Transnasal Endoscopy.2007Nikkei Medical Online宮脇哲丸氏に聞く 出雲中央クリニック院長 経鼻内視鏡は胃内視鏡検査をより身近なものにした

経鼻内視鏡では、鼻腔内の痛みを
完全にコントロールすることが最も大切

宮脇氏 当院が経鼻内視鏡を導入したのは、2001年12月。その後、約2カ月のテスト期間を経て、2002年2月から実際の臨床で使っています。

 私は外科医で、外科では手術の前後や腸閉塞の治療などに、鼻からチューブを入れるのが一般的でした。実際、1980年代にはイレウス管を挿入する目的で、経鼻的にスコープを入れていました。

 当時、スコープの直径は8mmで、その周囲にゼリー状の局麻剤を塗って挿入していましたが、腸閉塞の痛みで唸っている患者さんが鼻の痛みを訴えるほど、つらくて痛いものでした。そこで、鼻腔の麻酔方法を工夫して、8%のリドカインスプレーを内視鏡に噴霧すると、痛みが軽減することが分りました。今から約20年ぐらい前のことです。したがって、経鼻内視鏡が開発された時には、これからの内視鏡検査の主流になると直感しました。

 手にした経鼻内視鏡スコープは、直径5.9mmという、極めて細いものでしたが、鼻に挿入するときの痛みをなくすことが、大きなテーマでした。腸閉塞の患者さんはお腹の痛みが強いので、少しぐらい鼻腔が痛んでも我慢できますが、何の症状もない患者さんにとっては、少しの痛みも非常に不快なものです。経口内視鏡による苦しみから解放するために開発された経鼻内視鏡が痛みを伴うようでは、何のために導入したのか分りません。

 そこで、挿入時の鼻腔内の痛みを完全になくすことを目標に、さまざまな試みを行いました。初めは丸めたティッシュや海綿、女性の生理用品などに麻酔剤を含ませて鼻腔に挿入しましたが、なかなかうまくいきませんでした。現在の前処置法が確立できるまでには、約1年間かかっています。

 スコープ挿入時における鼻腔内の痛みを完全にコントロールできれば、経口と比較して経鼻内視鏡は極めて苦痛の少ない検査になります。実際、経鼻内視鏡を行った患者さんにアンケート調査を行ったところ、93%の方が次回も経鼻内視鏡を望んでいました(図1)。

今まで内視鏡検査を躊躇していた人も
経鼻内視鏡の噂を聞いて
積極的に検査を受けるようになった

出雲中央クリニック 当初、経鼻内視鏡は、経口と比較して解像度が劣るため、胃癌の見落としが起こるのではないか、という意見もありました。そこで、当クリニックにおける胃癌の発見率を経口と経鼻で比較したところ、全く差はありませんでした。しかし、対象とした経口検査は1992年1月〜2002年1月までに行ったもので、経鼻検査は2002年2月以降に行ったものです。つまり、経口検査でハイリスクと指摘された人が経鼻検査を受けているために、経鼻による発見率が上がっている可能性があります。そこで、2年以内の再検査症例と定期フォロー症例を除外して再検討したところ、やはり胃癌の発見率には差がありませんでした。そして驚いたことに、早期癌の発見率は経鼻内視鏡の方が有意に高いという結果でした(図2)。

 そこでよく調べてみると、経鼻内視鏡で早期胃癌が見つかった37人のうち10人は、経鼻だから検査を受けたという人でした。つまり、この10人は経口検査だったら検査を受けていない人、もしくは進行癌で見つかる人で、この10人を進行癌に回すと、経口検査と経鼻検査の進行癌と早期癌の発見率がほぼ同じになります。

 つまり、従来の経口検査では受診しなかった方が、経鼻なら楽だと聞いて検査を受けたことが、早期癌の発見につながったといえます。経鼻内視鏡普及の有効性が、ここにあるのです。

受診者により優しい検査を提供するのは、
私たち医療従事者の大切な務めである

 経鼻内視鏡を導入してから、上部消化管の内視鏡検査件数は毎年約30%ずつ増加し、この5年間の増加率は約130%です(図3)。また、検査希望者の増加に対応するため、検査の単位数を増やすと、さらに受診者が増えますので、潜在的需要は極めて高いと思います。

 これは、レントゲン検査で再検査と言われたり、何となく体の具合が悪いので胃の検査を受けてみたいと思いながら、内視鏡検査は苦しいと聞いて躊躇している人がたくさんいるということにほかなりません。

 したがって、経鼻内視鏡を導入すれば初診患者が増え、さらに採血やCT検査など、そのほかの検査件数も当然増えますので、病院経営の効率は上がると思います。ただし、当クリニックは、大腸内視鏡がメインで、大腸内視鏡検査で見つかった病変は自院で治療していますが、上部消化管の病変は他の施設を紹介して治療を行ってもらいますので、当クリニックにおける経営的貢献は少ないといえます。

 経鼻内視鏡の導入においては、確実な前処置法を行うことが最も重要です。前処置法がすべてだと言っても過言ではありません。

 先に示した当院で開発した前処置法は、「スティック法」と呼ばれ、前処置法のスタンダードになっています。しかし学会などでこの方法を紹介すると、「こんな複雑な前処置を忙しい検査室ではやれない」、「もっと簡単な方法はないのか」といった意見が出ます。そこで私も1本のスティックで行う方法を考えたこともありました。しかしよく考えると、前処置法を簡単にする目的は、我々医療従事者の効率を考えてのことで、決して受診者のことを考えているわけではありません。そこで、たとえ私たちの効率が悪くても、受診者により優しい前処置を行うべきだと反省して、手を抜かないで2本のスティックを使う方法に戻したのです。

 もともと、経鼻内視鏡の開発には経口の苦しさを解決したいという目的がありました。だからこそ、その目的に沿って、受診者に優しい検査を行うのが、私たちの務めだと考えています。

図1 図2
図3

(日経メディカル開発)