東邦大学医療センター大森病院腎センター教授 相川 厚氏●1951年東京都生まれ。79年慶応大学卒。英国王立リバプール大学病院腎移植ユニットへの留学などを経て、2005年より現職。500例以上の腎移植を手掛ける。日本移植学会理事、日本臓器移植ネットワーク東日本実務委員長。(2009年10月現在)

─執筆のきっかけは。
【相川】臓器移植の意義や脳死の意味について、一般市民にまだまだ理解が得られていないと感じ、現場から声を上げるべきだと思ったのです。

 法改正が話題になったとき、メディアは「脳死の子ども」の事例を取り上げ、臓器提供に懐疑的な内容を報道しました。しかし日本移植学会で確認したところ、法的な脳死判定を受けたお子さんはその中に1人もいませんでした。判定を受けなければ厳密な脳死とは見なされず、臓器提供の対象にはなりません。そういった偏った報道が脳死や臓器提供への正しい理解の普及を遅らせている一因だと思います。

 医療職種の間でも、特に患者と接する機会の多い看護師の理解があまりないようです。その意味では、医療者にもぜひ読んでいただきたい本です。

─本書では病気腎移植についても触れられています。
【相川】移植学会で調査した中には、医師と患者の意思疎通が不十分のうちに腎臓の不要な摘出が行われ、ドナーとなったことを知らなかった方がいました。疾患のある人は治療を最優先すべきで、不要な摘出などあってはなりません。ドナーを大事にしなければ、移植医療の発展はないと思います。

日本の臓器移植 現役腎移植医のジハード
相川厚著 1575 円(税込み)、河出書房新社 ISBN978-4-309-24478-5 四六判、221ページ

─臓器移植法の改正で、今後臓器提供は増えていくのでしょうか。
【相川】15歳以下の小児でも、家族の同意があれば、脳死下で臓器提供を行えるようになったのは大きな変化です。今後徐々に臓器提供が増えていく可能性は高いでしょう。ただし、家族には脳死判定を受けることを拒否する権利が与えられています。強制的に臓器提供に応じなければならない、ということは絶対にありません。

 ただ、臓器提供の是非をご家族が決めるのは当然として、脳死判定についてはあくまで医療の一環だというのが私の考えです。法律の条文で細かく規定するのは、法曹界が医療界に必要以上に介入するようで不可解です。

─今後の課題は。
【相川】まずは市民の正しい理解を得るために啓発活動を行っていかなければなりません。また、ICUなどでもドナーとなった方の家族をケアできるような体制づくりや、移植コーディネーターの育成も急務です。(聞き手:黒原 由紀)


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