読売新聞記事に引用されている国立がんセンターのデータは、2004年1年間のがん検診受診者3000名のうち、がんが見つかった人(がん陽性)の総数が150名。そのうちPET検診によってがんが見つかった人(PET陽性)が23名(総数の15%)というもの(表1)。総数の150名はPET検診を受診しているにもかかわらず、127名(総数の85%)については、PET検診ががんを見逃しているとの論旨である。しかし、このデータには同センターが有するがん発見の特殊な能力がその背景にある。 「国立がんセンターの症例は前立腺がんや早期胃がんなどPET検診では初めから検出が困難という症例が数多く含まれています。また、がんのエキスパートが精密検査のレベルで小さながんをみつける方針で行なった検査ですから、大腸がんや乳がんなどもかなり小さなものが含まれています。PET検診の信頼性を計る母集団としては特殊なデータと言わざるを得ません」。(獨協医科大学・村上先生) ちなみに民間医療機関が発表しているPET検診でがんが見つかる確率(PET陽性率)は、48%〜64%と高い数値を示している。
PETを含む総合がん検診で85%の見逃しはあり得ない 国立がんセンター がん予防・検診研究センター長 森山紀之 先生
研究者がデータを発表する時は、調査の対象・条件などといった背景をきちんと説明したうえで、議論をすすめます。国立がんセンターのホームページにも掲載しましたが、今回の報道は、それが不十分です。 「国立がんセンター がん予防・検診研究センター」設立目的の一つに、エビデンス(診断や治療の根拠)の蓄積があり、その中で「徹底的に検査を行ったら、どの位がんが見つかるか」というテーマに基づいて、最新の検査装置とがん専門医のエキスパート集団でがん検診を実施しました。いわば、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)級の診断医が集結したドリームチームで臨んだ訳です。ですから、今回の報道で取り上げられたデータは、かなり特殊なデータといえます。 胃がんを例にとると、都道府県の民間検査施設では、およそ1000人に1人見つかるのに対し、がんセンターでは100人に1人見つかります。これは、がん専門医が内視鏡を使い、なおかつ普通の検診ではやらない生検・組織診までやっているからです。 また他のがんに関しても、超音波やCT、MRIなどを相補的に組み合わせて検査した結果、検出されたがんの9割以上が早期がんという結果が得られました。これをPETのみの検査と比較すれば、相対的にPETの検出率が低くなるのは当然です。 しかし現在ほとんどのPET検査施設では、PET検診といっても最新のPET/CT やPETとその他の検査を組み合わせているので、「実際には85%見逃しは、あり得ない」ということを強調しておきたいと思います。
前列左から、 ● 武田病院画像診断センター長 林田孝平先生 ● 横浜市立大学医学部教授 井上登美夫先生 ● 会長 鳥塚莞爾先生 ● 獨協医科大学PETセンター長 村上康二先生 ● 兵庫医科大学核医学・PETセンター長 臨床核医学 臨床教授 柏木 徹先生 後列左から、 ● 東海大学医学部放射線科講師 高原太郎先生 ● 東天満クリニック院長 松村 要先生 ● 厚地記念クリニック院長 陣之内正史先生 ● セントラルCIクリニック院長 塚本江利子先生 ● 済生会中津病院PETセンター長 岡村光英先生 ● 日本医科大学放射線科講師 高木 亮先生 ● 京都大学医学部核医学画像診断 中本裕士先生
(新メンバー) ● 兵庫県立成人病センター診療部長 足立秀治先生