとCTが全く同時に撮れるわけではない。その構造は、多くの装置の場合、まずCTで撮影を行った後、検査台(ベッド)がさらに奥に動いて、PETの撮影を行う。撮影後は放射線科専門医が、まずPET画像の読影を行い、疑わしいものについてCT画像および「CTとPETの合成画像(FUSION:融合画像)」をチェックする。
 PET/CTの特徴は大まかにいって、次の2つに集約される。

1. PETで見えない病変をCTで拾い上げることができる。

2. 解剖学的な位置情報を正確に把握することができる。(FUSIONで可能)

 1については、これまでバラバラに行われていたPETとCTの検査が1回の受診で済み、PETおよびCTの特性を生かした複合的検査が可能になったということである。がんのスクリーニング、すなわち、がん発見のためより正確性を増した検査装置。それがPET/CTと言える。

がんの精密検査で本領を発揮するPET検査

 PET検査は、実はがんの精密検査でその本領を発揮する。がんの精密検査とは、職場健診などでがんの疑いがあると診断された患者が、本当にがんが存在するかどうかを調べる。また、がんと診断された患者の広がりや治療後の再発・転移を確認するという2つの側面がある。精密検査に用いられるPET検査は、がん診療そのもの、つまり臨床に用いられる検査ということができる。
 がんの精密検査のために用いられるPET検査は、すでに昨年までに10種類のがんについて保険適用が認められていたが、今年4月の保険改定で新たに婦人科がんの子宮がんと卵巣がん、および食道がんの3つが加わり計13のがんについて健康保険の適用が認められた。(表2)。とはいえ保険証を持っていけば、すぐに保険でPET検査が受けられるわけではない。患者の状況に応じて主治医がPET検査を必要と診断しPET検査施設に検査を依頼し、はじめて検査が実施される。
 具体的にどのような点でPET検査が有用かといえば、主に次の3点が挙げられる。

1. 良性か悪性かを見極める
 CTやMRIなどの“形"を見る検査では、それだけでは良性か悪性(がん)か判断できないことがある。PET検査では、ブドウ糖を多く取り込む悪性の腫瘍の場合に明るく光るので、良性、悪性の鑑別を容易に行うことができる。

2. がんの病期(ステージ)を判定する
 がんの病期(ステージ)、すなわちがんがどの程度進行しているかの尺度は0〜?までの5段階に分類される。0・?期は臓器に限局している段階、?期・?期はリンパ節転移、?期は遠隔転移を生じた段階である。全身をくまなくスキャンできるというPET検査の利点が、このがんの病期診断でも発揮される。

3. 転移、再発の有無を確認する
 がんはどこに転移するかわからない病気だ。以前は手術で開腹するまで、がんがどのくらい広がっているかわからなかったが、PET検査であれば一度の検査で全身を確認することができ、あらかじめ治療方針を立てやすくなる。また再発がないかどうかを、定期的に検査する際にも役立つ。

 さらに現在、保険適用とはなっていないが、がん患者への治療効果を判定することにもPET検査は有用である。抗がん剤や放射線治療の効果は、がんの性質などによって個人差がある。そのため一定期間ごとに、その治療ががんに効いているかどうかを確認しながら、その後の方針を検討していく必要がある。がん細胞は、形が小さくなる前に活動性が先に低下するので、“形"を見るCTやMRIよりも、細胞の活動性(ブドウ糖の代謝)を捉えるPETを用いた方が、早い時期に治療効果の判定ができ、結果的により効率のいい治療を選択することができる。

専門医以外の医師、一般の人々がPET検査に対する正しい知識獲得を

 PET検査ががんの精密検査、すなわちがん診療に有用であることは、放射線科専門医、PET専門医(核医学専門医)以外の医師の間では、実はあまり知られていない。しかし、医療費の総額抑制を推進する厚生労働省が今年4月の保険改定でPET検査の保険適用を拡大したことは、PET検査のがん診療における有用性を認めたことの証左である。
 がん患者にとってPET検査は苦痛なく全身をスクリーニングし、がんの再発、転移を診断できる唯一の検査。これらの正確な診断をすることで、その後の治療方針の確認や変更がはじめて可能になるのである。
 我が国の死亡原因のトップとなったがん。3人に1人ががんで死ぬという時代に、PET検査は正しく活用すれば、がんの診断から治療、予後観察に至るまで、がんに立ち向かうための強力な武器となる。がん診療におけるPET検査の有用性、その正しい知識を獲得することが求められている。

PET(ペット):Positron Emission Tomography(ポジトロン・エミッション・トモグラフィー、陽電子放射断層撮影)の略称。
CT(シー・ティ): Computed Tomography(コンピュータ断層法)の略称。CTもX線を利用した画像診断法だが、X線検査が体を側面から撮影するのに対し、CTではコンピュータを使って、体の断面(輪切りにした状態)を画像化することができる。
MRI(エム・アール・アイ): Magnetic Resonance Imaging(磁気共鳴画像診断法)の略称。高磁場で人間の体に電磁波を当てると、体の組織を構成している水素原子が共鳴して、信号を発する。MRIでは、この信号をコンピューターで解析し、画像にする。磁力を利用するため、放射線被曝はない。CTでは見えにくい部位がよく見えたり、横断面だけではなく、あらゆる方向からの断面画像を撮影できるなどの利点がある。