神奈川大経営学部教授 常石敬一氏●つねいし けいいち氏 1943年生まれ。66年東京都立大(現首都大学東京)理学部物理学科卒。長崎大教授などを経て、89年より現職。専門は科学史。(2012年4月現在)

─本書を書かれたきっかけは。
【常石】日本の結核患者数は、戦後15年ほどで大幅に減少し、私が物心付いた頃、結核は過去の病気になっていました。それは、広くBCGの接種が行われるなど、日本の結核制圧政策が奏功した結果だと思っていました。

 しかし、よく調べてみると、ツベルクリン反応で結核感染の有無を調べにくくなるなど、BCGの接種にはデメリットもありました。また、BCGの予防効果に頼りがちな日本の結核制圧政策は、患者を見つけ出し治療することが基本となっていた米国の政策など、世界の他の国と比べてもかけ離れた部分がありました。簡単には評価できませんが、日本の政策は大成功とはいえないのではないかと考えたのが、執筆のきっかけです。

 特に興味を持ったのは、本土とは対照的な沖縄県における結核対策です。戦後、米軍統治下に置かれた沖縄県では、ほぼ返還前まで米国式の対策がとられており、BCGの接種が実施されていなかったほか、感染患者を見つけ出しては公衆衛生の担当看護師が在宅で患者を管理しつつ治療していました。その結果、戦前は日本の中でも高レベルだった沖縄県の結核死亡率が、戦後、本土より低くなりました。

結核と日本人─ 医療政策を検証する
常石敬一著 2835円(税込み)岩波書店 ISBN978-4-00-005325-9 四六判、222ページ

─現在の国内の結核対策についても疑問を持たれています。
【常石】1964年にWHOは、入院治療は不要で、外来で1年間3剤併用療法を行うといった結核対策を発表しています。しかし、こうした結核対策は“経済的に貧しい国を意識した勧告である”として、日本では取り入れられませんでした。今でも国内で結核患者が見つかると、隔離の上で入院治療を行うのが当たり前です。

 しかし、こうしたやり方には患者の自己決定権を侵害する面があります。医療費が限られ、急性期医療などの崩壊が叫ばれる中、旧来通りに隔離し、長期入院で治療を行う必要があるのかも疑問です。日本には、ひとたび体制が整備されると、時代の変化に対応することなく、体制がずっと独り歩きする悪習があります。医学的な効果とリスクを含め、メリットとデメリットをきちんと見直し、不要になった体制をなくしていくことも大切ではないでしょうか。 (聞き手:久保田 文)


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