救急医はアツい人が多い。そして明るい人が多いというのが岩田の私見である。今先生も例外ではなく、やはり熱くて明るい御仁だった。初めてお会いしたのは沖縄で開催されたERアップデートという研修医向きの救急医学セミナーで(なんで僕が呼ばれたのかは未だに不明だが)、福井大学の寺澤秀一先生、林寛之先生の両巨人や聖マリアンナ医科大学の箕輪良行先生といった、熱くて明るいそうそうたる面々の中で、今先生はまったく引けをとらないエネルギッシュなレクチャーで研修医たちを魅了していた。すごい人が八戸にはいるものだな、と感じ入った次第である。

 本書では、切った張った、待ったなしの救急医療現場において、今先生が八面六臂の活躍をされ、「劇的救命」を果たしていく姿が記されている。ここまでの内容なら、優秀な救急医の物語として、ありそうな、予見できそうな話である。しかし、本書がすごいのは「そこ」ではない。

 今先生は、医療過疎の東北、青森県の八戸市立市民病院の救急救命センター所長に赴任され、ここでドクターヘリ体制の確立を目指していく。いくら情熱があっても、医者としての技量に優れていても、システムを作るのは簡単ではない。ましてや金も人もかかるドクターヘリとなるとなおさらだ。

 そこで、政治的なネゴシエーションを重ね、アピールを繰り返し、様々な意図をもつステークホルダーたちと辛抱強く交渉していく。こうした努力が実を結び、ついに2007年にドクターヘリ法案は成立し、国からの財源を獲得。八戸市立市民病院にドクターヘリ体制が確立され、さらにはドクターカーも導入。24時間、365日のER診療がここで展開されていく。東日本大震災の被災地となった八戸だが、ここでも今先生たちの救急診療は本領を発揮し、遠く福島での放射線サーベイにも貢献する。

 一般に、スーパードクターの存在は、一般医療体制作りの阻害要因と考えられがちだ。「神の手」幻想に引っ張られると「普通の」医療者は退いてしまうからだ。しかし、僕はそうとは限らないと思う。今先生のようなスーパードクターは現状説明ではなく、未来のあるべき姿、そのビジョンを指し示す。それを類まれな行動力で具現化し、後進に未来に通じる道を指し示す。本書の表紙に映る若手ドクターたちの頼もしい笑顔に、それが具現化されている。

 救急診療や医療体制づくりに関心をもつ諸氏は、ぜひ本書を手にとってほしい。また、現行の医療に閉塞感を感じる諸氏にもぜひ読んでほしい。「できない言い訳」ではなく「できるための条件」をギリギリまで追求する熱き魂を、本書からわけてもらえるはずだ。

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青森ドクターヘリ 劇的救命日記
今 明秀
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今 明秀著 1500円+税 毎日新聞社
ISBN978-4620322810 B6判 256ページ