札幌医科大学の島本和明氏

 「日本の高血圧患者は約4300万人と推計されている。この非常に多い患者を実際に診療する実地医家の先生方が使いやすいガイドラインを作ることを目標にした」と、日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会の委員長を務めた札幌医科大学学長の島本和明氏は語る。

 4月1日に発刊された「高血圧治療ガイドライン2014(JSH2014)」には主な変更点として46のポイントが示されている。ここでは注目の変更点として、(1)家庭血圧を優先した、(2)降圧目標を一部変更した、(3)糖尿病合併患者の目標は緩和しなかった、(4)第一選択薬が4種類に減少した─ことなどを取り上げる。

家庭血圧を診察室血圧より重視

 血圧測定に関しては、家庭血圧を診察室血圧より優先することを明確に示した。これは、家庭血圧の方が予後予測能は高いことや家庭血圧計が広く普及していることなどを踏まえたもの。このように家庭血圧をより評価している点は欧米のガイドラインと異なる。これに伴い、高血圧診断の手順を新たに提示した(図1)。

図1●血圧測定と高血圧診断手順
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 自由行動下血圧測定(ABPM)は、必要に応じて行うことは臨床上重要なこととしつつも、装置が高価であることや患者の精神的・肉体的負担が大きいことなどを踏まえ、高血圧診断の補助的手段に位置付けている。家庭血圧が135/85mmHg前後で変動し判断が困難な場合、夜間血圧の測定が必要な場合などを主な適応として挙げている。

 家庭血圧の測定回数はこれまで1機会1回以上(1〜3回)と幅をもたせていたことから、改善を求める意見があったという。また、初回の測定値は2回目以降の測定値より高いのが一般的であり、1機会に複数回測定する患者が多くいた。これらを考慮し、1機会に原則2回測定し、その平均を取ることにした。1回しか測定しなかった場合は、その値を用いることも明記した。

後期高齢者の目標は150/90未満へ

 降圧目標も一部整理し、若年・中年患者では140/90mmHg未満に引き上げた(表1)。以前は高血圧の診断基準が140/90mmHgだったにもかかわらず、降圧目標は130/85mmHg未満とされていた。仮に130〜140mmHgに収縮期血圧が下がった場合、基準は満たさないのに目標は未達成という矛盾が生じており、その解決を図った。厳格な降圧目標設定のためのエビデンスが不十分であることも、引き上げの理由の1つだ。

表1●降圧目標

 前期高齢者の降圧目標は据え置いたが、臓器障害を伴っているケースが多い後期高齢者は150/90mmHg未満に引き上げ、忍容性があれば140/90mmHg未満を目指すことになった。すわなち、重要臓器で血流障害を来さないよう症状や検査所見の変化に注意しながら、最終的に140//90mmHg未満を目標に治療することを求めている。

 それに対し、糖尿病患者や蛋白尿陽性の慢性腎臓病(CKD)患者の目標は、引き続き130/80mmHg未満とした。糖尿病を合併した患者の場合、欧米のガイドラインでは近年緩和する方向だったが、日本では厳格な管理目標を維持することになった。その理由の1つは、ACCORD-BP試験において厳格降圧群(目標収縮期血圧120mmHg未満)では通常降圧群(同140mmHg未満)に比べ脳卒中が41%有意に減少したため。脳卒中の発症率が高い日本では、脳卒中よりも心筋梗塞が多い欧米とは異なり、脳卒中の発症予防に重きを置いたエビデンスの解釈を行ったわけだ。

 また、降圧目標の設定基準が複数ある患者では、高い方の基準を目指すことになった。例えば、後期高齢者が糖尿病を合併していれば、150/90mmHg未満が目標となる。

β遮断薬は積極的適応例に処方

 薬物療法における大きな変更点の1つが、第一選択薬を「積極的適応がない場合の高血圧に最初に投与すべき降圧薬」と明記し、Ca拮抗薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、利尿薬の4種類を提示したこと。これを踏まえ、積極的適応がない場合の高血圧治療の進め方を新たに提示した。

 最初は「ARB、ACE阻害薬(A)」「Ca拮抗薬(C)」「サイアザイド系利尿薬、サイアザイド類似薬(D)」のいずれかで治療を始める。単剤で十分な降圧が図れなければA+C、A+D、C+Dのいずれかの組み合わせに変更し、それでもコントロール不良な場合はA+C+Dの3種類の薬剤を併用するという、段階的な治療方針を示している。3剤併用でも対応できない治療抵抗性高血圧に対しては、これら3剤にβ遮断薬かα遮断薬、アルドステロン拮抗薬を追加し、さらに他の種類の降圧薬を検討することになる。

 β遮断薬は第一選択薬ではないが、心不全、頻脈、狭心症、心筋梗塞後に積極的適応があると位置付けた。また、内因性交感神経刺激作用(ISA)を有さないβ遮断薬は心筋梗塞の再発防止や心不全の予後改善効果が期待できると明記している。

 近年相次いで発売されている配合剤は、服薬アドヒアランスの改善や医療経済的なメリットは認めつつも、第一選択薬には採用しなかった。その理由として、保険診療上はファーストチョイスにすることが認められていない点や、用量が固定されているので降圧の程度をうまくコントールできないリスクなどを挙げている。

 CKD患者における降圧目標と第一選択薬は表2のように整理した。糖尿病を合併している場合は蛋白尿の有無にかかわらず130/80mmHg未満を降圧目標とし、RA系阻害薬(ACE阻害薬、ARB)が第一選択薬となる。また、合併していない場合、軽度蛋白尿(0.15g/gCr)以上が認められれば糖尿病合併と同じ扱いで治療を行う。一方、それが認められなければ140/90mmHg未満を目標に、RA系阻害薬、Ca拮抗薬、利尿薬を第一選択薬とする。

表2●慢性腎臓病患者における降圧目標と第一選択薬

 脳血管障害を合併した症例については、以前は具体的な数値を明示していなかった降圧目標などを記載した。また、超急性期、急性期、亜急性期、慢性期の4つに分け、降圧治療対象や降圧目標、使用する降圧薬をそれぞれ示した。慢性期は脳梗塞、脳出血、くも膜下出血のいずれも収縮期血圧140mmHg以上を治療対象とし、まず140/90mmHg未満を目指す。ただし、両側頸動脈の高度狭窄や脳主幹動脈の閉塞が判明している場合は下げ過ぎに注意を促している。脳出血、ラクナ梗塞や抗血栓薬併用の患者では、さらに低い130/80mmHg未満を努力目標に設定した。

患者用ガイドラインは10月発刊予定

 JSH2014の特徴として、他の学会のガイドラインとの整合性を取ることも重視した点が挙げられる。基本的な内容が一致していないと、異なる基準や治療目標、治療法などが混在し、現場に混乱を来す恐れがあるからだ。そのため、日本循環器学会や日本糖尿病学会、日本腎臓学会など関係する14学会の専門医がリエゾン委員として参加し、ガイドライン作成に携わった。

 JSH2014の英語版も4月に公表した。今年10月には文献集やダイジェスト版、患者用ガイドラインも発表する予定だ。島本氏は「ガイドラインが発刊されたばかりだが、より良いものにするため、次の改訂に向けてのコメントや意見を学会までぜひ寄せてほしい」と語る。