東京医科大学の山科章氏

 動脈硬化性病変を評価するには、形態(プラーク)と血管機能不全という2つのアプローチがある。前者については血管CTやMRA、血管内超音波検査といった画像診断の進歩により、かなりの情報が得られるようになった。一方で後者については、幾つかの検査法が提唱され日常診療への導入も始まっているが、測定手技の標準化、結果の解釈、臨床的意義などに関する評価の確立は、まだこれからという段階だ。

 このような現状を踏まえ、東京医科大学循環器内科教授の山科章氏を班長として、「血管機能の非侵襲的評価法に関するガイドライン」が策定された。

 山科氏は「現時点での知見をまとめることで、医師が各検査をツールとして適切に活用して、動脈硬化性疾患の早期の治療や予防に積極的に取り組めるようにすることを目的とした。同時に、国民に対する血管機能障害という概念の普及も目指したい」と語る。

 ガイドラインでは代表的な血管機能検査法を幅広く取り上げた(表1)。この中には、わが国が研究や機器の開発で世界をリードしているものも多い。まず検査法ごとに、概要、血管機能検査としての特徴と問題点、その有用性を生かせる病態を解説。

表1●ガイドラインが取り上げている主な検査法

 次いで病態編として、(1)高血圧、(2)糖尿病・メタボリックシンドローム、(3)脂質異常症、(4)慢性腎臓病、(5)冠動脈疾患・心不全、(6)大動脈疾患・末梢動脈疾患(PAD)─という項目を立て、それぞれの疾患の予防や治療における各検査の有用性、問題点をまとめている。

診療や指導時の指標となる検査に

 例えば血流介在血管拡張反応(FMD)では、血管内皮細胞由来の一酸化窒素(NO)による血管拡張反応を測定する。重要な血管内皮機能の1つであるNO産生の低下は、動脈硬化の一連の病態の中では最も初期の変化とされる。既にFMD値と冠危険因子や頸動脈内膜中膜複合体厚(IMT)などとの関連が報告されており、小規模な研究ではFMDの改善によって心血管イベント発症リスクの低下も認められている。今後は測定法の標準化や基準値の明確化、診療指標としての位置付けなどについての検討が必要という。

 また、足関節上腕血圧比(ABI)が0.9以下であれば、PADの存在が疑われる。近年の研究によりABIが1.0を切った段階から、冠動脈を含めた全身の血管の動脈硬化の進行によって、心血管イベントのリスクが上昇することが分かってきた。

 ところが日常診療では、ABI低値だけで虚血性心疾患を疑わせる症状がない場合、全身の血管の精査や危険因子への治療的介入はあまり積極的に行われていないのが現状だ。一方で米国のPADに関するガイドラインでは、65歳以上なら全例、50歳以上でも糖尿病や喫煙歴があればABIを測定して、適切な介入を行うことを求めている。この基本的な考え方は、わが国でも変わらないはずだ。山科氏は「動脈硬化性疾患の予防や早期診断に取り組む上で、本ガイドラインの果たす役割は大きい」と話している。