ジペプチジルペプチダーゼ(DPP)-4阻害薬の発売直後の10年に糖尿病専門医から成る委員会が出した「インクレチンとSU薬の適正使用について」では、DPP-4阻害薬とSU薬を併用する場合、SU薬の投与量は最高投与量の3分の1から8分の1以下にすることが推奨された。

 野田氏は、「DPP-4阻害薬との併用投与時はもちろん、単独かつ少量の投与であっても、SU薬を投与したら低血糖を起こす可能性があると考えるべき」と指摘する。

 では、どのような背景因子を持つ2型糖尿病患者が重症低血糖を起こしやすいのだろうか。野田氏は、(1)腎機能低下、(2)肝機能低下、(3)70歳以上、(4)SU薬の投与、(5)かぜなどで通常の食事が取れずエネルギー摂取が低下したとき、(6)重篤な全身疾患の合併時、(7)過量の飲酒後、(8)運動中や運動後、(9)食事や運動により体重や脂肪組成が減少したとき──などを挙げる。

 運動や体重(内臓脂肪)の減少が重症低血糖のリスクとなるのは、これらによってインスリン感受性が改善するためだ。特に運動後は半日以上たってから低血糖が起こることがあるという。

低血糖と心血管リスクが関連
 患者自身での対応が困難な重症低血糖であっても、医学的介入が適切に行われれば、多くの場合は後遺症を残さず回復する。また、現在の治療において、厳格な血糖管理と低血糖のリスクは、いわばトレードオフの関係にあることも事実。

 そのため、特にインスリン以外の経口血糖降下薬による治療が中心となる2型糖尿病では、低血糖はあまり深刻な問題として捉えられていなかった。だが近年、重症低血糖は心血管疾患のリスクを上昇させて、患者の予後を悪化させる因子となることが分かってきた。

 その端緒となったのが、心血管リスクが高い2型糖尿病患者を対象に、厳格な血糖管理を行うことで心血管イベント予防が可能かを検証しようとしたACCORD試験だ。08年に厳格血糖管理群で総死亡が増加したことが判明し、試験の一部中止が発表された。総死亡増加の理由として、重症低血糖との関連が疑われた。

 そこで、国立国際医療研究センター研究所糖尿病研究部の後藤温氏らは、2型糖尿病の重症低血糖と心血管リスクとの関連について、論文の系統的レビューとメタ解析を行った。

 まず「低血糖」「2型糖尿病」「心血管疾患」というキーワードで網羅的に論文を検索し、3443件を抽出。そこから、低血糖と心血管疾患リスクの関連を見ていない研究、2型糖尿病患者が対象でない研究などを除外したところ、最終的に6件の研究(患者数90万3510人)が対象になった。2件は2型糖尿病患者に対し血糖の厳格管理で心血管イベントが抑制されるかについて評価したランダム化比較試験の2次解析で、残り4件は後ろ向きコホート研究だった。

 メタ解析の結果、重症低血糖を起こした2型糖尿病患者における心血管疾患の相対リスクは、2.05倍(95%信頼区間 1.74-2.42)に上昇していた。

 後藤氏は、併存する重篤疾患(重症肝障害や慢性腎不全など)が交絡因子になった可能性についても検討。臨床的に想定できる範囲で重篤疾患の存在を考慮しても、重症低血糖は心血管疾患と相関関係があることが確認された。これらの結果から、重症低血糖は心血管イベントの原因の一部を担うものであることが強く示唆された。

 重症低血糖によって心血管リスクが上昇した背景因子としては、重症低血糖時の重度の高血圧、QT延長、電解質異常などが考えられている。先に紹介した辻本氏らの検討では、重症低血糖時において2型糖尿病患者の38.8%が重度の高血圧(収縮期180mmHg、拡張期120mmHg以上)だった。またQTcが0.44秒以上のQT延長が59.9%、低カリウム血症(3.5mEq/L未満)が36.3%となっていた。

 野田氏は、「一口に糖尿病患者と言っても、境界型に近い人、血糖値の高い人、合併症が著しい人などさまざまで、同じ薬剤でも効きやすさは個人ごとに異なる。重症低血糖を起こしやすい患者像を理解した上で、個々の患者の病態に応じた処方を行い、低血糖を回避してほしい」と話している。