黒澤明監督の往年の名画の一つに「酔いどれ天使」がある。代表作の「生きる」で余命幾許もない胃癌と宣告された平凡な市役所職員の哀感を見事に演じた志村喬と、同じく黒澤作品には欠かせない三船敏郎が丁々発止とやり合う。何をやり合うかと言えば、三船演ずるヤクザを襲った病魔をめぐってである。志村の役は場末の老開業医であるが、飲んだくれでいつも酒臭い息を吐き、髪も髭もぼうぼうに伸び放題、白衣は何日も、いや何年も洗ったことがないかのように、薄汚れてクシャクシャである。当然、患者は寄り付かない。

ログインして全文を読む