2011年3月11日の東日本大震災は、死者行方不明者1万8000人余りという大きな被害を出した。

 寒冷な時期の発生だったこともあり、避難所に移った被災者からの循環器疾患の発症も多く報告された。避難所では厳しい生活環境によるストレスだけでなく、常時服用している薬剤や「お薬手帳」の紛失による服薬中断も、循環器疾患発症のリスクとなった。

 これを踏まえ日本循環器学会では、日本高血圧学会、日本心臓病学会と合同で、「災害時循環器疾患の予防・管理に関するガイドライン」(班長:東北大学循環器内科教授の下川宏明氏)の作成に着手した。未曾有の大災害での経験を集積し情報を共有することで、近い将来に発生が予想される大地震に備えることが目的だ。

 本来、診療ガイドラインとはランダム化比較試験などのエビデンスに基づき推奨の強さが決まる。ところが震災という非日常的な状況下での対応に関して、そのような評価を行うことは不可能だ。そこで今回は、災害医療の専門家や震災を経験した医師が持つ知識をまとめ、循環器疾患の診療に携わる医療関係者が取るべき備えを提言する形となる。

 ガイドラインはまず総論で、災害と循環器疾患の関連について、これまでに報告されている知見をまとめる。具体的には、災害による循環器疾患増加の機序、ストレスと循環器疾患との関連、環境因子としての避難所の環境や睡眠障害、常用薬不足時の対応などだ。次に各論として、心血管リスク評価や緊急時の診療といった被災者への対応法に加え、心不全や急性冠症候群、突然死、たこつぼ型心筋症、不整脈、クラッシュ症候群、脳卒中、高血圧、深部静脈血栓症などに関して、予防と管理という視点から解説する。

 さらに、薬剤データの保存や薬剤の備蓄、災害時の在宅医療の支援、避難所の環境といったシステム論にも言及する。ガイドラインは今年度中に発表される予定だ。