「低血糖を起こさないことは不可能。重要なのは、実際に低血糖を起こしたときにどう対処したらよいのかを患者に分かりやすく指導すること」と、徳島大学糖尿病臨床・研究開発センターの黒田暁生氏は語る。

徳島大学の黒田暁生氏

 ここでは、黒田氏が1型糖尿病患者を中心に行っている患者指導を紹介する。その内容は2型糖尿病の事例と異なると思われがちだが、黒田氏によれば「1型糖尿病患者は治療に伴う低血糖リスクが高いが、患者指導の基本は2型でも同じ」という。

 黒田氏が低血糖に関する患者指導を行うタイミングは、HbA1c値が7.0%まで低下した時点だ。治療目標を「血糖コントロール」から「低血糖への対処」にシフトする。

 「『もうあなたは血糖を管理できるようになったので、今後は低血糖への対処を主眼に治療していきましょう』と説明する」(黒田氏)。

 このとき、まずは患者に「どれくらいの血糖値で低血糖を自覚できるか」を尋ねることが重要だ。

 一般に、血糖値が70mg/dL未満になると低血糖の自覚症状が出るとされるが、糖尿病の場合は患者ごとに異なるので注意が必要だ。例えば、血糖コントロールの悪い患者では、血糖値が120mg/dL程度でも、低血糖を自覚することがある。

 一方で、糖尿病患者は低血糖を繰り返すことでその閾値が徐々に低下し、低血糖を自覚できない「無自覚低血糖」に陥る。そのため、血糖値が50mg/dLでも低血糖を示す症状が出ず、30mg/dL程度になっていきなり昏睡などの重篤な症状が出現するケースもある。つまり、「最近、低血糖になっていませんか」との問いに対して、「なっていません」と患者が回答したとしても、安心はできないわけだ。

 また、1型糖尿病の場合、そもそもインスリン分泌抑制機構が働かないほか、グルカゴンの分泌量が常に高く、低血糖を回避するための生体防御機構が脆弱であるため、より低血糖への注意が求められる。無自覚低血糖になった場合には、血糖値を70mg/dL未満にしないことを目標に治療を行えば、その状態を脱することができる。

糖質1gで血糖値は5mg/dL上昇
 具体的な低血糖時の対処法として、(1)1gのブドウ糖で血糖値は5mg/dL上昇する、(2)低血糖時の血糖値に応じた糖質摂取を行う─の2点を患者に覚えてもらうようにする。

 低血糖時に血糖値に応じた糖質摂取を行う際、血糖自己測定(SMBG)が必要になるが、SMBGは±15%程度の誤差があり得る点も説明することが重要だ。例えばSMBGで80mg/dLだった場合、65〜95mg/dLの可能性がある。

 そこで、(1)血糖値61〜80mg/dLならば糖質5gを、(2)血糖値60mg/dL以下ならば糖質10gを摂取するよう指導する(表1)。補食後、15分後に再度SMBGを行い、血糖値が80mg/dLを超えるまで繰り返す。

表1●低血糖時の対処法の原則

 補食の形状として、固形は持ち運び性に優れるが、速やかな血糖上昇を求めるのであればジュースなどの液体が望ましい。特に糖尿病患者では、胃腸運動障害を併発していることが多く、糖質を摂取してもなかなか血糖値が上昇しないケースがある。

 液体の種類としては、ジュースやスポーツ飲料など何でもよいが、「糖質ゼロ」と書かれた飲料は避ける。

 なお、チョコレートやソフトクリームなど脂質の多いものは、血糖値が上昇しづらい上に高カロリー食であり、さらに脂質は胃の動きを悪くさせるので避けるようにする。