『小さな命が呼ぶとき』
監督:トム・ヴォーン
出演:ブレンダン・フレイザー、ハリソン・フォード、ケリー・ラッセル、ジャレッド・ハリス
公開年:2010年
時間:105分
販売元:ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント

 難病治療という、文字通り「アンメット・メディカル・ニーズ」をテーマとした映画であり、わが子2人の難病を治すため、新薬開発の事業を立ち上げる父親の物語である。米国のジャーナリスト、ジータ・アナンドの同名ノンフィクション(新潮文庫)が原作だ。アナンドは、ウォールストリート・ジャーナルの記者だけあり、欲しい薬を開発するという目標を達成するためのビジネス戦略や、米国におけるバイオテクノロジー産業の内情も分かり興味深い。原作のサブタイトルは「自分の子どもたちを救うために、どうやって父は、1億ドルの資金を集め、医学的業績を達成したか」。

 ハーバード・ビジネススクール出身で、大手製薬企業に勤めるジョン・クラウリー(ブレンダン・フレイザー)は、仕事も順調で夫婦仲もよい。3人の子どもたちを深く愛しているが、そのうち2人が難病ポンペ病(糖原病II型)を患っている。ライソゾーム病の一種であるポンペ病は糖を分解する酵素が欠損した遺伝疾患で、平均寿命は9歳といわれている。姉のメーガン(メレディス・ドローガー)は8歳の誕生日の直後、危篤状態に陥る。奇跡的に一命を取り留めたメーガンから、彼女が強い意志を持って生きようとしていると感じたジョン。安定した仕事を捨て、ポンペ病の権威であるロバート・ストーンヒル博士(ハリソン・フォード)と共に、治療薬開発のためのベンチャー企業を立ち上げる。

 当初、ロバートはジョンに対し、「子どもたちと時を過ごせ。そうできる間に」と話し、治療法のないことを認めていたが、次第にジョンと共に、治療薬開発に全力を投入していく。ジョンは、自らのビジネスセンスで資金難などの数々の難題を乗り越え、念願の臨床試験開始までこぎ着ける。しかし、臨床試験開始直前、ジョンらのベンチャー企業を買い取り、薬の開発主体となっていた大手バイオ企業から、ジョンの子どもたちは臨床試験の対象年齢から外れるため、投薬を受けられないと告げられる。そして、最後にジョンが取る行動がこの映画のクライマックスといえよう。

 ポンぺ病は、4万人に1人の割合で発症する希少疾患で、国内の潜在患者数は約300人といわれている。ただし、診断がついているのは80人弱にとどまる。筋力の低下、筋萎縮、歩行障害、呼吸障害が出現、人工呼吸器が必要になる。ジョンらが開発したのは、欠損した酵素を補充する酵素製剤だ。これまでの対処療法に取って代わり、ポンペ病を治療可能な疾患に変える治療薬だ。わが国でも厚生労働省の未承認薬使用問題検討会議での検討を経て、海外の承認後1年という速さで2007年6月に発売された。

 「難病の治療薬は市場性が高い」「患者は一生、薬を必要とするので高い収益性が期待できる」というジョンの言葉は重い。収益性が望めなければ製薬企業はアンメット・メディカル・ニーズに挑むこともないからだ。ちなみにジョンは現在も、米AmicusTherapeutics社の会長として、ポンペ病の次世代治療薬などの開発に取り組んでいるという。

column
ポンペ病はライソゾーム病の一種。2011年8月5日掲載の「新薬で変わる神経難病の治療」でも取り上げているのでそちらも参照されたい。ちなみに、ジョンらが開発したマイオザイムの国内薬価は50mgバイアル9万3994円。体重20kgの患児では薬剤費は1カ月150万円を超える。


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