九大生体防御医学研究所主幹教授 中山 敬一氏●なかやま けいいち氏 1961年生まれ。86年東京医科歯科大卒。順天堂大大学院医学研究科修了(医学博士)。理化学研究所、米ワシントン大、日本ロシュ研究所主幹研究員などを経て96年から現職。(2010年12月現在)

─本書をまとめたきっかけは。
【中山】医学部を出てすぐに基礎医学研究の道に進む人材はほとんどいません。医学部の学生を刺激して研究者を志す若手を発掘したいと思い、研究室のホームページで自分の考えを発信していました。それが口コミで評判となって出版社の目に留まり、一般向けに加筆、修正を加えたのが本書です。

 自身の経験を基に、自分のために戦略的に生きることの重要性を説きました。

─医学部を出て基礎研究の道に進む人材がいないことに、強い危機感をお持ちです。
【中山】最近の医学生は将来に対して悲観的で、安全策を取りがちです。研究者になりたいと思っていても、皆まずは手に職を付けてからという意識で臨床に進んでしまいます。もちろん臨床向きであればいいのですが、中には研究向きの人材もいるはずです。

 昔は臨床の傍ら、基礎医学の研究室に通わせてもらい学位を取る医師が数多くいました。多くが再び臨床に戻っていきましたが、中にはそのまま研究者になる医師もいました。しかし、新臨床研修制度がスタートしてからは臨床現場の人手が足りず、若手の医師に研究をさせる余裕がなくなりました。

君たちに伝えたい3つのこと 仕事と人生について科学者からのメッセージ
中山敬一著 1500円(税込み)、ダイヤモンド社 ISBN 978-4-478-01262-8 B5判、253ページ

 現在、医学生に基礎医学を教える教員の多くは、農学部や理学部出身者で医学部出身者ではありません。医学教育の根本が危機に瀕しているともいえます。実際、基礎医学系の学会も深刻な事態だととらえています。

─「研究の道に進むなら、一刻も早く始めよ」が持論ですね。
【中山】臨床研修を終えてから研究を、という人がいますが、研修医としての経験は研究にほとんど役立ちません。その上、医学部を出てから定年までは約40年しかありません。実際に実験できるのは15年ほど。そのうち4〜5年を臨床で使ってしまうというのは、もったいないと思います。二兎を追っている暇はないのです。

 医学部教育は人体全体について理解を深める教育であり、それを踏まえて細胞や分子を研究することは意味のあることです。医学部を卒業し研究をすることは大きな強みを発揮します。ぜひ若い医学生や若手医師で志のある人はなるべく早く研究の道に進んでほしいと思います。 (聞き手:久保田 文)


セブンネットショッピング